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番外編 酒の席での話


入学からしばらくして俺が担当するクラスの生徒たちの評価が完了した。


他クラスと違い一癖二癖あるような才能の持ち主や成績優秀者の集まるAクラスだからかなり苦労した


「やっっっっっっと終わったぁ…もう残業は嫌ですぅ……」


副担任のマリーが机に突っ伏して魂が抜けてる


無理もない。評価のために一人一人授業中も休み時間も寮で過ごしている時間も生徒に張り付いて観察しなきゃいけないんだ。


一部は寮母なんかに任せてるとはいえ

家にも帰れず24時間働いてるようなもんだ


「早くお家に帰ってあったかいお風呂に浸かりたい…もう共用のシャワーだけは嫌ですぅ……」


「確かに、ずっと仮眠室の硬いベッドで寝てたから体がガチガチだ。だがそれより酒が飲みてぇ……ずっと学園内にいなきゃいけなかったせいで一滴も飲めてねぇ」


「あぁ〜いいですねぇ……商業区の『トリ様々』に久々に行きたいですぅ…」


「なんだその店?」


「えぇ〜先輩知らないんですかぁ?王都で大人気の鳥料理のお店ですよぉ

ランチも美味しんですけどぉメインはやっぱりディナータイム!

肉汁溢れるニンニクとスパイスが効いたフライドチキンにかぶりつき

それを冷えたエールで流し込む!!これ以上の幸福を私は知りません!」


「あー……クソッ聞かなきゃよかった腹減ってきた

休みの日に行ってみるかぁ」


「あっ!じゃあ今から二人で行きません?」


「んー…正直悩ましいな……早く帰って眠りたい気持ちもあるが今の話を聞いて飲みに行きたい気持ちもある……」


「今日は平日ですし、今の時間ならあんまり混んでないから待たずに入れますよぉ?」


「そうかぁ……そうだな。いくか!」


「やっったーー!そうこなくっちゃ!

もちろん…この可愛い可愛い後輩に奢ってくれますよねぇ?」


キラキラした上目遣いでねだりやがって

やだって言ったら面白い顔しそうだが

あんな話を聞いた後だ早くこの乾いた体にエールと肉を流し込みたい。


「あんま高いの頼むんじゃねぇぞ…」


「いえーい!先輩すきぃ〜!」


調子のいいやつだ





酒飲みで賑わう店内

他の席の音から離れた奥にある個室席にて


「あのー……先輩?私ぃ……確かにここに行きたいって言いましたけどぉ……どうして二人っきりなのに個室なんですか……?」


「ちょうどお前に話したいことがあってな

他のやつに聞かれるのもよくないからここにした」


お通しのつまみをエールを流し込みながら答える


「……⁉︎だめです!だめですよ先輩!!

いくら私が可愛い可愛い後輩だからって個室に連れ込んで酔わせてあんなことやこんなことをしようだなんて!!せめてもっとロマンチックな場所でお願いします よ゛ッ!!」


クネクネ体をうねらせながら戯言をほざくマリーを1発どついて本題に入る。


「お前…クラスの奴らで気になるやつはいたか?」


「⁉︎やっぱり私のことをそういう目で見てたんですね!!クラスの男子たちに私をけしかけるつもりなんでしょうえっちな物語みたいに!!えっちな物語みたい に゛ッ!!」


2発目の拳で黙らせる。


店員が気まずそうに料理をテーブルに並べ終わった頃に再度仕切り直す


「お前もわかってるだろうが今季のAクラスは異常だ。本来Aクラスの平均評価はB

クラスの一部のやつがAランクなら上出来なくらいだ」


殴られた場所を撫でながらマリーが頷き同意する


「だが今季は違う。クラスのほとんどの生徒がSランクなうえにBランクがほとんどいない。

学園設立以降初めての状態だった。」


自分の分の料理を取り分けながらマリーが返答する


「でもSランクっていってもほとんどの子が

特殊Sランクで実力自体はAかBレベルの子たちばっかりだしそんなもんなんじゃないですか?」


そもそもランクは

勉学のテストの成績、授業態度

実技の魔法の精度、威力

素行の良し悪しの3つの評価の合計の平均がランクとなる。

最高ランクのSから最低ランクのDで評価し

それによって授業内容などを決めるのだ


そして特殊Sランクは

いわゆる何か突出した才能、能力、スキルを持った者に与えられるランクで

仮に勉強があまりできず魔法も苦手であっても特別な何かがあれば評価をSと見なすことができる。


例えば貴族たちの持つ血族の者にしか扱えない『血統魔法』もこれに当てはまる。

だから貴族が入学すれば必然的にSランク扱いになりAクラスに編入されることになる。


「だが今のAクラスは貴族はたった4名。

16人いるクラスのうちわずか4分の1

だがSランクの人間が貴族以外に6人もいる。

これは流石に想定外だ」


「Sランクの子たちみーんな個性的ですもんねぇ〜」


かばんから生徒たちの評価一覧を取り出してテーブルに置く


「ちょっと!生徒の個人情報でもあるんですからこんなとこで出さないでくださいよ!」


「だから個室にしたんだろうが。」


むぅとやや不服そうな顔をしながらエールをちびちび飲むマリーを尻目に話を続ける。


「俺はやはり特殊Sランクの佐藤アルトが気になる。」


「あぁ〜アルトくん!彼すごいですよねぇ

彼の実技の授業みて学園長が目玉飛び出しそうになってましたもんねぇ!」


「運動能力、戦闘試験、武器の扱い、魔法の精度と破壊力は学園どころか他の国を探したって見つからないくらいダントツだからな」


「ファイアーボールって言いながら身長の2倍はある火の玉飛ばされた時は私死んだと思いましたよ〜…いやほんとに。それで本人は『なにかまずいことやっちゃった?』って態度だもんなー」


