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Close to You  作者: Tohma
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74 学力テスト6

3教科目 理科


 次のカエルの一生のイラストを完成させなさい。



「卵から生まれて、カエルに成長する間の過程を絵で描く問題でした」


透野の会話を遮るくらいのタイミングで石ドリアが割って入る。


「それでは早速、華巻の解答!」


「ええー! またー!」


石ドリアにまた当てられ、うんざり顔の華巻。


 スクリーンに映し出された華巻の解答は、卵から孵化(ふか)した後に小さいカエルになり、体型はそのままでサイズが大きくなるだけの絵が描かれていた。


「こんなただ大きくなるだけじゃ問題になるわけないだろ!」


華巻の解答は不正解として背景が青に表示された。


 八幡タイヤは相方の石ドリアの顔の円グラフの上半分をパタンと下に下ろすと、カエルの一生が描かれた正解が現れた。


「この表のように最初はオタマジャクシになり、そのオタマジャクシに両手足が生えて尻尾がなくなり、最後にカエルになるんだ」


石ドリアが自信ありげに説明している間、八幡タイヤは相方の顔に描かれたそれぞれのイラストを指示している。


「打ち合わせも無しによくできるわね」


透野はタイヤドリアの結成から10年以上の息の合ったコンビプレーを感心する。


「はい、ちゃんと描けていたのはこの5名」


八幡タイヤがそう言うと、釜井、西根、伊沢、東和、雨音の正解解答がスクリーンに映し出された。


「ちゃんと描けてなかったのはこの4名」


今度は石ドリアの呼びかけで、先行の華巻の他に松尾、二瓶、喜多上達の解答が映し出された。


別に言わなくてもよくない、とその4名が同時に立ち上がって石ドリアに抗議する。


 松尾の解答はオタマジャクシに羽のようなものが生えており、二瓶はカエルの実物を今まで見たことがないという事実が判明し、??としか描かれていない。


「喜多上のは妙にリアルでグロいな」


石ドリアが指し棒で示した喜多上のイラストは卵からカエルの形に少しずつ変形する様子を描いているのだが、彼女は絵が得意らしく、その描写が写実的なのでカエルというよりホラー映画のエイリアンのように描かれている。


「若い女の子、ましてやアイドルが一生懸命描いたものにグロいとかひどくなーい」


喜多上は石ドリアを指差し不満を(あら)わにしている。



 その一連のやりとりの(かたわ)らで透野がスタッフからの指示に(うなず)いている。


「こちらの解説については中継がつながっているようです」


「中継? また何か嫌な予感がする・・・」


石ドリアが不安げな顔になった。



 スクリーンに映し出された映像では1人の女性スタッフが廊下を歩いており、ある楽屋の前で止まるとそのドアをノックした。


中からはいという声が聞こえ、スタッフがドアを開けると1期生の済田(すみた) 梨央(りお)が1人で居た。


鳩が豆鉄砲を食らったかのように驚いた顔の済田。


思いがけないゲストに生徒役のメンバー達からは拍手と歓声が沸き起こった。


「また濃いーキャラのメンバーが出て来たな」


華巻と喜多上が同じ言葉を同時に発したので、お互い顔を見合わせて苦笑している。


 済田は今回もトレードマークである迷彩服を着て椅子に座り、テーブルの上に置いてあるいくつかの袋に入った黒っぽい食べ物をほおばっている。


「えっ、どういうこと? カメラ回ってるの?」


スタッフが済田と向き合って座った。


「うわっ! 何あれ! 虫じゃない!」


松尾の大きな声に反応し、カメラが済田の手元にズームすると、彼女が食べている物はコオロギみたいな昆虫だった。


「ああ、これ、そうよ、最近流行(はやり)の昆虫食よ。瑠衣(るい)ちゃんも食べる?」


そう言って済田はその内の1つを(つか)んでカメラの前に差し出した。


いつの間にか別のスタッフが済田に音声マイクを取り付けたようで彼女にも収録スタジオの声は届いているようだ。


「うわー、あたし虫はダメなの!」


松尾は必死に両手と首を振る。


「昆虫食ブームって言っても原形が分からないようにすり潰したりして料理に混ぜたりするものよ。梨央ちゃんワイルドすぎー」


西根が笑いながら指摘すると、済田はそーおと言いながら今度は蜂のようなものをぽいっと口の中に入れた。


他のメンバーも透野を含め昆虫を原形のまま食べるのは流石に(いや)そうだ。


済田は目の前の女性スタッフにもどうぞと差し出したが、彼女も全力で拒否している。



「スタッフさんからは番組で昆虫食の企画を近々やるのでその打ち合わせで来てたのよね」


メンバー達からはえー、いやだという声が飛び出したが、


「梨央ちゃんのは今日呼び出すためのニセ企画です。実際はやらないから安心して」


透野の言葉にメンバー達はほっと胸を()で下ろした。


「なあんだ、残念。結構な種類探して取り寄せたんだけどな」


済田はまた別の昆虫を宙に投げるとまたぽいっと口の中へ入れた。


「ごめんねー、この埋め合わせは必ずするわ。それでね別件でちょっと頼まれてくれない」


透野が画面の済田に向かって手を合わせる。


「リーダーからの直接の依頼ともなれば話は聞くけど内容にもよるわね。雨音ちゃんの殺人カレーの試食とかなら勘弁して欲しいわ」


するとカメラが教室の最後列側のメンバーを映す。


伊沢や東和、華巻、喜多上達が笑っている(かたわ)らで雨音だけは恥ずかしそうに顔を赤らめ、下を向いているのが見えた。


流石の済田も先日のアウトドアの一件で雨音の作った料理はもう懲り懲りのようだ。

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