004話 お嫁さん
――村ルシェイ、領主の屋敷
今、僕の部屋の中で…母のクォルスと、僕の奴隷で次期魔王のリザが…仲良さそうに話をしております。
先程、リザが扉を開けてしまい、母と鉢合わせしたのです。その際、母はリザが裸である事に気付くと、部屋に戻って…使っていない自分の服と下着を持ってきたのです。
すると、すぐさま母は…持ってきた下着からリザに着させ始めたのです。
そして、今のこの状況に至ります。
「リザちゃんは、シェルディスの事は好き?」
「はい!ごひゅぢんひゃま、だいひゅきでひゅ!」
女子同士、ざっくばらんに話をしておりました。
元々、母は娘も欲しかったようなので、それもあるのだと思います。
「シェルディス?リザちゃんの事、ほんと…大事にしなさいよ?」
「クォルスお母様?さっきも説明したけど、リザは…次期魔王なんだよ?」
「魔王だろうと英雄だろうと、関係ないでしょ?リザちゃんは、シェルディスの奴隷なんだからね?」
母はリザを奴隷として買ったことや、次期魔王だという事を伝えても、全く動じる様子がありませんでした。
「リザが僕の奴隷だったら、何があるの?」
「あら?シェルディス?まさか…ルシェイ家のしきたりを忘れたわけじゃないわよね?」
我が家のしきたり?
そう言われても、全く覚えがありませんでした。
そもそも、祖父や父は奴隷を使っていません。
なので…奴隷についてのしきたりは、自分も関係ないと思い…聞き流す程度だったのかもしれません。
「全く…シェルディスは困ったものね!!奴隷を買った場合、家族の中で責任を持って必ず娶る事って。」
「えっ?!」
何故…貴族の祖父や父が、奴隷を使っていない理由が分かった気がしました。
祖父も父も、幼馴染と若く結婚しておりました。
それに…この世界で妻は一人と決まっています。
そこに、家のしきたりが重なれば、自ずと…奴隷を買うという行為は、家族への足枷となります。
「という事は…僕は、リザと結婚するんだね?」
「ごひゅぢんひゃま?わたひ、けっこん…?」
ただでさえ、金色に輝くリザの左目が…結婚という言葉を聞いて、更に…キラキラしているように感じました。
「うん。リザの身体を治したら、結婚しよう。」
何故、リザの身体は魔王化し始めたのかは分からないですが、もしも魔王の身体ならば…再生能力がある筈なのです。
ですが、右目や歯は再生しておらず、身体中に男達につけられた傷跡や…生傷もそのまま残っております。
「あの…クォルスお母様?古の治療魔法って何か知ってるかな?」
「それって、現在では魔王だけが使える回復魔法の事でしょう?確か…ルシェイ家の祖先もその魔法が使えたと、教わったわよ?どんな怪我もたちまち治したそうね。ただね…?難点があって、自分を対象にはその魔法…使えなかったみたいだけど。」
母から聞いた情報と、誘導師に聞いた話を元に…僕は古の治療魔法について頭に中で整理してみました。
・魔王は回復魔法が効かない。
・魔王は古の治療魔法が使える。
・魔王は古の治療魔法が効く。
・祖先も古の治療魔法が使えた。
・古の治療魔法は自分には使えない。
恐らくですが…魔王は自己治癒能力や、再生能力が備わっているので、自分への回復魔法は不要なのだと思います。
その為、自分以外の仲間を、治療する為の魔法を編み出したのかもしれません。
何故…魔王を討伐したパーティに参加していたとされる、祖先も使えたのかが謎が残ります。
「ルシェイ家の祖先に関する文献や遺品って…何処かに残っていたりする?」
今まで、祖先の事について関心が無さすぎました。
「書庫に確か…誰も解読出来ていない、祖先の日記が残されているのよ。興味あるなら、シェルディスも試してみる?」
「うん!!リザも行こうか。」
「ごひゅぢんひゃま…?わたひ、こんやくひゃ…?おかあひゃま、いった!」
全く…母は僕が考え事をしている隙に、リザに早速入れ知恵をしたようです。
「そうだよ?リザは将来、僕のお嫁さんになるんだ。」
「ごひゅぢんひゃま♡わたひ、ずっといっひょ♡」
幸せそうな表情のリザを見ていたら、今まで…奴隷にさせられ、色々奪われたり壊されたり傷つけられたりして、不幸だった分…僕がリザを幸せにしてあげたくなりました。
「うん!!ずっと一緒に居よう!!」
前世では彼女の彩綾と添い遂げられなかったので、今世では…必ず、リザと添い遂げたいです。
「じゃあ…って、あれ!?リザは?」
「目の前で…一瞬で、リザちゃん消えたの…。」
リザが忽然と消え、母が狼狽えておりました。
「まさか…次期魔王って事がバレて、連れて行かれた?!」
――ブンッ…
リザが居た場所に魔法陣が浮かび上がりました。
僕と母は身構えました。
――スタッ!
