7話 眠り姫を鉄壁ガード
ロイドも疲れ過ぎて湯浴み中に眠ってしまいそうになることはたまにある。その際、溺れそうになったこともあり、もしもメロリーが同じ状況だったらと思うと、冷や汗が流れた。
(っ、メロリー!)
恐怖に駆られたロイドは、メイドの話を遮ってすぐさま立ち上がる。
「アクシス、悪いが後は頼んだ」
「いや、それは良いけどさ、彼女の話をちゃんと聞い……って、行っちゃった」
そして、ロイドは報告に来たメイドを置き去りにして、駆け足でメロリーの部屋へ向かった。
ノックもせずにメロリーの部屋に入れば、愛しの彼女の姿はなかった。
そんな所に隠れているはずがないだろうと思われるローテーブルの下やソファの裏側、カーテンの内側を探し終えたロイドは、ベッドの直ぐ側でせっせと手を動かすルルーシュを視界に捉え、彼女のもとに駆け寄った。
「ルルーシュ、メロリーは大丈夫か!? 今彼女はどこにいる!?」
「旦那様、落ち着いてくださいませ。それと声は小さめに。メロリー様は眠っておられますから」
「!」
そういえば、夕方だというのにベッドの天蓋が下りている。
天蓋の状況からメロリーが眠っていると推測するのは簡単だというのに、ロイドはかなり冷静さを欠いていたと反省した。
「湯浴み中に眠ってしまったと報告を受けたが、メロリーは溺れたりしていないか? もう医者には診てもらったのか?」
「メロリー様のお顔がお湯に着く前に私が抱えて湯浴みからお出しし、体も拭いて夜着も着せましたので、問題はないかと。念の為、起きたらお医者様に診ていただく手配も済ませてあります」
「そうか……。それならいい」
ホッと胸を撫で下ろすロイドに、ルルーシュは冷静な口調で話した。
「三日に及ぶ移動で、大変お疲れだったのかもしれません」
「そうだな。起きるまでゆっくり休ませてやってくれ」
ロイドはそう言うと、ルルーシュの後ろにある天蓋の布に手を伸ばした。
メロリーを起こす気は更々なかったが、直に彼女を見て、安心したかったのだ。
……ほんの少しだけ、メロリーの寝顔を見たいという欲求もあったが。
「旦那様」
しかし、ロイドが伸ばした手を遮るように、ルルーシュが横に移動した。
ロイドは偶然かと思い、真正面にいるルルーシュを避けて天幕の布へ手を伸ばすのだが、その度に彼女も移動してきて……。
「ルルーシュ、何故邪魔をする」
「失礼ながら、メロリー様は就寝中です。いくら婚約したとはいえ、寝ているお顔を許可なく見るのはいかがかと思います」
「……完全にメロリーの味方だな」
「はい。もとから魔女に対して偏見がなかったのは抜きにしても、こんなにお優しくて可愛らしいお方を好きにならない人はいません」
ルルーシュがメロリーに誠心誠意仕えてくれるだろうとは思っていたが、やはり心配はいらなかったらしい。
ロイドが優しげな表情を見せると、ルルーシュもつられて微笑んだ。
「旦那様は、本当にメロリー様のことを大切に思っておられるのですね。……焦って変な所も探しておいででしたし、ぷぷっ」
「笑うな」
「大変失礼いたしました」
──何にせよ、メロリーが無事で本当に良かった。
ルルーシュに礼を伝えたロイドは、一瞬だけでもメロリーの寝顔が見たかった……という欲望を抑えて扉へ向かう。
ドアノブに手をかければ、「あの」とロイドを呼び止めるルルーシュの声が部屋に響いた。
「実は、メロリー様のことで気になることが──」
◇◇◇
「えっ!? 朝!? 何で!?」
天蓋付きのベッドのカーテンから薄く差す朝日に、メロリーは飛び起きた。
ギシギシと軋むベッドでもない。体も全然疲れていない。なんだか自分からいい香りがするし、夜着は汚れがないどころか肌触り抜群だ。
「すっごく快適……! え? ここ、天国?」
勢いよくベッドから下りたメロリーは、夜着のまま部屋のカーテンを開けて外を見る。
美しい庭を見て、ここがカインバーク邸であることはもちろん、湯浴みの途中であまりにも気持ち良くて眠りこけてしまったことも思い出した。
燦々と輝く太陽から察するに、おそらく半日以上爆睡していたのだろう。
「わ、私ったら、初日からなんてことを……!」
ロイドと夕食をともにすることもできなかったし、ルルーシュにも迷惑をかけてしまった。
(二人とも怒ってないかな!? ど、どうしよう〜〜!)
メロリーは頭を抱えると、ノックの直後にルルーシュが部屋に入ってきた。
「メロリー様、おはようございます。お加減は──」
メロリーはルルーシュのもとに駆け寄ると、彼女の言葉を遮って深く頭を下げた。
「ごめんなさい、ルルーシュ! 私、昨日迷惑をかけて……」
「お疲れだったのですから仕方ありませんし、湯浴み中に寝てしまわれる程度、何の迷惑でもございません。頭を上げてください、メロリー様」
「……っ」
優しく諭され、メロリーはおずおずと顔を上げる。
目の前には、穏やかなルルーシュの笑顔があった。
「それに、旦那様もメロリー様を心配こそすれ、一切怒っておりませんのでご安心ください」
「な、何で私が考えていることが分かるの!?」
「ふふ、メロリー様は考えていらっしゃることが顔に出やすいですから」
そういえば、昔乳母にも同じようなことを言われた気がする。
メロリーが「そんなに……?」と言いながら頬を摘めば、ルルーシュはクスクスと小さく笑った。
「さて、話はここまでにして、念のためにお医者様を手配しておりますので、しっかり診ていただきましょう。その後は支度して、旦那様と一緒に朝食です」
「は、はい……! 何から何まで、ありがとう、ルルーシュ!」
「お礼には及びません。それにしても、腕が鳴ります。より一層、メロリー様を美しくして差し上げますからね」
「え? いや、ほどほどで大丈夫だけど……」
目をギラギラさせ、気合を入れたルルーシュの様子に、メロリーは口元をひくつかせた。
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