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Close to You  作者: Tohma
81/102

79 最終問題

第20問


 次の式を解きなさい


  1+2×5=?


 

 ここまでの問題全部、華巻が先に早押しボタンを押していて、今回も例にもれず彼女が先行した。


「1+2=3で3×5=15!」


ここでもブブーと不正解の音が鳴り、都の番となった。


「掛け算や割り算はビジネスクラス。そして、足し算や引き算はエコノミークラス……だから掛け算にカッコをつけて……」


都が独り言のようにつぶやく。そして彼女は答えた。


「先に2×5=10、1+10=11!」



ピンポーンと20問目で初めて正解音が鳴り響いた。


「都さん! 正解です!」


釜井もやっと長丁場の収録が終わって嬉しいのか声を弾ませる。


「いやったー!」


都はこれでもかというくらい両手を天高く掲げ、座っていた椅子から勢いよく飛び上がった。


「この勝負、勝者は都 亜衣さんです!」


「どうだー、華巻ぃー、恐れ入ったかー!」


「くぅ~、悔しい~」


華巻は先に答えられなかったことに歯ぎしりしている。


「あおさ~ん、に勝って欲しかったなぁ……それにしても、あおさんができなかった計算を亜衣さんはよくできましたね。まあ小学4年生くらいで習う簡単な算数の問題でしたけど」


喜多上の皮肉たっぷりのかなり上から目線の質問にも都は宿敵華巻に勝てて余程嬉しいのか気にも留めず早口でまくしたてる。


「×と÷は、+と-よりも計算の優先度が高い。この間、あんた達と一緒に握手会で飛行機に乗って北海道に行ったじゃない。あたしだけ副リーダーの特権でビジネスクラスで1人先に乗れて、エコノミーだったあんた達がずるーいとか何とか言ってて。あの時に同行したスタッフさんに教えてもらったのよ。×と÷はビジネスクラスのように優先度が高いから+や-と一緒の時はカッコをつけて先に計算するんだって」


都はまるで何か大きな大会で優勝したかぐらい喜びで感情を爆発させ、両手に持った教科書とノートを扇子(せんす)のように振って踊り狂っている。


 一方で都に敗北してしまった華巻はよほどこたえたらしく机に突っ伏してまるで電池の切れたおもちゃのように動かなくなってしまった。


「あー、やっと終わってくれたー」


「長かったねー」


 松尾や二瓶をはじめ、メンバー達は2人の長過ぎた対決が終わってくれたことにほっとしているようだ。


「……ということで本日の学力テストは終わり……」


「ちょっと待った! 最下位の人に対するまだ大事な大事な罰ゲームが残っているでしょ」


釜井が番組を締めようとするが、都がそれを制した。


「くー、このままスルーしてくれると思ってたのに」


上体を起こした華巻は都に負けたのがよほど悔しいようで涙目になっている。


「なぎー、相方でしょ、この状態なんとかして~」


「いや、そんな無茶ぶりされても……あたし9位中7位だったし、あおさん1人で(いさぎよ)く罰ゲームを受けてください」


負けた途端、華巻を冷たくあしらう喜多上。


「何よ、この薄情者! いいわ、もう罰ゲームして、早く終わらして」


華巻も腕を組んでもう好きにしてといった逆ギレ状態だ。


「それでは華巻さんに罰ゲームを受けてもらいましょう。都さん、よろしくお願いします」


八幡タイヤの呼びかけに都がうなずく。


「ふっふっふ、待ち望んだわよ、この時を。今日であいぶーとは卒業します。代わりにあおいさん、あなたにはこのニックネームを名乗ってもらいます」


「うわー、嫌だー、変なのつけられたら」


つけられたニックネームは強制的に受け入れないといけないので、自分の変なニックネームを想像してか華巻は本当に(いや)そうな顔をしている。


「ドリア! (かたき)は打ってやったわよ」


「ははー、亜衣様、有難うございます」


都の隣りに石ドリアがやって来た。いなくなっていた間に執事(しつじ)のような衣装に着替えている。


「あいつ、いつの間に都の手下になったんだ」


八幡タイヤも知らされていなかったらしくあきれている。釜井をはじめメンバー達も石ドリアが元気になっているので喜んでいいのやら何なのか分からず、皆、微妙な苦笑いを浮かべている。


「さっき書いた物、持って来て」


「ははー、ただいま」


石ドリアは紐で縛られた巻き物のようなものを持って来た。


「それではオープン」


都の掛け声とともに石ドリアが巻き物の紐をほどくとくるくると下に降りて中身の文字が現れた。


そこには"華巻あっほい"と美しい字でしたためられていた。公式プロフィールでは都の特技が書道で、どうやら彼女自身で書いたもののようだ。


「あなたは当分の間、"あっほい"を名乗るのよ、覚悟しなさい!」


「いやああぁー」


華巻の断末魔のような叫び声が教室中に響き渡る。



一方のメンバー達はというと様々だ。


「勝負事に負けたのなら仕方ないわよ」


と西根。


「あおちゃん、いや、あっほいちゃんも亜衣ちゃんを何度もあいぶーあいぶー言ってたんだから、これを機に少しは言われる(がわ)の苦しみを味わいなさいな」


とは松尾。


「来年リベンジよ!」


と両手の(こぶし)を前に出して華巻を鼓舞(こぶ)する常にポジティブな伊沢。


「あっほいさんになってもわたし達の尊敬する先輩に変わりはないです」


「あっほいちゃんの方がかわいいと思いますので、(かえ)ってみんなから愛されます」


と華巻を(はげ)まそうとしたのに、逆にディスった感じになってしまった雨音と東和。


「次の握手会でいろいろ言われちゃうかもね~あ~こわい」


と二瓶は最初小悪魔のようないじわる顔をしたかと思ったら、


「でも、その時はあたし達が(とな)りに居て守ってあげるから安心して」


直ぐに後輩を気遣う優しい先輩の顔になった。


そして、最後に喜多上は、


「こうなったらいっそ、漫才も亜衣さんと組んだらどうですかー。コンビ名はあいぶー&あっほいで……」


としゃべっている途中で、都と華巻の殺気に気付き、話すのを止めた。



「なぎちゃんにはあたし達よりもっと素敵なニックネームを差し上げましょうか。握手会でみんなに半永久的に言ってもらえるような素敵なやつを」


都は口角を上げにこやかにしているが、目が笑っていない。


「亜衣さん、ぜひよろしくお願いします」


華巻はいつもよりも目を大きく開き、まるでお前も地獄に引きずり降ろしてやるというような芝居(しばい)で喜多上の片腕を両手でがっしりと掴んだ。


「あ、ははは、冗談ですよ、冗談!」


喜多上は手を大きく振って前言を必死に撤回した。



こうして長かった学力テストは幕を閉じた。

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