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16話 パチッ! ビクトリア様!

 

 まさかロイドとビクトリアが親族だとは思わず、メロリーの声は思わず裏返る。


(公爵夫人がロイド様の叔母様だなんて……)


 ロイドの両親は既に他界しているらしく、彼の親族に会うのはこれが初めてだ。


 しかし、この部屋に来る前にも思ったように、二人は雰囲気がよく似ている。二人の関係を知った今、なるほどと納得できた。


「ロイド、貴方が伝え忘れるなんて意外ね。姉さんと一緒で割と抜け目がない子なのに」

「叔母上が突然来るからでしょう」

「ふふ、それはそうね。メロリー様、驚かせてしまってごめんなさいね」

「すまない、メロリー」

「い、いえ! そんな……!」


 二人から謝られ、必死に胸の前で両手をブンブンと動かしたメロリーだったが、はたと、とある疑問を抱いた。


(公爵夫人は、甥であるロイド様が魔女の私なんかを婚約者にしたことを、不満に思ってないのかな?)


 先程の二人の会話を思い返すと、ビクトリアはロイドがメロリーを大切にしていることを褒めていた。


 確かに、甥が浮気をしたり薄情者だったりするよりは、誰か一人を大切にする姿勢は素晴らしいだろうが、如何せんメロリーは魔女だ。


 この国の人間のほとんどは魔女が陰湿で陰険、忌み嫌うものだと認識している中で、ビクトリアの反応は些かおかしくはないだろうかとメロリーは考えた。


(ハッ! もしや、私が魔女だと知らないとか!)


 ロイドが説明しているだろう。見た目で察するだろう。


 そんな思いから魔女であることを名乗っていなかったメロリーは、結論にたどり着いた。


「あ、あの! 不躾で申し訳ありませんが、私は魔女なんです!」


 だから、とりあえず自分が何者かを正確に伝えなければと、メロリーは応接間に響き渡るほど大きな声で正体を明かした。


 どうせ隠していて直ぐにバレてしまうのだから、もしも誤解があるのならば早く解いてしまいたかったのだ。


「ええ、知っているわ」

「えっ」


 けれど、さも当然と言わんばかりに告げたビクトリアに、メロリーは目を丸くした。

 ビクトリアはメロリーが魔女であることを知っていながら、普通に会話し、婚約も祝してくれていたなんて……。


「どう、して……」


 疑問がつい、メロリーの口から溢れた。

 たった四文字の言葉だったけれど、メロリーの驚いた様子からビクトリアは粗方察したのか、ふふと口元に弧を描いた。


「魔女が忌み嫌われていることも、貴女が役立たず魔女だと言われていることも知っているわ。けれど、貴女が魔女であることで私は不利益を被っていないし、現に何度か貴女を目にして、不快だと思ったことも恐れたこともない。それに、メロリー様は愛する甥が選んだ女性だもの。……これで理由になっているかしら?」

「……っ」


 片目を閉じ、パチッとウインクを見せるビクトリアに、メロリーはぎゅうっと胸を鷲掴みにされた。

(こんなふうに言っていただけて嬉しい。……それに、公爵夫人がかっこ良すぎる……!)


