89 1年目の文化祭
1週間があっというまに過ぎて行き、とうとう文化祭1日目である土曜日を迎えた。
この日の文化祭参加対象は学内の教職員と生徒のみ。ある意味、明日の一般者が来場できる本番の文化祭の予行練習のようなものだ。
朝のホームルームの時間―初めてのライブの事で頭がいっぱいで担任の登米の話もほとんど上の空で聞いていた(みんなで楽しい思い出を作ろうとかそんな感じの内容だったと思う)
ホームルームが終わると、僕の前の席の大衡のところに雨音のクラスメイト(ゲーム同好会所属)がやって来て、雨音は今日も登校して来ていないことを教えてくれた。
残念だと思いつつも最近の超多忙スケジュールに当然だろうなと思った。
本日の軽音学部の演奏開始は14:00から。そして、MetoHanaの出番は14:30から。それまでだいぶ時間がある。
とりあえず演奏の最終調整をするために部室に向かおうと席を立った時、スマホにメッセージが届いた。藍菜からだ。
(すぐに校門まで来てくれないべか)
メッセージ上なんだから別に方言を使わなくてもいいんじゃないかと思いながらもライブで使うアンプとかを運んだりするのを手伝って欲しいのかもしれないと廊下に出た。
行き交う生徒達― 段ボールで作った看板を抱えている男子生徒がいれば、三角巾にエプロン姿でフード用の大量のお椀や箸をお盆に乗せてそれらを落とさないように慎重に階段を昇っている女子生徒達、きっとお化け屋敷をやるんだろうシーツを頭から被っている者や釣り竿に提灯をぶら下げて歩いている者までいる。
いつもの校内のいつもと違う景色― みんな笑顔だ。僕自身、これから始まる年1度のイベントにワクワクする感情を抑えきれない。
下駄箱で靴を履き替え正面口に出た。
まだ準備中の出店が立ち並ぶ中を通り抜け、校門の方へと向かうと藍菜が見えた。
「おお、塔、こっちだべ!」
そして、さらに近づくと隣りに茜の姿も見えた。
(マジかよ……)
彼女達に向かって中途半端に手を挙げながら僕がそう思った理由は、学校側からすれば部外者であるはずの茜が普通にうちの高校の制服を着用していたからだった。