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19話 毒見役は婚約者様


「えっ!? どんな効果かも分からないのに、そんなの駄目です……!」


 ロイドの発言に、メロリーは驚きを露わにし、そして彼の提案を断った。


 いくら安全性は担保されているとはいえ、新薬は効果も副作用も不明なのだ。つまり、ロイドがしようとしていることはほぼ毒見役といっても過言ではない。


 そんなことをロイドに……というか他者にさせるわけにはいかず、メロリーは激しく首を横に振った。


「だが、さっきのメロリーの反応から察するに、調合で私が手伝えることは少ないのだろう?」

「それは……」

「それに、時間は限られている。私が新薬を試し、メロリーがその効果や副作用から野草の組み合わせなどを考察するのが一番効率がいいと思わないか?」

「それは、そうですが……!」


 ロイドの言うことはもっともだが、これまで新薬を自らでしか試したことのないメロリーは躊躇してしまう。


 どうしようかと視線を泳がせれば、ロイドの懇願するような声色が耳に響いた。


「私も、叔母上たちには幸せな結婚式を迎えてほしい。どうか、手伝わせてはもらえないだろうか……?」

「うっ……分かりました」


 ビクトリアやトーマスを思うロイドの健気な気持ちを無碍にすることはできず、メロリーはコクリと頷いた。


「ありがとう、メロリー」

「いえ、よろしくお願いします。ロイド様!」

「ああ。それじゃあ早速、その薬をもらっても良いか?」

「はいっ」


 メロリーは手に持っていた薬をロイドに手渡す。

 ロイドは恍惚とした表情でその薬が入った小瓶を見つめると、はぁ……とどこか蠱惑的な息を漏らした。


「これが、世界で誰も飲んだことがないメロリーの薬……。私が、初めてなんだな……」

「そ、そうですね?」


 いまいちロイドの感情が分からない。

 ただ、彼が餌を目の前にする犬のように、いち早く薬を飲みたがっていることだけは理解できた。


「メロリー、もう我慢できない。飲んでも良いだろうか?」

「は、はい! もちろんです!」

「では早速。この役目を私に任せてくれて、本当にありがとう」


 涼しげな目を細め、うっとりと笑みを浮かべたロイドは、そう言うやいなや薬を飲み干した。


「ん? なんだか、腕に力がみなぎってきたような……」

「ロイド様、う、腕が太くなって!」


 瞬く間に太くなるロイドの腕。

ゆとりのあったロイドの腕周りの布がいつの間にかパツパツになっており、薬の効果が腕の筋肉の増強であることが見て取れた。


「ロイド様、腕の他に変化はありませんか?」

「ああ。体に変化はないが、これまで感じたことがないほどに甘いものが食べたくて仕方がない……」

「な、なるほど!」


 どうやらハンレラで作った薬の効果は、『異常に甘いものが食べたくなるけれど、腕の筋肉が増強される』というものらしい。


「甘いもの……甘いもの……」と呟くロイドをよそに、メロリーは初めて見る効果と副作用に興奮が隠せなかった。


「ロイド様、腕の変化はどのように感じますか!? 実際に重たいものを持てるかなど試していただいても!? あ〜〜! 念の為に後で効果と副作用をメモしておかないと……‼」


 ふんふんと鼻息を荒くするメロリーだったが、そっと手を取られたことで意識をロイドに戻した。

 まるで飢えた獣のような瞳でこちらを見てくるロイドに、メロリーは目を丸くした。


「ロイド様?」

「メロリーの手は、とても甘そうだ……。やはり君が天使だからか……?」

「はい……!?」


 ロイドはメロリーの手を捕らえた手を引き、自身の口元に近付けていく。


「あ、あの……!」


 決して痛くはないが、簡単に解けない程度には手を強く握られてしまっているため、メロリーが手を引いてもあまり意味を成さなかった。


「ひゃっ」


 抵抗虚しく、メロリーの手の甲には柔らかく、そして人肌よりも少し冷たいものが押し当てられる。

 その瞬間、ぞくりと背筋が粟立った。

 こんな感覚は初めてで、メロリーは恥ずかしさやら驚きやら色んな感情を抱えながら、顔を真っ赤に染めた。


「……うん、やはりメロリーは甘いな。もう少し味わっても良いだろうか」

「〜〜っ!?」

  

 もうこの人は何を言っているんだろう。

 頭のほんの片隅でそんなふうに冷静に突っ込む自分と、理由が分からず何の言葉も出てこないくらいに動揺している自分がいる。


 メロリーが涙目になりながら首をぶんぶんと横に振れば、次の瞬間、救いの手が現れた。


「え、どういう状況? もしかして僕とんでもないタイミングで来ちゃった?」

「アクシス様!」


 突然のアクシスの登場により、一瞬ロイドの手が緩んだ。

 その隙にメロリーはアクシスの背後に回り込む。


 頭上に疑問符を浮かべるアクシスを、ロイドは今にも人を殺しそうな目で睨み付けた。


「アクシス、今からメロリーから離れろ。そして今すぐ甘いものを用意してくれ。今の私にはメロリーが天使であり、砂糖にも見えるんだ」

「何を言ってるのか、まっっったく意味が分からないけど、緊急事態なのはなんとなく分かった」


 それから少しして、アクシスの活躍によりすぐに甘いものが用意され、ロイドは無事に副作用から解放された。


 ロイドに謝られたメロリーはというと、ハンレラの薬による副作用に人間が砂糖に見えるというのも含まれるのかな? と考えていたという。

お読みいただきありがとうございました!

ロイドの毒見役(厳密には毒はないですが)を書きたくてこの作品の執筆を始めたと言っても過言ではありません(*´ェ`*)ポッ

皆様に気に入っていただけると幸いです!

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