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Close to You  作者: Tohma
99/102

97 ライブ開演前 続き

13時00―


 午後の体育館での公演は、女子ダンス部のパフォーマンスから始まった。


軽快な洋楽のイントロとともにステージ上の15名くらいのダンス部員達が動き出し、彼女達に黄や赤のまばゆいくらいの照明が当たる。


残り1時間……その時、僕等のライブがついに始まる。


観客席から手拍手と歓声が沸き起こる。


ステージ横から見るこの光景に緊張感は増すばかりだ。


それと同時に、もっと大勢の観客の前で幾度(いくど)もこんな思いをしながらパフォーマンスをしている雨音に尊敬の念も抱いた。



 ダンス部の演目を音だけで体感しながら、ステージ横の控室で僕はギターのコードと歌詞を確認した。


もちろん音を出すわけにもいかないのでギターはエアー演奏、ボーカルはサイレントで。


石森も椅子に座って両手にドラムスティックを持ち、目を(つむ)ってエアードラムでリズムを刻んでいる。




そして、僕等のライブ開始15分前になる頃だった。



「いや~いよいよだべ」


いつの間にか藍菜が控室にふらっと現れた。肩には彼女愛用のベースをぶら下げて余裕の表情だ。


そのベースのボディにはアルファベットAの大きなステッカーが貼られていた。


藍菜のイニシャルのAという意味なのかと思っていると、彼女は僕の視線に気付き、


「えっへへ、いいべ、バンドのエースという意味でもあるべ」


と何も言ってないのにご親切に教えてくれた。石森にも自慢している。


それにしてもベースの音響チェックさえ多分もろくにしていない様子で、本番ははたして大丈夫なのだろうか。


僕は1人だけで現れた彼女に別の疑問をぶつけてみた。


「茜はどうした?」


藍菜は、にっと笑い、


「目立たないように観客席の(すみ)っこでうちらのライブを見てるって言ってたべ、あ、いやメッセージで」


とステージを指差した。


 藍菜も本番前でテンションが上がっているらしく、そわそわと落ち着かない様子になり、どれどれと僕の横をすり抜けてステージの様子を見に行った。


僕と石森は一旦顔を見合わると、気を取り直して引き続きライブの最終チェックに戻った。



「おい、塔、おい」


「え?」


ステージ(すそ)から観客席を観ていた藍菜がこちらを向いて手招きしているのが見えた。


ニタニタ笑いながら観客席の方を指差している。


僕が何だよと近づいて行くと、彼女は僕を彼女の居た場所に立たせ、僕の肩をポンポンと軽く叩いた。


「おみーも見てみろい。あのエウレカメンバー様もわざわざお出ましになって、おまけに最前列におるべ。あいにくおみー推しの宮内(くない)じゃなかんべけども」


「え?」


僕は藍菜の言葉が十分に飲み込めないまま、言われるがまま上手(かみて)側のステージ脇から観客席を見た。


うっすらながら客席の顔を判別できる最前列を一巡してみる。


すると真ん中よりも少し下手(しもて)側に雨音との仲良しクラスメイトAがいるのが見えた。


そしていつもならその隣りにBがいて……いや、AとBの間に1人いる。



雨音だ……


雨音がうちの制服姿で他の生徒達とともに席に座っているのが見えた。


彼女はごく自然に周りと溶け込んで両隣りのABと一緒に楽しそうに笑っている。


間違いないよなと何度も目をこすり、目を()らして確認した……それでも間違いない……正真正銘の雨音本人だ。



(僕、雨音さんの頑張っている姿に感化されて、今曲を作っているんです!そのほとんどが雨音さんに捧げる歌です!いつか聴いてください!)



確かにさ、5月の握手会の時に確かにそう言ったけどさ……


残り10分。こ、これから雨音の目の前で歌わなきゃいけないのか……


いくらなんでも早すぎる!!


心の準備がまだ……とてもできそうにない!!

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