1話 魔女に突然の婚約
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「喜べメロリー。お前のような出来損ないに縁談の話が来た」
シュテルダム邸の一室。
高圧的な態度でそう言ったのは、ここシュテルダム伯爵家の当主──メロリーの父だった。
メロリーはそんな馬鹿な、と口をあんぐりと開ける。
母と妹のラリアがそんなメロリーを嘲笑う。
驚いたり、困惑したりしている様子がないことから、二人とも既に縁談の話は聞き及んでいるようだ。
「因みにお相手はどなたでしょう?」
「国防の要を担っている辺境伯──ロイド・カインバーク辺境伯様だ! 約三年にもわたる隣国との戦争の勝利の立役者がお前なんぞに縁談を申し込むとは。魔女のくせに役に立たない薬しか作れんお前には勿体ないお方だ」
どうしてそんな方が私に縁談を? とメロリーが疑問に思っていると、ラリアが「まあっ!」と言って笑い始めた。
「確か、その方には数年前にこんな噂が流れていたはずよ? 幼子しか愛せず、幼女を囲っている『変態辺境伯』だって! メロリーお姉様がさすがにお気の毒だわぁ。可哀想に〜」
「ラリアったら、こんな出来損ないに同情してあげるなんて……。さすが我が家の天使は優しいわねぇ」
ふわりとしたロングヘアーのプラチナブロンド。
ぱっちりとした大きな目に、睫毛なんて頬に影を落とすほどに長い。
実の姉であるメロリーから見ても、ラリアは美しかった。
その見た目と、できそこない魔女であるメロリーにさえ心優しく接するという様子から、ラリアは社交界で『麗しの天使』だなんて呼ばれている。
(まあ、ラリアが私に優しいっていうのは、違うんだけど)
可哀想に、とラリアは言うが、蔑む色を隠し切れていない。
しかし両親はラリアのことを溺愛しているので、そんなことに気が付かないようだった。
いや、厳密には気づいているのかもしれないが、大したことではないのだろう。
「なぜ私に、辺境伯様からの縁談が来たのか、お聞きしても?」
「書状には天使のようなメロリー嬢と是非結婚したいと書いてある」
「え? 天使?」
「ふはははっ! 馬鹿なお方だ! お前が天使などと、どうやらラリアと勘違いしているらしい! ラリアの引き立て役のお前がっ、天使だと……! ぶぶぶっ!」
つばを撒き散らすような汚らしい笑い方をする父に続いて、母とラリアもクスクスと笑みを零す。
対してメロリーは、言われ慣れた誹りには一切反応しなかった。
この家においてメロリーは、役立たずの薬しか作れない出来損ないの魔女で、麗しの天使と呼ばれるラリアの引き立て役でしかないのだから。
(それにしても、私とラリアを勘違いをするだなんて、辺境伯様はおっちょこちょいなのね。……でも、このまま勘違いをさせたままで大丈夫なのかな?)
いくら相手の間違いだとはいえ、勘違いを指摘しなかったことを問題にされるかもしれない。
もしも慰謝料を請求されても、払えっこないのは目に見えている。
父の見栄っ張りな性格と、母と妹の散財のせいで、我が家には財政的に余裕がない。とある方法で帳簿を盗み見たメロリーは知っていたのだ。
「勘違いだとはお伝えしないのですか?」
「当たり前だ。メロリーというのがお前だと知らせたら、この縁談はなかったことにされる。辺境伯家は国に貢献しているということで多額の金を持っているからな。支度金も既に用意してあると書いてある。……多少財政が不安定な我が家には、まさに渡りに船なのだ」
多少、ではないだろう。しかし、それをメロリーが指摘することはなかった。
言ったところで生意気な! と返ってくることは目に見えているからだ。
「でも、求婚相手が本当はラリアだと正直にお伝えしたほうが、問題は起こらないと思いますが」
「馬鹿者! 『変態辺境伯』と噂の男のもとへ可愛いラリアを嫁がせられるわけないだろう! ハァ……なんと冷たい魔女だ……お前は妹を思いやることさえできないのか?」
つまり、メロリーならばどんな男のもとに嫁いでも構わないということらしい。
一切愛されていないことは分かっていたけれど、それでもメロリーの心はチクリと痛んだ。
せめて家のために嫁いでくれと、その一言があったならば、気の持ちようは違ったはずなのに。
(けれど、仕方がないのかもしれない)
メロリーは両親とラリアに向かって、できるだけ穏やかな笑みを浮かべた。
「分かりました。私メロリー・シュテルダムは、ロイド・カインバーク辺境伯様のもとへ嫁ぎます。今までお世話になりました」
──何故ならメロリーは、数百年前に絶滅したはずの魔女の唯一の先祖返りで、『出来損ないの魔女』なのだから。
メロリーは深く頭を下げながら、肩をふるふると震わせた。
両親とラリアはメロリーが泣くのを堪えているのだろうとほくそ笑んでいたが、実際はそうではなかった。
(──さて、と。落ち込むのはこれで終わり! 色々準備しなくちゃ!)
いくら相手が『変態辺境伯』と呼ばれていようと、幼子が好みなら自分は対象外だろうし、大きな問題ではない。
このまま家にいて、家族から罵倒されるのも、ラリアの引き立て役にしかなれないのも嫌だった。
嫁いでから大変なことだってあるかもしれないけれど、この家を出ることができるならその方が幸せだと思ったのだ。
──それに何より、メロリーは魔女として、薬を調合することが大好きだったから。
(新たな土地に行けば違った素材が集められる! 今度はどんな薬を作ろうかな。鼻が痒くなるけど少しの時間視力がよくなる薬や、あくびが出るけれどお腹が痛くならない薬なんかはもう作ったし、次は何にしよう! ……とにかく楽しみ!)
──この時、メロリーの家族たちは知らなかった。
『出来損ない』と罵られたメロリーが作る『役に立たない薬』が、本当はどれだけ貴重だったかということを。
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