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14話 突然の来訪


 もう少しで陽が傾く頃。

 大量の野草を屋敷に持ち帰ったメロリーは、ロイドと共に離れを訪れた。

 野草が傷まないよう、保管庫に保存するためだ。


 本当は、採集した野草の一部を使い、このまま新薬の調合に入りたかった。

 しかし、ロイドに「今日は疲れただろうから、調合は明日にしないか? メロリーの体が心配なんだ」と心配げな面持ちで言われたら、調合を強行するわけにはいかなかった。


 楽しみでならなかった新薬の調合が明日までお預けになるのは切ないが、役に立ちたい相手──ロイドに余計な心配をかけるのは本望ではない。


 ちょうど手持ちに疲労回復系の薬がなかったこともあり、メロリーはコクリと頷いた。



 保管庫に薬草を収納し終えたメロリーたちは、屋敷のエントランスで使用人たちに出迎えられ、現在は廊下を歩いていた。


 ロイドが部屋まで送ると譲らないので、メロリーは甘えることにしたのだ。


「ロイド様、送ってくださりありがとうございます。もし急ぎの用がないのならお部屋でお茶でも飲まれますか?」


 使用人として働いていたので、お茶を淹れることには慣れている。

 せめてもの礼にと茶に誘ったメロリーだったが、ロイドからの返答は直ぐに貰えず、何故か彼は両手で顔を隠して天を仰いでいた。しかも小さく震えている。


「えっと……?」

「……すまない。メロリーから初めて茶の誘いを受けて、感動しているんだ」

「な、なるほど?」


 やはり、ロイドは不思議だ。

 口には出さなかったが、メロリーはそう思わずにはいられなかった。


「お話中のところ、大変失礼いたします。旦那様、少しよろしいでしょうか」

「ルルーシュ、どうした」


 すると、メロリーの帰宅の知らせを受けてティーセットを部屋に運ぼうとしているルルーシュが声をかけてきた。


 いつの間にかロイドは顔から両手を離しており、平静とした面持ちでルルーシュに視線を移している。


「たった今、メッシブル公爵家の家紋がついた馬車が屋敷の前に到着したと報告を受けましたので、お伝えに参りました。現在セダーが応接間に案内中とのことです」

「メッシブル公爵家だと? 今日訪れるなんて連絡は受けていないが……」


 耳にしたことのある家名に、メロリーはラリアの引き立て役として出席していた夜会のことを思い出した。


(メッシブル公爵家って、あの?)


 ──王家との繋がりも深い、メッシブル公爵家。


 引っ込み思案なのか、それとも何か訳があるのか、当主はほとんど社交場に出てこないという。

 その一方で妻である公爵夫人は社交界に精力的に参加しており、一人で参加することから夫婦の不仲説が囁かれていた。


(公爵夫人のことは何度か夜会でお見かけしたけど、艷やかな長い黒髪の、とっても美しい人だった気がする。妖艶って言葉が似合う感じの。そういえば、雰囲気が少しだけロイド様に似ていたような?)


 そんな感想を抱くメロリーをよそに、ロイドは口元に手をやって考える素振りを見せた。


「馬車に乗っていたのは夫人と従者のみか?」

「いえ。それが……」


 口籠るルルーシュに、ロイドは目を見開いた。


「まさか、公爵も来ているのか?」

「はい。帽子を深く被り、ストールのようなもので口元も見えないようでしたが、公爵家当主のお名前を名乗っていたと聞いております。公爵夫人がそのお方と腕を組んでいたことからも、おそらくご本人で間違いないと思いますが、恐れながら使用人の中で公爵様のお顔を見たことがある者はいないので、何とも……」

「……なるほど。分かった」


 どうやら、メッシブル公爵と思われる人物もこの屋敷に来ているらしい。


 しかも、先触れもなしとのことだ。

 貴族教育をまともに受けていないメロリーでも、この訪問がかなりイレギュラーであることくらいは分かる。


(一体何が起こっているんだろう?)


 メロリーは皆目見当がつかない。


 しかし、一方で、ロイドは「もしかしたら……」と呟いてから、我に返ってメロリーに視線を移した。


「すまない、何の説明もせずに」

「いえ! それは全く構わないのですが……ロイド様はこれからメッシブル公爵夫妻のもとへ行かれるのですか?」

「ああ。一旦自室に戻り、着替えてから行くつもりだ」


 いきなりの来訪とはいえ、相手が公爵夫妻ではラフな装いで赴くわけにはいかないのだろう。


(何にせよ、お茶はまた今度だなぁ)


 また折を見て誘おうとメロリーが思っていると、ロイドの窺うような視線に気が付いた。


「ロイド様?」

「メロリー、疲れているところ本当に悪いんだが、良ければ君も一緒に来てくれないか?」

「え?」

「せっかくの機会だから、君を私の婚約者だと紹介したいんだが」

「あ……」


 ロイドやアクシス、ルルーシュは元から好意的だったし、最近ではセダーを筆頭に使用人の多くの者たちがメロリーに対して偏見の目を向けなくなった。


 メロリーにとって、この屋敷での日々は、まさに温かな湯に包まれているような心地好さで満たされている。それこそ、楽園と言ってもいいほどに。


 けれど、辺境伯であるロイドと婚約したのだから、これからも屋敷の者以外と挨拶を交わすことは必ずあるだろう。

 偏見の目を向けられることも、恐れられることも、もしかしたら罵詈雑言を浴びせられることだって、あるかもしれない。


(でも、別にそれは構わない)


 そんなの、慣れっこだ。家族にさえ疎まれ、社交界ではずっとラリアの引き立て役として、陰口を叩かれていたメロリーにとって、それはさほど辛いことではなかった。


(でも、ロイド様まで悪く言われるのは、嫌だな……)


 あんな魔女を婚約者にするなんて、と思う者は決して少なくないだろう。


 もしも、相手方がそれを態度に出したら、ロイドは嫌な気持ちにならないだろうか、傷付かないだろうか。メロリーは、それだけが不安でならなかった。


「えっと、その……」


 目を泳がせながら言葉に困るメロリーを目にしたロイドは、その場に片膝をつき、彼女の手をするりと取った。


「もしかして、メロリーを婚約者だと紹介したら私が悪く言われるんじゃないかと心配しているのか?」

「……! 何で、それを」

「優しいメロリーの考えていることくらい分かるさ。だが、その心配は無用だ。私は何を言われても、君を婚約者にしたことを後悔なんてしない」


 それに、むしろ何か言ってくる奴には、それなりの制裁を食らわせるとロイドは話す。

 片手で拳を作り、少し冗談っぽく話すロイドに、メロリーはふふっと笑みを零した。


「それじゃあ、私はロイド様が穏やかでいられるような薬も考案しなくてはなりませんね」

「それは助かるな。穏やかな思考の上で制裁を与えるとしよう」

「そ、それでは薬の意味がありませんが……!?」


 確かに、と言って笑うロイドに、ついメロリーもつられて口元を緩ませる。 

 メロリーの不安は完全になくなった訳ではなかったけれど、不思議と先程までよりも心が軽くなっていた。


「……分かりました。ご挨拶に伺わせてください。服を着替えるので、少しお時間をもらってもいいですか?」

「もちろんだ。ゆっくり支度してくれ。それと、さっきはああ言ったが、おそらく今日は大丈夫だ。……それじゃあルルーシュ、あとは頼んだぞ」

「かしこまりました」

お読みいただきありがとうございました!

次回、メッシブル公爵夫妻とのご対面です!

お楽しみに(*´∀`*)


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