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銀河ツァーに行こう

  銀河ツァーに行こう


挿絵(By みてみん)


「皆さま本日は銀河観光宇宙船にご搭乗いただき大変ありがとうございます。わたくしが案内役をさせていただきますが、客室の正面に大型スクリーンがございますし、お座席にはモニターとヘッドフォンが用意されており、当宇宙船のフライト風景を直接目にし、耳にすることができます。お座りになったままで、華麗で神秘のベールに包まれた宇宙の姿を皆さまご自身の目でご覧になっていただくことが出来るのです。それでは間もなく出発します。どうぞ、宇宙の壮大な景観をご堪能ください」


そして船体はゆっくりと浮き上がり上昇していく。

今まで実績を積み重ねた安定した推進方式で地上から離れていく。

船内は気圧も重力も温度も完全に制御されており、乗客にはほとんどストレスがない。

一定の距離に到達すると、一気に超高速で宇宙に飛び出していった。

すべて自動運転で正確な軌道を維持し飛行していく。

その状況を乗客はスクリーンやモニターで見ることが出来るし、備え付けられた機器に触れることで、航行音を耳にすることが出来た。

船内すべて平衡維持空間となっており、揺れを感じることはなかったが、高速移動の臨場感を味わえるようになっていた。


大型スクリーンはパノラマ方式となっており、左手に表面の凹凸がはっきり認識できる月が目に入ってきた。

と同時にアナウンスが聞こえてくる。


「皆さま、もうお分かりのように月の姿が間近に見えております。昔から月は人類にとって様々な意味合いでなくてならない大切な存在でございました。今まで遠くにあって眺めていただけの実像が目の前にあり不思議な光景だと思われる方もおられるでしょう。けれどもまだ始まったばかりです。これからさらに驚くべき体験をされるでしょう。ところで右手をご覧になってください」


          挿絵(By みてみん)


その指示に従って目を移すと、前が円盤状で後ろに分かれて推進用の脚部が付いた宇宙船が突然現れ横並びで飛んでいた。

どこかで見たような船体だった。


「ご存じの方もいらっしゃるでしょう。あれが有名なエンタープライズ号です。ワープ航行可能の恒星間宇宙船で、銀河を飛び回っています。そして、今から指揮官のカーク船長からメッセージを頂きます。映像を切り替えますので皆さまご覧になってください」


スクリーンおよびモニターに男性の顔が映った。

その両隣に二人いるのが目に入った。

いずれも馴染みのある人物である。

中央の男性が語り始めた。


「観光宇宙船にご搭乗の皆さんこんにちは。私はエンタープライズ号の船長カークです。隣はスポック副長、マッコイ船医。われわれはこの船とともに未知の宇宙への冒険に乗り出しました。今までに大変珍しい体験、危険な場面、全く思いもよらない生命体との遭遇の数々を経て今日に至っております。恐らく我々がまだ知らない世界がこの壮大な宇宙には無限にあると確信しております。今回宇宙に旅立たれている皆さんには、この深遠なる宇宙の魅力を肌で感じとってもらえることでしょう。良い旅になることを期待します」


話が終わり再び画面は元のパノラマ風景に戻った。

そして。真横を飛んでいたエンタープライズ号はワープ航法に移り、一瞬明るく光りそのまま消えてしまった。

その様子を乗客はあっけに取られて見守っていた。


そのあとも順調に航行は続いた。

途中で彗星が太陽に向かって飛ぶ光景も目にした。

航路周辺に天体が確認されると、その都度アナウンスがあった。

時間を経ていよいよ火星軌道に突入した。


「皆さま、正面に見えておりますのは火星です。太古には地球と同様に水があり、生命も存在していたようです。残念ながら大気の消滅によって今のような姿になったのですが、フォボス、ダイモス2個の衛星を従えた赤みを帯びた惑星は、昔から大変親しまれております」


乗客は紅に染まった火星の大地を興味深く見つめた。

もし地球に大気がなければ同じような姿になったのであろうか。

感慨深く観察していくうちに徐々に進路を変えていく。

火星軌道を掠めて新たな天体に向かうようだ。


       挿絵(By みてみん)


その時、ある旋律が乗客の耳に聞こえ始めた。

単純なメロディーではあるが誰でも知っている音楽である。

それが何度も繰り返され船内にざわめきが聞こえた。

そして急にすべての映像が切り替わった。

画面にはこれも見たことのある生命体が映っている。

頭が大きく顔は見開いた目が目立つ。

逆に胴体と足が細くて伸ばした長い腕が印象的である。

かつてETと略称で呼ばれていた存在であった。

数体のETが乗客を直視しているのだ。

徐々にカメラが離れていく。

彼らは一斉に片腕を上げ長い指を広げた。

何か伝えようとしているようだ。

どうやら、挨拶を交わしていると思われた。

さらに小さくなってゆき、彼らが乗っている円盤が現れた。

しばらく並走飛行していたが、急に向きを変えて加速し離れていった。


船内には感嘆の声が上がった。

まさかこのようなところでETに巡り合うとは思わなかったからだ。


「あの有名なETが再び私たちの前に現れました。幸運だったと思われている方も多いかと存じます。ただ、彼らも地球の環境の悪化を憂いているようです。そのことも伝えようとしたのかもしれませんね。さて、当観光船はメインベルト地帯に差し掛かりました。小惑星が密集した領域で大小合わせ数百万個あり他の惑星のように集まって形成されないまま残ったようです。それぞれ非常にまばらな分布のため、航行には支障がありません。1972年にパイオニア10号がこの小惑星群に到達して依頼、様々な探査機が調査を試みています」


挿絵(By みてみん)


