6話 一難去って……?
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ルルーシュに案内された部屋は、白を基調とした可愛らしい部屋だった。
部屋の端には、先に運んでくれたのだろうメロリーの荷物が置かれている。
部屋の大きさは今までメロリーが暮らしていた離れの数倍広く、細やかなところまで清掃が行き届いている。
テーブルの上には焼き菓子が準備されており、窓から見える庭園はなんとも美しい。
メロリーは、まるで自分が異国のお姫様になったように感じられた。
「なんて素敵なお部屋なんでしょう! ここは天国……? この部屋はルルーシュが整えてくれたの!?」
「は、はい。そうでございます」
メロリーは幼い頃から貧しい暮らしをしていた上に、使用人として部屋を整えたり清掃する側だった。
自分の部屋とは全く違う、ラリアの広くて可愛い部屋には何度も憧れたものだ。興奮してしまうのは当然だった。
「こんなに広い部屋を整えるのは大変だったでしょう!?」
「いえ、他のメイドも手伝ってくれたので、それほどではありません」
「それなら他の方にも後でお礼を言いにいかなきゃ……! ルルーシュも、本当にありがとう!」
「そこまで喜んでいただけて、私としても嬉しい限りでございます」
そう言って微笑むルルーシュにだったが、何故かジッと見つめられ、メロリーは戸惑った。
(何か変なことを言ったかな……?)
表情に不安の色を出したメロリーに、ルルーシュは「実は」と話を切り出した。
「私の先祖に、メロリー様と同じ魔女がいたのです。ですから、魔女に対して偏見などはないのですが」
「そうなの!?」
何故ルルーシュがメロリーを見た時に一切の動揺を見せなかったか不思議だったが、これで合点がいった。
「あの……魔女が先祖であることで、何か辛い思いはしなかった……?」
メロリーは不安そうに問いかける。
魔女であるメロリーは、これまで人に愛される人生を送れなかった。
大好きな調合と出会えたとはいえ、辛い思いをしなかったと言えば噓になる。
そんなメロリーだからこそ、ルルーシュが心配でたまらなかったのだ。
「メロリー様は、本当にお優しいですね」
「そんなこと」
「ご心配いただきありがとうございます。でも、私は魔女が先祖であることで苦労したことも、何か辛い目にあったこともありませんから、大丈夫です」
「そ、そうなのね。良かった……」
朗らかな表情で話すルルーシュに、メロリーはホッと胸を撫で下ろした。
「こうしてメロリー様を直に見て、魔女というのはこんなに優しいうえに可愛らしい方なのかと驚いています」
「か、可愛らしい?」
突然褒められて困惑するメロリーに、ルルーシュはこう続けた。
「それに、先程のメロリー様のお言葉……優しく誠実なお姿は、おそらく多くの使用人たちの心を打ったと思います」
――私は魔女ですが、皆さんを傷付けたり、怖がらせるようなことは絶対にしないと誓います。だから、少しずつでも皆さんと仲良くなれたら、嬉しいです。
おそらく、あの言葉を言っているのだろう。
メロリーとしては深く考えて出た言葉ではなかったのだが、ルルーシュにこんなふうに言ってもらえて嬉しかった。
「ルルーシュ、ありがとう。改めて、よろしくね」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
こそばゆいほどに見つめ合い、互いにふふっと頬を綻ばせると、ルルーシュが「さてと」と言いながら、両手をパン! と打ち付けた。
「メロリー様、早速ですが」
「なぁに?」
「長旅でお疲れでしょう。今から湯浴みの準備をしますから、しっかり癒やされてくださいまし」
「へ?」
◇◇◇
その頃、執務室ではロイドが椅子に腰掛け、両肘をテーブルについて口元をニマニマと緩ませていた。
「ロイドさぁ、その緩みきった顔、そろそろどうにかならないの?」
指摘したのは、先の戦争にも出征した、側近のアクシス。ブライアン子爵家の次男だ。
桃色の髪に大きな瞳の彼はかなり幼く見えるが、歳はロイドと同じ二十一歳。側近ではあるが、幼馴染で長年の友人でもある。
「僕しかいないからって、どうなのその顔。鼻の下伸びまくってるじゃん」
この屋敷の主人であり、この辺り一帯の辺境伯領地の領主でもあるロイドにここまでの軽口を叩けるのは、彼くらいだろう。
「煩いな。これを喜ばずにいられると思うか? ついにメロリーがこの屋敷にやってきたんだ。これで毎日愛しのメロリーの顔を見ることができる……声が聞ける……。デートをして、手を繋いで、抱きしめて、キスをして……。いずれは……ベッドで……くっ、これ以上は鼻血が……!」
「後半は欲望に忠実過ぎなんだよ。そんな様子じゃあ、メロリー嬢に嫌われちゃうんじゃない?」
脳内花畑になっていたロイドだったが、アクシスの発言に目をキリリと細めた。
「嫌われる、だと──」
「うわ、さむっ」
ぶるりっ、と震えるくらいに、ロイドの口から放たれた言葉は冷たい。
サファイヤのような瞳は美しいというより冷たい印象になり、ロイドのことをよく知らない人物が見たら失神するくらいに恐ろしく冷たい表情だ。まさに敵に向けるそれである。
「冗談だってば! そのおっかない顔やめてよ!」
「…………」
「それより、メロリー嬢は大丈夫なの? 僕は君からどんな子か聞いてるからあれだけど、魔女であり、社交界の評判も思わしくない彼女に、使用人たちは誠心誠意仕えてくれそう?」
アクシスがロイドからメロリーの話を聞いたのは約三年前に行われた夜会の最中だ。
いきなり聞いたことがないくらい高い声で「天使に出会った」と言うロイドに、アクシスは驚くと同時に大笑いした。後にメロリーの作った薬の副作用であることを知り、驚いたものだ。
しかしその日から、アクシスの魔女に対する印象が変わったのも事実だった。
言い伝えや書物の影響で、アクシスは魔女に対して多少は偏見を持っていたのだが、ロイドがあまりにも褒め称えるものだから、そんなものはどこかへ飛んでいった。
「使用人たちのことだが、おそらく問題はない」
「え、ほんとに? 使用人たちに何か言ってあったの?」
「いや、何も。敢えて言わなかった。というより、メロリーの性格や清らかな心を知れば、大丈夫だという確信があったからだ」
「……あっそう。惚気ご馳走さま」
余計な心配は無用だったらしいと、アクシスは表情を緩める。
「メロリーの良いところならいくらでも語れるが」
真顔で言ってくるロイドにアクシスがそろそろ仕事をしてよ、と言おうとすると、ノックの音が聞こえた。
ロイドが入るよう促すと、一人のメイドが頭を下げて口を開いた。
「旦那様、メロリー様が湯浴み中にお眠りになってしまわれ──」
「なんだと……!」