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18話 新薬の開発!

 

 雲一つない晴天が広がる。調合室の大きな窓には暖かな日差しが入り込み、そよ風が白い髪を靡かせた。


 メッシブル公爵夫妻が突如来訪してきた次の日の朝、朝食を食べ終えたメロリーが早速やってきたのは、離れに建てられた調合部屋だった。


「メロリー様、他に何かお手伝いすることはございますか?」

「ううん、ありがとう、ルルーシュ!」


 作業台となるテーブルの上には、数々の調合器具と保管庫から出したいくつかの素材が置かれている。

 調合の前準備として、つい先程ルルーシュと共に並べたものだ。

 野草や器具の洗浄は昨夜に済ませてあったので、あとは調合を開始するだけ。


 メロリーは手伝ってくれたルルーシュに礼を言い、一旦彼女には屋敷に戻ってもらった。

 ルルーシュは何でも手伝うと話してくれたが、調合自体は作業に慣れたメロリーのみで行うつもりだったからだ。


「さて、と! 新薬を作るためにはまず、新しい素材の効果を確認しないとね! ビクトリア様と公爵様のために、絶対に成功させよう……!」


 そう意気込むメロリーは、昨日採取したばかりの野草を手に取りながら、昨夜のビクトリアたちとのやりとりを思い出した。


『あの、もしかしたら、お二人のお役に立てるかもしれません……!』


 力強い瞳でそう言うメロリーにビクトリアとトーマスは戸惑いの色を浮かべていた。

 話の流れからして、メロリーが結婚式を無事決行できるようにという意味合いでその発言をしたのだろうというところまでは分かったのだが、如何せん具体的な言葉がなかったからだ。


『えっと……? メロリーちゃん? 一体どういう……?』


 優美で妖艶なビクトリアから、珍しく間抜けな声が漏れた。

 メロリーは自身の発言があまりに説明不足であることを悟り、口早に話し始めた。


『実は私、薬の調合がとっても大好きで……!』


 その発言を皮切りに、メロリーは両親から聞かされた魔女だけが作ることのできる秘薬の話をし始めた。


 両親が望むような薬ができず出来損ない魔女の烙印を押されたことや、それでも調合が大好きでこれまでたくさんの薬を作ってきたこと、最近ではロイドやアクシス、使用人たちに薬を求められ、自分の薬が誰かの役に立てる喜びに感銘を受けたこと。


 そして、ロイドの善意で離れに調合部屋を建ててもらったことや、これまで作ってきた薬の効果の数々、全ての薬に変な副作用が出てしまうが、肌の悩みに関する薬も作ったことがあることを丁寧に説明した。


『精神的な部分については、私の薬でどうにかできるかは分かりません。ただ、顔の赤みに関しては、一時的に緩和することくらいは可能かもしれません……!  少しだけ、私にお時間をいただけませんか?』


 そして、メロリーは最後にこう締めくくった。


 ビクトリアとトーマスは突然のことに困惑していたが、ロイドがメロリーの薬のおかげで体調が回復したことや、副作用は比較的軽度なものばかりであることを説明すれば、彼らは少しずつ冷静になり、納得してくれた。


『メロリー嬢、初対面でこんな不躾な頼みをするのはどうかと思うが、私たちのために新薬の開発をお願いしても良いだろうか』

『メロリーちゃん、私からもお願いするわ』

『はい……!』


 メロリーは昨夜のことを思い出しながら手を動かすと、昨日採取したハンレラの薬を調合し終えた。


 薄緑色の液状の薬が入った小瓶を手に持ち、それをジッと見つめる。

 メロリーはいつも、新しい素材を使用したり、試したことがない組み合わせで薬を調合したりした際、その薬にどのような効果があるのかを知るために試飲する。


 薬、といっても効果が分からなければ毒と同じで危険が伴うこともあるのだが、メロリーにその心配は無用だった。


「うん! 大丈夫そう!」


 メロリーの赤い目を、多くの者は血のようで気味が悪いと言う。だが、この目には一つだけ能力が備わっていたのだ。


 それは、自身の作った薬が人体にとって危険性が高いか否か を見分けるというもの。

 見ただけでそれを判断できるというのは新薬を開発する際にとても役に立ち、メロリーのちょっとした自慢だった。


「できれば、この目で効果や副作用も分かるともっと嬉しいんだけどな」


 安全が確保された薬を飲むのは、全然苦ではない。たしかにちょっと苦いな〜と思うことはあっても、この薬はどのような効果があるんだろう? 副作用は? とドキドキする時間は、あまり嫌いではなかった。