その時船内にブザーが鳴り始めた。

また周囲のランプも点滅し始め、機械音声が聞こえだした。


『緊急警報、緊急警報、危険が迫っています。緊急警報』


船内は騒然としている。

乗客は顔色が変わりスクリーンやモニター、あるいは船側の小窓を覗いたりして、何が起こったのか知りたがった。


「皆さまご静粛に、ご静粛に。すぐに調べてお知らせしますので少々お待ちを!」


場内アナウンスも興奮しているようで、声がうわずっていた。

乗客は緊張をしながら不安げに言葉を交わしている。

そして再びアナウンスが聞こえてきたが、憂慮する事態が発生していた。


「皆様にお知らせします。緊急事態です。エイリアンの襲来です。この観光船に襲い掛かろうとしています。かなりの数と見受けます」


この情報に乗客から悲鳴が上がった。

エイリアンから連想するのは醜い姿で尖った口から、あっという間に人間を飲み込んでしまう恐ろしい生物である。

船内は恐怖に震えあがった。


「彼らは小惑星に生息していたようです。一斉に、この船に向かって押し寄せてきます。現在、当観光船は最速でこの小惑星帯から脱出しようと試みています。一方で本部に救援を要請中です」


ところが襲来の発見があまりにも遅かったようだ。

すでにその先群が身近に迫っていた。

船体が衝撃音とともに左右に揺れる。

エイリアンが体当たりしているのだ。

何度も繰り返される。

かなりの数が船体の周囲に到達し攻撃を続けてくる。

そして、スクリーンやモニターにもその姿がはっきりと映った。

醜くおぞましい外見が見る者を恐怖に陥れた。

船内ではあちこちで悲鳴が上がっている。

船体は彼らの攻撃で推力が落ちたようで停止してしまった。

そして、あっという間に観光船の周囲はエイリアンだらけとなった。

万事休す。


このまま、この船の全員が彼らの餌食となってしまう。

そう観念した束の間、群がっていたエイリアンが徐々に離れていく。

何かが彼らを排除しているようだ。

そしてその姿が画面に映った。

マスクを嵌めマントをした救世主、伝説のスーパーマンである。

その彼が次々とスピードと剛腕をふるいぶちかましていく。

更に応援に赴いたのはウルトラマンおよび孫悟空と分かる。

片やスペシウム光線で相手を粉々に粉砕し、一方では【カメハメハ!】と一閃。

エイリアンの集団が葬られていく。


しばらくしてアナウンスが聞こえだした。


「皆さま、銀河警備隊がこの観光船を救って頂きました。今日現れたのは、スーパーマン、ウルトラマン、孫悟空です。彼らは宇宙の安全確保を任務としております。どうやら敵を完全に排除したようです。彼らに心より感謝いたしましょう」


戦いが終わって彼らは画面の正面に並んでVサインを出した。

乗客は盛大な拍手で称える。

それぞれのポーズでピースサインを出したあと、離れていった。

まさに夢のようなひとときであった。


再び観光船は動きだし航路を進む。

小惑星群も遠く離れ、しばらくすると、前方に次の惑星が見え出した。

近づくにつれその大きさに目を見張る。

太陽系で最も大きな木星である。

95個の衛星を持ち質量も地球の318倍で、表面は縞模様や赤班が現れ変化に富む。

ジュピターと呼ばれて親しまれており、音楽のテーマにもなっている。

かなり接近して進んでおり、乗客はその巨星に目を奪われ圧倒されていた。

通過するまでに相当な時間がかかったが、改めて多様な宇宙を実感。


       挿絵(By みてみん)


ようやく木星の裏側に到達したとき、正体不明の飛行物体が向かってきた。

円盤でも宇宙船のようでもなく、まして彗星や流星のような天体でもなさそうである。

そして、間近まで迫ってきたときようやくその全貌が明らかになった。

列車であった。

まさしく大地を走っている多両編成の列車が宇宙を飛行していた。


「もうお分かりのように銀河鉄道999が目の前を通過しております。この銀河系宇宙の天体の数々から、果ては隣にあるアンドロメダ銀河まで各駅をつないで運航しております。特にダイヤは無くこれからどちらに向かうかは未定です。今先頭車両の窓から手を振っている二人が見えます。皆さまもご存じのメーテルと鉄郎のようです。私たちにエールを送っているのでしょう」


銀河鉄道が離れて行き、更に次の目標に向かう。


いよいよ観光船最初のターミナルが近くなってきている。

到着すれば乗客もゆっくりと羽根を伸ばすことが出来る。

そして見えてきたのは、外周を輪に覆われた天体土星である。

太陽系では最も美しい惑星と言われている。

接近するにつれ、表面も虹のように鮮やかで幻想的な雰囲気に浸される。

また、衛星も145個と太陽系では最も多く、その惑星圏に目的地の宇宙ステーションが創設されている。


「皆さま間もなく宇宙ステーションに到着します。その一角に宇宙ホテルがございますので、ごゆるりと休息いただけます。そこからの土星の眺めは最高でございますが、様々な施設がございますので、楽しんでいただけます。演劇場ではスターウォーズが上演され、暗黒卿ダース・ベイダーとジュダイの騎士ルーク・スカイウォーカーとの壮絶な一騎打ちが見られます。歌劇場ではフィフスエレメントの歌姫の美声を聞くことが出来ますし、シネマ館では恋愛映画彦星と織姫をご覧になって頂けます。皆様には当ホテルでごゆっくりおくつろぎ頂き、次のフライトに備えて頂ければさいわいです。銀河ツァーへのご参加大変ありがとうございます。改めて御礼申し上げます。皆様の良い思い出になることを願っております」


観光宇宙船はゆっくりと宇宙ステーションに吸い込まれていった。



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