5.5話 お嬢様 ぶっ壊れる
胸の高鳴りが止められなかった。
戦いに負けた悔しさから?
戦った直後の興奮状態だから?
平民に負けた羞恥心から?
わからない
初めての感覚でどうしたらいいのかわからない
似たような感情を感じたことがある
ペットである犬のベンが戯れてきた時
初めて弟ができてお姉ちゃんになった時
胸の奥がじわっとあったかくなるような感覚
でもこれは少し違う
胸の奥から炎で焼かれてるような熱さを感じる
熱い 痛い 苦しい
身体が内側から溶けてなくなってしまうのではないかと思うほど
なのに喜びを感じている
この感覚が心地よく感じている
この矛盾した気持ちはなんなんだろうか?
彼は入学生代表に選ばれた
つまり成績上位者が入れるAクラスにいるはず
もう一度彼に会おう
会って確かめるんだ。この気持ちの正体を。
Aクラスにて
あれ?あれあれあれあれ?戦っていた時は気づきませんでしたが
え?まってまってまってまってまってまって
え?
かっこよくない?かっこよいよね?
え?ちょーかっこよくない?彼?
うーわ。えー
タイプですわー どタイプですわー
もし彫刻だったら屋敷を売り払ってでも買ってましたわー
何度見ても絵画のような美しさがありますわよ?
一生見てられますわね
…いけない。落ち着いて。
今はこれからの学園生活について先生が話されてる途中ですわ。真面目に話も聞けないだなんて貴族令嬢の恥ですわよ。
深呼吸して。
すー…はぁー………よし。落ち着いた。
私は椎名まゆみ
椎名家長女にして最高傑作とまで表された女
ただ強くてハンサムでツンツンしててイケメンでイケメンでイケメンなだけの平民なんかに
気を取られていてはいけませんわ
さぁ集中して話を聞くのy
あっ♡横顔もいい…
けれど彼は私に興味を示してはくださらなかった。
私が話しかけた時も戦いに敗れた時も
私に一言も言葉をかけてはくださらなかった。
ただ足元の小石を蹴り飛ばすように私を倒しただけ。
私のことなど眼中にないのですわね。
いやだ。そんなのいやだ。
苦しい。辛い。さっきまでとは違う感覚だ
心臓を誰かに握りつぶされてるような
どうしようもなく寂しい気持ちでいっぱいになり
まるで宙に浮いているような浮遊感に襲われる
ここまで考えてようやく答えが出た
彼が好きなんだ
生まれて初めて一目惚れしたんだ
心の底から欲しい恋しいそう思える存在に出会えたんだと
それと同時にそれが私の手の届かないところにいることが堪え難いくらいに辛かった
どんなに欲しても手に入らないんだという絶望が
自覚できた恋心をボロボロと剥がしていってしまう
ダメ このままだと泣いてしまう
こんなところでいきなり泣き出したら
変な娘だと思われる
嫌だ たとえ結ばれなくても彼に嫌われるのだけは嫌だ
堪えなさい。堪えるの椎名まゆみ
貴方は誇り高い椎名家の人間なのよ
ダメだ溢れてしまう
冷たい水の中に引きづり込まれるように心が悲しみに沈んでしまった
涙が溢れてしまう
その瞬間だった
チッ
…チッ?
チッって…そんな…まさか…
投 げ キ ッ ス で す わぁぁぁぁぁぁ!!
やりましたわ!!大逆転ですわ!!
彼にも私の気持ちが伝わっていたんですわ!!
あぁ…草原に吹くそよ風のような爽やかさ…
それが愛するもの同士が結ばれるということですのねー!!
我慢しなくていいんですのね!!
もうこの恋心を抑えなくていいんですのね!!
キ マ し た わ ぁぁぁぁぁあ!!
この世に生を受けて早16年
我が世の春ですわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
これはもはや恋人同士では?
いえ既に夫婦と言っても過言ではないのでは?
こうしてはおりませんわ。
屋敷に帰ったらすぐにお父様たちにこの事実を報告しなければいけないッ
ハッピーウエディングは目の前ですわぁぁぁぁ!!
この間舌打ちからたった1秒である
『椎名まゆみの好感度が2997上昇しました』