 ただ、薬によっては効果や副作用がすぐに出ないものもある。


 既に試飲した薬の効果と副作用がはっきりするまでは新しい薬が出来上がっても直ぐには試せないことがあり、それは少しもどかしかった。


「お二人の結婚式まで、あと約三ヶ月。遅くとも一ヶ月後には招待状を送るか否かの判断をしないといけないと言っていたから、新薬の開発に充てられるのは長く見積もっても三週間ってところかな……」


 運良く新薬ができても、一度はそれをトーマスに飲んで判断してもらわなければならない。

 辺境伯領と公爵領が馬車で二、三日はかかることから、メロリーに残された時間は約三週間しかなかった。


「時間もないし、まずはこの薬を飲んで、それから別の野草でまた調合して……」


 簡単に段取りを組みながら、メロリーは手に持つ小瓶を口に近付ける。

 そして、唇が瓶の飲み口に触れそうになった矢先、調合室の扉が開いた。


「メロリー、朝からご苦労様」

「ロイド様! えっと、ようこそいらっしゃいました?」


 ロイドが用意してくれた調合室なのに、我が物顔でようこそと言うのもおかしいかと途中で気付き、メロリーは小瓶を口元から離すと、語尾を上げて困ったように笑う。


 ロイドはそんなメロリーの様子にでさえ「可愛い……!」と悶えた。


「どうしてこちらに? 何か薬が必要でしたら、私がお届けしますよ?」

「ああ、今度愛おしさで張り裂けそうな胸の鼓動を鎮める薬を作ってもらいたいんだが、今ここに来た理由は別だ」


(愛おしさで張り裂けそうな胸の鼓動を鎮める薬……?)


 イマイチピンとこないが、動悸を抑える薬なら作れるだろうかとメロリーは考えつつ、続くロイドの言葉を待った。


「一つは、昨日の礼を言いたくてな。叔母上たちに手を差し伸べてくれてありがとう、メロリー」

「そんな! 私は可能性をお伝えしただけですし、それもロイド様の後押しがあったからで……。それに、お役に立てると決まったわけでも……」

「それでも、叔母上たちにとってメロリーの存在は大きな心の支えになったはずだ」


 確かにビクトリアたちは、たとえ薬ができなかったとしても挑戦してくれるだけでありがたいと話してくれた。


 神の御業のような魔女の秘薬を求めた両親たちにこれまでそんなふうに言われたことがなかったメロリーが、泣きそうになったのは記憶に新しい。


「私、頑張ります! 絶対に、お二人には幸せな結婚式を迎えてほしいですし、その上で不仲説も払拭してほしいです!」

「ああ。良ければ私にも協力させてくれ。礼だけでなく、何か手伝えることはないかと思ってここに来たんだ。メロリーが作ってくれた薬のおかげで大きな仕事は終わらせられた。今は手が空いているから、その心配もいらない」

「いつもお仕事お疲れ様です! ただ、お手伝い、ですか……」


 ルルーシュを屋敷に戻したばかりのメロリーは、うーんと頭を悩ませた。


 調合自体で手伝ってもらうことはなく、準備も既に終わっている。どころか、昨日は野草の採集場に連れて行ってもらい、採集まで手伝ってもらった。


 それだけで十分なのだが、ロイドの真剣な顔つきから察するに、お気持ちだけで受け取るでは引いてくれなさそうだ。


(とはいっても……。うーん、どうしたら)


 メロリーが赤い目をあちこちに動かし悩んでいると、ロイドは彼女の手中にある小瓶を興味深そうに見つめた。


 今さっき、メロリーが飲もうとしていたものだ。


「それはどんな効果の薬なんだ?」

「これは昨日、ロイド様と一緒に採ったハンレラで作った新しい薬でして、まだ何も分かっていないものなんです! ですので、効果と副作用を知るために飲んでみようかと!」


 自身の赤い目のおかげで安全性については問題ないことも付け加えれば、ロイドはくわっと目を見開き、メロリーの両肩を掴んだ。


「つまりそれは、この世で誰も飲んだことがないメロリーお手製の薬ということか!?」

「え? そ、そうですね?」


 何も間違ったことは言っていないが、ロイドの表現はかなり大袈裟だ。

 そんなに大層なものではないのにと思っていると、ロイドは一瞬なにか思いついたような顔をし、そして宝石のようなキラキラとした瞳でメロリーを射抜いた。


「メロリー! 君が新たに調合した薬を初めて飲む機会を、私にくれないか?」

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