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Close to You  作者: Tohma
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91 ゲーム同好会

 文化祭の(もよお)し物を見るために僕等は校舎の中へと入った。


校内でなるべく茜が目立たないように藍菜が前、僕が後ろに回って彼女を隠すように努めて歩いた。


それでも玄関や廊下ですれ違う生徒達の中には違和感を覚えるのか茜を見て、首を(かし)げる者もいた。


1階の食堂の前まで来ると傍に居た3人の女子生徒達の1人が茜の方を指差し、あんな子いたっけと言っているのが聞こえて来た。


その言葉に呼応するように他の生徒達も茜に疑惑の目を向け始めた。


藍菜はそれには知らぬ存ぜぬといった顔できょろきょろしていたが、このままでは誰かが茜にうちの学校の生徒かと話しかけたり、ここに教師を連れて来たりするなどが想像できて騒ぎになり兼ねない。


(たま)らず僕は、


「転校生の久慈さん、ここでね、カレーや焼きそばなんかが食べれるよ」


とわざと3人の女子達に聞こえるように言った。


それにより彼女達や周囲の人達も茜を転校してきたばかりの人と信じてくれたようだ(本当は違うけど)


なんとかその場の危機を回避できたことにほっと一安心する僕に藍菜は親指を立ててニッコリと笑った。



 1階の他の教室にはアート系のものが展示されていた。


美術部のブースでは部員が個々に制作した自画像やこの高校の風景画などの水彩画や油絵が展示されていた。


手芸部では手編みのかばんや小物入れ、マフラー等が机の上に並べられていた。


写真部では10月に行われた球技大会の様子のポートレートが写真展のように何枚も壁に貼られていた。


僕等はその写真部の作品も1つずつ見て歩いたが、その中に小さくではあるが、あのソフトボールの試合でフライを取り損ねてまさに頭に当たった直後の僕が奇跡的に撮影されていた。


2人よりもそれにいち早く気づいた僕は茜に見られるのが恥ずかしいと咄嗟(とっさ)に手で隠したが、その不自然な動作を藍菜に見つかってしまい、すぐさま僕の両手は払いのけられてしまった。


「ああ、あの時のだべ。あはは」


藍菜がバンザイしてマヌケな顔をしている写真の僕を腹を抱えながら指差した。


それを見た茜も普段は感情を表に出さないタイプだが、流石に笑いのツボにはまったらしく声は発しないものの肩を小刻みに震わせて笑っているように見えた。



 1Fを一通り見終え、2Fへと足を運ぶと目の前にゲーム同好会の部室があった。


僕が代表してドアを2度ノックしてそーっと中を(のぞ)くと、複数のPCの内の1台の前で何か作業をしていた生徒が1人いた。


彼は直ぐに僕に気付き、


「やあ、相馬君」


と言ってこちらに手を挙げた。クラスメイトで僕の前の席の大衡(おおひら)だった。


こちらへやって来ると藍菜と茜を見て、


「おやっ、両手に花でうらやましいね」


とジョーク交じりに笑った。


それについて僕は真顔でいや、そうでもと愛想なく返した。


大衡はニコリとした顔のまま続ける。


「他の部員達は他の部のブースが気になるみたいで調査に行ってるよ。僕も一緒に行きたかったんだけどあいにくジャンケンで負けてしまって1人で留守番を任されていたところだったんだ。せっかくだしよかったら僕等の作ったゲームで遊んで行かない?」


そう言って彼は僕等を部室の中へ入れ、PCの前に座らせた。


 ゲーム同好会の今年制作したゲームは仙宮校内を探索する2次元アドベンチャーRPGだった。タイトルは仙宮クエスト。


「キーボードだと操作しづらいから、ゲームが始まったらこのゲームコントローラを使って」


僕等3人は各自PCに備え付けのコントローラを手に持った。


スタートボタンを押すと教室の中に1人の主人公の生徒がいて、このキャラを動かしてミッションをクリアしていくようだ。


校舎の中を歩き回っていると他の生徒から鍵を無くしたので探してくれというものや先生に取られたお気に入りのマンガを力ずくで取り返しに行ってくれなんてものもある。


基本は学内の人と会話して選択肢を選んで進めていくようだが……


「出たな生活指導、えいっ! このやろう!」


隣りで藍菜が叫ぶ。どうやら現実世界と同様にあの生活指導の先生とゲームの中でも格闘しているようだ。


野球部のバットや剣道部の竹刀といった武器も装備できるので、それで校内の不良生徒や教師と戦ったりすることもできる。


こんな不謹慎なものを作って後で先生に怒られるぞと大衡に言うと、


「部長も含めてみんなで面白いものを作ろうと話し合った結果、こんな風になったんだ。僕もまずいんじゃないかとは一応言ったよ」


彼は気まずそうに苦笑いした。


「まあ色々と遊んでみて。それじゃあ、僕もちょっと出かけてきていいかな?」


大衡も屋台や食堂に行って飲み食いしてきたいらしい。僕等にゲームをやらせたのは代わりに留守番して欲しいのが目的だったようだ。


「すぐだよ。5分くらい。お願い!」


彼は手を合わせると、こちらの同意も聞く前に部室を出て行ってしまった。


「この! この! なかなかしぶといなこの先公!」


藍菜もこの通りだが、茜も画面をじっと見てゲームに夢中になっているようなので、僕も大衡が戻ってくるまでの間このゲームで遊んでいることにした。


「うわっ! やべえ!」


気になって藍菜の方を見ると、画面が固まっていて彼女がコントローラをいくら操作しても動かない。どうやらゲームがバグってしまいフリーズしてしまったようだ。


「壊しちまったかな~、あいつや他の部員が戻って来る前に隠れるぞ!」


藍菜はゲームを続けていた茜の手を強引に引っ張って、部室の奥にある準備室のようなところに入って行った。


僕も彼女達について行くと


「いいって言うまでここに一緒に……静かにして隠れてろい」


「えっ! ちょっとまっ」


僕の言葉もままならないうちに藍菜になされるがまま、角にあったロッカーに茜と一緒に無理矢理押し込められた。

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