001話 奴隷市場
――日本
いつの頃だったでしょう…。
僕は日本人として生を受け、何不自由なく…ごく普通な毎日を過ごしていました。
そんな代わり映えのしない毎日を繰り返し、僕が二十五歳になった時の事でした。
「彩綾ちゃん、今日も僕のドライブに付き合ってくれてありがとう。」
「ううん?私は、雪人くんの運転が好きだから…付き合ってるだけだよ?」
僕は大学を卒業後、二十二歳で地元IT企業へ就職をしておりました。
その職場で、専門学校卒の二年先輩の女性社員と…一緒のプロジェクトの仕事を進めていくうち、二人は恋仲となりました。
年齢も同い年という事もあり、話も合う事が多かったです。
今、その彼女と…大型休日を利用して車で、東北へと旅行に来ていたのです。
――グラグラグラグラッ…
「きゃあっ!!」
「地震?!車、とめよう!!」
――キキィッ…!!カッチッカッチッカッチッ…
左手に山、右手に海岸線が広がる景色の良い道で突如、大きめの地震に遭遇したのです。
思わず、僕は車を山側に寄せ…ハザードを点けてとめると、揺れがおさまるのを待つ事にしたのです。
「大丈夫だよ?彩綾ちゃん。」
――グラグラッ…
また強い揺れが襲ったその時でした。
――ゴンッ!ゴロンッ!!ガンッ!!ゴロンッ!!
大きな音が山の方から聞こえました。
「なに?今の音!?」
「何だろうね…。」
――ドガンッ!!
車の数メートル手前で、落石がありました。
「きゃああああ!!」
恋人の彩綾ちゃんがパニック状態に陥りました。
――バタンッ…
何を思ったか、ドアを開けると…車外へと飛び出てしまいました。
――ゴッ!!ゴゴッ!!ゴッ!!ゴンッ!!
また大きな音が山の方から聞こえました。
――バタンッ…
「彩綾ちゃん!!車の中に入って!!」
僕も車外に出ると、車の後方でしゃがみ込む彩綾ちゃんに…車の中へ戻るよう説得し始めました。
――ブンッ…
山から、大型バス程ある大きな岩が…僕達目掛けて落ちてきました。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
――グヂャンッ!!
僕は、痛いさえも感じない程の即死でした。
次に僕は目覚めると、そこは日本でも地球でもない異世界でした。
よくラノベで読んでいた作品の主人公のように、僕は異世界転生したようです。
ですが、旅行先の車内で地震に遭遇し…落石にパニクって車外に飛び出した恋人のせいで、降ってきた巨岩がぶつかって異世界転生とか…笑えませんでした。
恋人の彩綾ちゃんがどうなったのかは知りません。
助かったのか、僕と同じく即死したのか…。
僕は…異世界へと転生してしまったので、もう知る由もありませんでした。
――エルゼド
転生したこの世界は…エルゼドと呼ばれています。
人間とエルフ等の他種族が共存しており、魔族や悪魔、それに仕える魔物達との覇権争いが繰り広げられております。
人間側には英雄と呼ばれる者達、魔族側には魔王と呼ばれる者達が居ります。
よくあるファンタジー小説等のように、英雄側は…安寧の世を作る為、魔王の命を狙います。
ですが…魔王側は、世界の覇権や領土については奪いにきますが、英雄側の命を狙ったという話は…聞いた事がありません。
それぞれの陣営の大義名分に、明確な認識の違いが垣間見れて…非常に面白いとは思っております。
そして、異世界転生をした僕ですが、とりあえず人間には転生出来たようです。
僕の家系は、非戦闘職である治療師と呼ばれる、位の低い貴族の出自でした。祖先は…今世では英雄と謳われている人物達と共に魔王討伐しておりました。
酷い話なのですが、戦闘では治療師は必要不可欠なのに…手柄は全て戦闘職が持って行ってしまう為、評価が著しく低いのです。
その為、祖先は…英雄達と魔王を討伐したという功績はあった為、祖先の死後…国王から名ばかりの貴族の位を拝領したそうです。
この世界で貴族は、十六歳になると…奴隷を買えるようになるのです。