煮込み料理を頬張りながらあの時はーまたある時はーと愚痴が止まらないマリーを制する。


「話を戻す。あいつはまさにSランクに相応しい力を持っている。たが他がてんでダメだ」


「あー…アルトくん勉強ダメダメですもんねー…たまに授業中に寝てるし、真面目にノート書いてるなぁーって思ったら落書きだし」


「おまけに放課後や休み時間に幼馴染の佐々木マイやクラスメイトの柊木マキともしょっちゅうトラブルを起こしていると聞く」


「アルトくんモテモテだもんねぇ〜

そういや柊木マキちゃんも特殊Sランクでしたね。なにか通じ合うものがあるのかなぁ?」


「柊木マキは戦闘技術や魔法の精度破壊力などは他に劣るが諜報技術や観察力などは群を抜いて優秀だ。なにより嘘か事実かを判別できるスキルはあらゆるところで重宝する能力だ」


「あの子「彼氏は?」とか「結婚願望はある?」とか根掘り葉掘り会うたびに聞いてくるから少し苦手ですぅ……」


「そういう性分なんだろう。だからこそ明らかにイレギュラーである佐藤アルトに目をつけたってとこだろ」


「アルトくんといえばミラーくんとユズちゃんも彼を気にしてましたね」


ミラー=ハルトマンと小々森ユズか


ミラー=ハルトマンはこの国の騎士団長である

ブレイ=ハルトマンの子息

騎士団長である父に似てか剣術はクラス内でもトップクラスに長けており

一子相伝の剣技を評価し特殊Sランクとなった


小々森ユズは運動面は壊滅的に才能がないが

勉学においては並の教師では歯が立たないほどの知識量を持っており

類稀なる錬金術の才能を評価し彼女も特殊Sランクとなった


「多分 実技授業が原因だろうなハルトマンはアルトに得意な剣術で敗北したからな

小々森は錬金術の授業でアルト一人だけがハイメタルを錬成してたのが気になるんだろう」


「金より貴重なハイメタルなんて錬成されても扱いに困るから正直やめてほしいですけどねぇ……」


「佐藤アルトに絡んでいたやつといえば

あとはAランクのレビィ=ビンセントか」


レビィ=ビンセント

ビンセント家長男で魔法、勉学ともに

平均以上の成績を収めているが

素行についてはあまり良いとは言えず

平民を見下したり、家の権力を傘に横暴な態度が見受けられる。


「口を開けばビンセント家長男であるこの僕に楯突く気か!だからうんざりしちゃいますよぉ

彼女の高橋さつきちゃんも感化されてきたのか最近キツい性格になってきてるしぃ」


「ビンセント家は黒い噂の絶えない貴族だからな目をつけられないように宥めるしかない」


「アルトくん大丈夫かしら?貴族に目をつけられて厄介なことに巻き込まれないかなぁ?」


「あれは大丈夫だ。能力が唯一無二と言っても過言じゃないレベルだからな

国王にも情報がきてるだろうから

ちょっかいかけて敵に回したくないだろうし

それこそ他国にでも行かれたら大損失だからな

下手なことはしないように牽制されてるだろ」


あははと笑っていたマリーがチキンを食べていた手を止めて少し俯く


「…?どうした?」


「気になる奴はいるかって聞いたじゃないですか?…私……氷動レイドくんのことが気になるんです」


氷動レイド

平民出身で入学生代表に選ばれるほど優秀な成績を収めているが

突出した才能は見られずSランクではなく

全評価でAランクとなっている。

純粋に優秀な生徒という印象だ。


「確かに優秀な奴だと思うが

Sランク共に比べると見劣りする……何かあるのか?」


「いえ……えっと…なんて言えばいいんでしょう…彼……怖いんです…」


「怖い?何かされたのか?」


「いやそうじゃなくって……なんていうか…

違和感って言えばいいのかな?人形みたい?

っていうか……なんて例えたらいいのかわかんないんですけどぉ…」


フォークをクルクル回しながら考えをまとめようとしている


「えっとアルトくんってたしかにすごい力を持ってると思うけどそれと同時になんか子供っぽいっていうか人間離れしてるのに常識を気にしたりしてて…人間味?っていうのを感じるんですよ」


わからなくもない

たしかに佐藤アルトは超人的な能力を持っているが

教師の説教を本気で怖がったり

うっかり物を壊したらオーバーなくらい謝ったりと

力を持っている者特有の傲慢さのような物を感じさせないなにかがある


「それに対して氷動くんはぁ……

闇?って言えばいいのかな?

別に常に無表情ってわけでもないのに

なんか冷たさを感じるっていうか…

全てどうでもいいって一種の諦めみたいなものを感じるというか…こんなこと生徒に言っちゃいけないですけど…気味が悪いって感じちゃうんです…」


氷動なぁ…

言われるまでただの生徒の一人程度の認識だったが


あたらめて考えてみれば

筆記テストは常に満点

実技授業も毎回そつなくこなしているのは

十分異常か


現に特殊Sランクたち蔓延るクラスの中で

総合成績で1位なのは常にあいつだった


噂じゃ成績2位の椎名まゆみを一撃で倒したなんて噂があったが……実は真実だったりするのかもしれないな…


ったくよぉ一介の教師である俺にこんなこと

頼むんじゃねぇよ…


残ったエールを一気に飲み干し

チキンにかぶりつきながら国に提出する生徒たちの調査報告書と睨めっこする。

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