22話 感謝
夫婦仲は大変良好であり、これまで姿を見せなかった公爵が大変な美男であることまで知らしめたメッシブル公爵夫妻の結婚式。
永遠の愛の誓いを終え、大聖堂から出てくる二人を列席者はフラワーシャワーで祝福した。
事前に手渡されていた色とりどりの花びらが舞う様子は大変美しい。
その真ん中を歩くビクトリアとトーマスは、列席者たちからかけられる祝いの言葉に感謝の言葉を伝えている。
「お二人とも、素敵な結婚式でした。心からお祝い申し上げます」
「本当に、おめでとうございます!」
ビクトリアたちが正面に来たタイミングで、祝福の言葉をかけるロイドにメロリーも続く。
ビクトリアとトーマスはメロリーたちを目にすると、一瞬足を止め、これまで以上の笑みを浮かべた。
「メロリー嬢、本当にありがとう。また後日、感謝を伝えさせておくれ」
「い、いえ、そんな感謝だなんて……!」
自分だけの力ではないし、幸せそうな二人を見られればそれで十分なのだ。
謙遜するメロリーに対し、ビクトリアは彼女の唇に人差し指を近付け、パチンッと片目を瞑った。
「メロリーちゃん、私も主人も、貴女には本当に感謝しているの。今度きっちり、お礼を受け取って? ね?」
「ひぇっ、は、はい」
どうもビクトリアのウインクには不思議な力が宿っているのか、頷いてしまった。
隣のロイドの表情を窺えば、メロリーが感謝されるのは当然だと言わんばかりの顔をしていたので、結局逃げ道はなかったのかもしれないが……。
「……ところで、メロリーはどういったものが好みだろうか?」
ビクトリアたちが前を通り過ぎた頃、問いかけてきたロイドの頬はほんのりと赤くなっていた。
(……? 好み? 何がだろう?)
ロイドの質問の意図がいまいち分からず、メロリーはきょとんと目を丸くした。
「えっと……何の好みですか?」
「ああ、すまない。言葉が足りなかったな」
ロイドは横に並ぶメロリーの左手に手を伸ばし、彼女の薬指をそっと握りしめた。
「私たちの結婚式だよ」
「え?」
「挙げたい場所とか、こんなドレスを着たいとか、こういう演出をしたいとか、何でもいいんだ。もしもあるなら、メロリーの考えを教えてくれないか?」
「!」
そう聞かれても、メロリーはすぐに答えることはできなかった。
そもそも、メロリーは結婚式にあこがれを持つような人生を送ってきていない。
ロイドと婚約者になり、こうして大切にしてもらっていることさえ、未だに夢のようだと思っているくらいなのだ。
「いえ、特にはありません。そういうものに疎くて」
「そうか。ならこれから一緒に考えていこう。一生に一度の結婚式だから、メロリーが喜んでくれるものにしたいんだ」
穏やかに笑い、薬指にきゅっと力を込めるロイドに、メロリーはたまらず胸がジーンと温かくなった。
「ロイド様……私のために……」
ただ薬に惹かれて申し込まれた縁談だというのに、ここまで大事にしてもらってもいいのだろうか。
メロリーは体ごとロイドの方に向けて、一度深く頭を下げた。
「そのような気遣いまでしてくださるなんて、本当にありがとうございます……!」
「待て、気遣いというよりは──」
「けれど、それは無用です! 結婚式についてはロイド様のお好きなようにしていただいて構いませんし、私は全て従いますので!」
「メロリー、だから──」
「もちろん、調合についてはこれまで通り……いえ、これまで以上にロイド様のお役に立てるように頑張らせていただきますから!」
キラキラとした目で宣言するメロリーに、ロイドは「可愛い……可愛いんだが……」と言いながら、困ったような顔して空いている方の手を額に伸ばした。
「いや、だから……」
「ぷぷっ、前途多難だね」
「おい、アクシス。お前笑ったな? 今笑ったよな?」
苛立ちとは裏腹に、メロリーの前だからと笑顔を浮かべるロイドに、アクシスの喉はひゅっと鳴ったのだった。
「さて、メロリー、そろそろ帰ろうか。ついでにアクシスも」
「はい!」
「はいはい、ついでで結構ですよ」
新郎新婦が大聖堂を後にしたことで、結婚式がお開きになると、貴族たちは続々と帰路に就き始めた。
メロリーもこの場にもう用はないので、ロイドとアクシスとともに大聖堂の外に待機している場所へと向かおうとした。
「あの、カインバーク卿、少々お時間よろしいでしょうか?」
「ああ、貴殿か」
しかし、初老の男性貴族にロイドが声を掛けられて足を止めたロイドに続き、メロリーとアクシスも足を止めた。
ロイド対して気負う様子がないことから、二人はそれなりに親交があるのかもしれない。
「メロリー様、あの方はケイレム伯爵家の当主です。ロイドのご両親の代からの付き合いのようで、確か、ご令嬢が一人いたような……」
「あっ、ありがとうございます、アクシス様」
耳打ちで相手の情報を教えてくれたアクシスに礼を伝えると、ロイドはアクシスをキッと睨み付けてから、メロリーの髪を優しく撫でた。
「すまない、メロリー。少し仕事の話をしてくるから、先に馬車で待っていてもらっていいか?」
「はい、もちろんです」
「ありがとう」
ロイドは笑顔のまま、アクシスにぴしりと指を差した。
「もしも、万が一もしも何かあったらアクシスを盾に使うと良い」
「人として扱ってくれる? まあ良いや。盾としてメロリー様にかすり傷一つ負わせないようにするから、さっさと話しておいでよ」
「お仕事、頑張ってくださいね、ロイド様……!」
「そんなに可愛い笑顔で見送られたら離れがたい……が、行ってくる。アクシス、後は頼んだ」
ロイドとケイレムが話しながら人気のないところへ向かっていくのを見送ったメロリーとアクシスは、顔を見合わせると同時に馬車に向かって歩き始める。
馬車までは、およそ徒歩で五分の距離だ。
先程足を止めたことが影響してか、既に多くの貴族たちは馬車に乗り込んでいるようで、目的地までの道のりにあまり人は多くない。
その間、アクシスは気さくに話しかけてくれていた。
だがメロリーが、ケイレム伯爵がロイドに臆せず話しかけたことを話題に挙げると、アクシスの表情は急に真剣味を帯びた。
「まあ、ケイレム伯爵はもちろん、メロリー様のようにロイドと普通に話せる人間のほうが少数派ですからね。ロイドは冷酷……それと、最近では変態だなんて噂までありますから」
変態と呼ばれるようになった所以については、辺境伯邸に来た日にロイド本人から説明を受けている。
しかし、改めて考えると、ロイドが冷酷だと言われる理由を、メロリーは知らなかった。
何故だろう、そんなことはないのに……。そんなふうには思っても、いまいち理由を聞く機会がなかったのだ。
(今が、理由を聞くチャンスかもしれない)
ロイドが自ら説明してくる素振りがなかったことには何か理由があるのかもしれないが、アクシスなら教えてくれるかもしれない。
今以上の機会は訪れないだろうと、メロリーは意を決して口を開いた。
「あの、もし良ければ、ロイド様が何故冷酷だと言われているか、聞いても構いませんか……?」
「……ああ、やっぱりロイドは言ってなかったんですね」
アクシスは苦笑いを零す。それから直ぐに、アクシスはロイドが冷酷と呼ばれ始めたきっかけについて、話し始めた。
「あれは、数年前の戦争の時です」
お読みいただきありがとうございます!
次回、ロイドが冷酷と呼ばれるようになった理由が明らかに……!