実は…僕も十六歳になった為、これから奴隷を買いに…都市イネルダにある奴隷市場まで行くところでした。
僕の家族が住むのは…辺境の村ルシェイです。
「もう、シェルディス!!これから…イネルダに行くのでしょう?無理して…奴隷など非人道的な者など、買わなくて良いのですよ?」
「クォルスお母様、すみません…。それでは、社会勉強も兼ねまして行ってまいります。」
僕の名前は、シェルディス=ルシェイと言います。
祖先の息子が貴族の位を国王から拝領した際に村を興し、それから代々…僕の家が村を治めているのです。
祖父や父は奴隷を所有しておりませんでした。
僕は…ラノベ等で奴隷について、興味津々だったので…出来れば買って、あんな事やそんな事などを…奴隷に対してしてみたいと思っております。
都市イネルダまでは、村の外れに設置された転送門を使って行き来をします。
各地に点在する転送門に一度でも触れておけば良いのです。
そうすれば、転送門を潜る時その地域をイメージすることで、最寄りの転送門まで転送してくれるのです。
「都市イネルダ…。」
――ブンッ…
僕の身体が村ルシェイの転送門の中から消えてゆきました。
――都市イネルダ、郊外の転送門
――ブンッ…
僕が再び転送門の中へと姿を見せると、周囲が急に賑やかになりました。
門の中から出ると…都市イネルダの街外れでした。
この日の僕の主な目的である、奴隷市場も…その性質上、転送門の場所から近い街外れに位置していました。
――都市イネルダ、郊外の奴隷市場
今、僕の姿は奴隷市場の中にありました。
奴隷市場に入る時、貴族である事を示す…家紋を見せなければなりません。
その際、家紋を見せた時…守衛から失笑されてしまいました。その守衛曰く、この家紋を使う貴族の存在は知っていたが、まさか奴隷市場に来るとは思わなかったと。
やはり、僕の家系は…この世界ではかなり笑いものになっているようです。
気にしたら負けなので、かなり内心イラついた僕でしたが平静を装って…奴隷市場を探索し始めました。
男なのに綺麗…。
女は超美人…。
高い…。
買えるはずない…。
それが僕の奴隷に対する第一印象でした。
値段が高いと言っても…次元が違って、家や土地を買う次元の高さでした。
安い奴隷は居ないかと探していると、奴隷市場の隅で声をかけられました。
「兄さん!!この奴隷、引き取ってくれねぇかい?」
前述の通りの奴隷が立ち揃えられている中、奴隷商人が指差した方を見ました。
指の先に見えたのは、一人だけ地面に横たわった状態で…薄汚れており、裸同然のボロボロの布切れのみを着けた女の奴隷でした。
「いくらなんだ?」
「そうだなぁ…右目は潰されて、歯もほとんど抜かれて無いし…。女としての機能も壊されてるからねぇ…。兄さんに、きっと迷惑かけるだろうし…なぁ。金貨一枚でいいよ。」
僕のお小遣いでも余裕で買える値段でした。
「では、その奴隷…僕が引き取るよ。ほら。」
奴隷商人に金貨一枚を渡したのですが、受け取ってくれませんでした。
「お気持ちだけで結構なんで。では、奴隷との契約しましょうや?兄さん、手出してくだせぇ!」
「こうか?」
「ちょいとチクっとしますぜ?」
僕が手を出すと、奴隷商人は針で僕の手の指を刺してきたのです。
「『汝をこの憐れな奴隷の主とする。この契約は永続也。』」
そう言いながら奴隷商人は、血の出た僕の指を女の奴隷の口に捩じ込みました。
「兄さん、これでこの奴隷との契約が成立しやしたんで、あとは好きにして下せぇ!」
僕は…たった今、自分の奴隷となった女をまじまじと見ました。薄汚れて…身体中傷だらけでしたが、かなりの美人で…なかなかのスタイルでした。種族はと言えば、一見して人間のように見えました。
「ごひゅぢん…ひゃま…。」
初めて…奴隷の声を聞きました。
正直な感想ですが、なかなか可愛い声でした。
それに、これからの奴隷との生活を想像すると…僕は興奮を抑えきれませんでした。