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Close to You  作者: Tohma
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7 ボーカルレッスン

 翌日、CDを追加で買いに行こうと思っていた矢先、スマホに藍菜からメッセージが届いた。


久慈茜が僕の歌を聴いてみたいので、これからカラオケしないかとの内容だった。


つい先日、藍菜に弾き語りを披露したので、茜にもその事が伝わったようだ。


 文化祭の時は一定数の生徒の前で歌うわけで、今から人前で歌うのに慣れておいた方がいいな、その後にCDを買いに行けばいいやと思い、今から行くと藍菜に返信した。


 仙台市内の指定されたカラオケ屋に行くと、案内された部屋には茜が一人で座って居た。まだ会って2回目なので、お互いにぎこちなく挨拶をすると茜は自分のスマホの画面を僕に見せてきた。


(このアドレスにメッセージを送って)


茜が藍菜といつも会話に使っているスマホアプリのようだった。アプリをダウンロードしたり、茜と何回かやり取りして、なんとかメッセージを交換できるようになった。


(藍菜は来てるの)


(今、トイレに)


 既に茜と藍菜のドリンクがテーブルの上に置かれていたので、僕もウーロン茶を注文した。そして、茜と二人でモニターに映る最新の曲のリストを眺めながら藍菜を待った。



 長い沈黙が続くので何だか落ち着かない。何か話題をと考えていると茜の方からメッセージが届いた。


(この間のトウェセンガールズのCDどうもありがとう)


 以前、二人が家に来た時にコピーして渡した21th Century Girlsのベストアルバムのことだった。後で僕自身も兄貴から借りて聴いてみたが、今でも通用しそうなメロディーと詞で、エウレカのメンバーが歌ってもいいんじゃないかとエウレカの曲と交互に聴いて感じた。


 茜には、どういたしまして、他にもいいアーティストを知っていれば教えてと返信した。茜は前髪とマスクで顔が隠れていたが、その返信にニコりと笑っているように見えた。


 藍菜が僕等の部屋に入って来た。


「おう、わりーわりー」


 そして既に注文してあったコーラをゴクリと飲むと、僕に早速歌ってみろよと言ってきた。茜は歌えないようだし、藍菜もまだ歌う気はないようだ。


いきなりだなと思いつつも僕は既に決めていた曲を選曲した。最近注目されている人気ロックバンドのシャウト系の激しい曲で、この間、軽音楽部の石森いしのもりからこのバンドのボーカルに声が似ていると言われ、自分でもまんざらでもなかったのでひそかに練習していた。


 僕は前に立ち、文化祭のライブのリハーサルだと思って全力で歌ってみることにした。


 クラッシック調のイントロから始まり、そしていきなり激しいサビ、曲はAメロに入って落ち着き、Bメロで徐々に加速、そしてクライマックスのサビと息継ぎ(ブレス)に四苦八苦しながら、なんとかフルコーラスを歌い終えた。一仕事終えた僕は、ふーっと一息ついてソファに腰を下ろした。カラオケの採点結果は88点が出てまあまあだなと思った。


 チリンと茜からスマホにメッセージが届いた。


(高音部分の音程が所々ずれています。ストローでブクブクして声帯を開きましょう)


 想定外の評価をもらった僕は驚きとともにいったい何なんだコイツはと思った。


 僕の表情を見て同じメッセージが転送されている藍菜はクスクスと笑いながら言った。


 「塔よ。悔しいだろうけんど茜先生のアドバイスは的確だ。水にストローを差してこうやってしばらくブクブクってしてみろい」


 藍菜は鼻をつまみながらストローで息を吐き、コップの水をブクブクとさせた。


 僕は一瞬ためらったが、歌が上手くなるならと藍菜の真似をした。この間に店員さんが入って来たら気まずいなと思いながら、茜がOKと言うまで3分間くらいブクブクさせた。


 その後に同じ曲を歌ってみると、苦しかった高音が楽に出せている。採点結果は95点に上がった。


 驚いた僕の前で藍菜も茜も手を叩いて拍手している。僕は茜にありがとうとメッセージを送った。


 その後、僕1人で5曲くらい同じようなロックの激しい曲を歌わされた。時々藍菜が、茜の方を見て笑いながら自分の気分でコーラスを入れたり入れなかったりを繰り返した。


さすがに喉が潰れると思っていたら、


「いやあ、えがったべ。1曲目で嫌な思いさせてすまなかったな。茜がそろそろ家に帰らないといけないので、うちら帰るわ」


 ほとんど僕しか歌っていないじゃないかと言う前に、藍菜はポケットから取り出したものを渡してきた。


「最後にうちらからの餞別せんべつだ」


それは3枚のエウレカードだった。宮内 理沙と2期メンバーの釜井かまい 静流しずる,そして最後は雨音のカードだった。全部握手会の権利がある今年のカードだった。


「エウレカンの貴様なら連休の握手会行くんだべ。2人で何とか1枚だけだけど宮内のカードゲットできたで」


僕の本命は雨音なのだが、そんなことはどうでもよく、飛び上がって喜びたい気持ちを抑えながら彼女達に礼を言った。


(せっかくの機会だから楽しんで)


という茜からのメッセージを最後に、その日のカラオケと称するボーカル個人レッスンはお開きとなった。

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