 ビクトリアのことをキラキラした目で見つめていると、隣から視線を感じ、そちらを見つめた。

「な? 大丈夫だと言っただろう?」


 雲の隙間から一筋の光が差したような、優しくて温かな笑顔を向けられ、メロリーもつられて微笑んだ。


「はい……!」

「……ふふ。なんだか貴方たちを見ていると若かった頃の自分たちを見ているようで微笑ましいわぁ。ね、貴方」


 ビクトリアに話を振られたトーマスは、コクコクと首を縦に振ったのだった。


 それから、少しの間、メロリーはビクトリアとたわいのない会話を交わし、親睦を深めた。

 屋敷の生活についてだとか、どんな服装が好みなのだとか、ビクトリアが流れるように話題を振ってくれたおかげで、メロリーはあまり緊張せずに話すことができた。


 ビクトリアの計らいで互いの呼び方についてもかなり親しいものになり、優しい上に格好良いビクトリアに、メロリーはどんどん惹かれていった。


「ふふ、メロリーちゃんは良い子ねぇ。……って、もうこんな時間」


 ビクトリアは部屋の壁にかかっている時計を見て、目を丸くした。


 時刻は夜の七時。

 応接間にメロリーがやって来てから、約三十分経過している。


 挨拶が終わったらすぐに退室しようと思っていたメロリーは、思いの外居座ってしまったことに眉尻を下げた。


「な、長々と居座ってしまい申し訳ありません……! お話の途中でしたのに……」

「謝らないで。私がメロリーちゃんと沢山話してみたくて引き止めたようなものだもの。ああ、そうだわ。良かったら今度は我が家に遊びにいらしてね」

「よろしいのですか? ビクトリア様、ありがとうございます……!」


 メロリーはビクトリアに笑顏を向けた後、すぐにトーマスに向かって軽く頭を下げた。


「公爵様、長々と申し訳ありませんでした」

「い、いや……」


 先触れもなく来るくらいだから大切な用事があるに違いない。

 それに、おそらくメロリーが来るまでは、トーマスはこの部屋で顔を見せていたはずだ。このまま自分がいたら、トーマスが顔を隠したままなのは想像に容易かった。


 ビクトリアと打ち解けられたとはいえ、まだメロリーはロイドの妻でもない。

 トーマスのことももちろんだが、自分がこのまま居座るのは話が違うだろうというメロリーの判断だった。


「では、私はこれで失礼いたします」


 ビクトリアたちにはもちろん、ロイドにも一礼してから、メロリーはソファから立ち上がろうとした。


「メロリー、待ってくれ」

「え?」


 しかし、ロイドに手首をやんわりと掴まれてしまう。メロリーは再び、ぽすんとソファに尻をついた。


 どうしたのだろうと目を何度か瞬かせると、ロイドはメロリーの手首を掴んだまま、ビクトリアたちの方を見ていた。


「先程の件ですが……叔母上たちのためにも、メロリーに話を聞いてもらったほうが良いと思います」

「ロイド様……?」


 メロリーが来る前に、ロイドは既に用件を聞いていたのだろう。

 そこまでは察したが、その内容がてんで分からないメロリーは、流れに身を任せることしかできなかった。


 ビクトリアは口元に手を当てて考える素振りを見せてから、心配そうにトーマスに問いかけた。


「……ロイドがそこまで言うのなら私は構わないけれど、貴方はどう? 私は貴方の気持ちが一番大事よ。だから、無理はしなくても──」

「メ、メロリー嬢は……」


 ビクトリアの労る声を遮るように、トーマスは自身の膝の上に置いた手をプルプルと震わせながら口を開いた。


「私が顔を隠しても、興味本位で顔を覗き込んできたり、不審そうな目で見てきたりしなかった……。それに、彼女は、ビクトリア……私が愛した君の大切な甥である、ロイドくんが選んだ女性だ……。遠からず親族となる彼女のことを、信じてみたいと思う……」

「貴方……。分かったわ。トーマス様がそう仰るなら、私に二言はありません」


 トーマスはコクリと頷くと、ゆっくりと帽子を外す。

 その次に顔の半分を隠そうかというストールもパサリと取り払い、ゆっくりと伏せた顔を上げた。


「私が顔を隠していたのは、この肌のせいなんだ……」

「……!」


 酷く日に焼けたような、顔全体が赤らんだ素顔を見せたトーマスに、メロリーは目を見開いた。

読了ありがとうございました!

【12/18】皆様の応援のおかげで、異世界恋愛の週間連載中ランキング表紙入りしてました\(^o^)/

う、嬉しい……!本当にありがとうございます!

皆様、ぜひ最後までお付き合いよろしくお願いします〜!!

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