「ひゅごい!!わたひ、まほうつかい?」
魔法陣の場所にリザが着地するように現れました。
恐らくリザは『空間転移』か『瞬間移動』の魔法を使ったのだと思います。
――パチパチパチパチパチパチ…
「リザちゃん!!凄いわねぇ!!その調子でいけば、きっと立派な魔王になれるわよ?」
「わたひ、まおう!?まほうつかい、ちがう?」
幼少より…人間の奴隷として扱われ、何とか生きてきたリザにとって、自分が魔王だなんて思いもしなかったのでしょう。
「リザちゃんはね?魔王の娘なのよ?だから、いつか魔王になるの。」
「わたひ。ごひゅぢんひゃま、およめひゃん!!まおう、なる?」
まぁ…普通の女の子なら、好きな人のお嫁さんになる事の方が、何より大事だと思います。
「そうよ?リザちゃんはシェルディスのお嫁さんだけど、魔王にもなるの!!」
母は強し…でしょうか。僕と結婚したら、義理の娘となるリザが、魔王になる事について…後押ししております。
「はいっ♡およめひゃん、まおう、なるっ!!」
それにしても、近い将来…こんなにも可愛い魔王が、この世に誕生しても良いものなのでしょうか。
その頃にはきっと…リザは、僕のお嫁さんなので、人妻の魔王という事になります。
その姿を想像しただけでも、ニヤけてしまいます。
「じゃあ、リザ?書庫に行ってみよう。」
「はい♡ごひゅぢんひゃま♡」
――ギュッ!!
今までのリザとは比べ物にならない力で、僕の右腕に抱きついてきました。しかも…思い切り抱きついてくるので、リザの大きな胸が腕の腕を挟んでいる状態なのです。
まぁ、魔王化が進んでからのリザは…特に可愛いすぎるので、浮気以外なら何をされても許してしまいそうです。
「ごひゅぢんひゃま…?わたひ…。あかちゃん、ほひいでひゅ!!」
腕に抱きつきながら、上目遣いで…下から僕を見つめてきました。
何故かと言えば、僕の背は百八十センチ程ありますが、リザの背は百五十五センチ程しかないのです。
恐らく…歳はリザの方が上だと思うのですが、次期魔王ですし、可愛いので…もう、リザがいくつであろうと構いません。
「赤ちゃんか…。今の…リザの身体では赤ちゃんは無理なんだ…。壊されてしまっているからね?」
「ごひゅぢんひゃま…?わたひ…。あかちゃん、むり…?」
僕を見上げるリザの表情が…みるみる悲しみで溢れた表情に変わってゆきました。
「僕が…いつかリザの身体治してあげるから。だから、今は泣かないで?僕はリザとずっと一緒にいるから。」
「ごひゅぢんひゃま…。わたひ…。あかちゃん、むり…。ひゅてないで?」
「大丈夫だよ?別に僕は…赤ちゃん居なくても、リザが居てくれたら良いからね?」
――ギュゥゥゥゥッ…
「うわああああああああん…!!」
恐らく…男達に身体を壊され、子供が産めない身体にされてしまっていた事に気付いた悔しさで、リザは僕の腕に抱きついたまま暫く泣いておりました。