72 学力テスト4
2教科目 算数
はるかちゃんとひなたちゃんがそれぞれ駅からライブ会場まで1000mの道のりを歩いて向かうことになりました。
はるかちゃんの歩く速さは毎分200m、ひなたちゃんは毎分100mです。
はるかちゃんとひなたちゃんのどちらが何分先にライブ会場に着いたでしょうか?
「ううう・・・、文が長くて頭が痛い・・・」
と華巻が言えば、
「これは難しかったよね、本当に小学生レベルの問題?」
と喜多上。
「それでもちゃんと正解している人もいますよ。まずは東和めいさんの解答」
透野に名前を呼ばれ、ドキッとする東和。
はるか 1000[m] ÷ 200[m/分] = 5[分]
ひなた 1000[m] ÷ 100[m/分] = 10[分]
10 - 5 = 5[分]
ひなたちゃんの方が5分先に着いた。 東和 めい
「残念! 惜しい! さんかく」
メンバーからは間違えたかしょが分からないためかええーという声が出たが、その内意味が分かってああという声に変わった。
「次に雨音さんの解答」
はるかちゃんの方が5分先に着いた。 雨音
「正解!」
「ああっ! そうだー」
ケアレスミスに頭を抱える東和。
「そうですね。先に着いた方がかかる時間は短いのです」
八幡タイヤが指し棒を使ってスクリーン上の5分と10分のところを交互に示しながら補足する。
他に正解できたのは西根、釜井、伊沢だけだった。
「こういう問題の時は道のりと速さと時間の円グラフを使いませんでしたか?」
透野は教卓の中からその円グラフを取り出して、教卓の上に置いた。
上の半円に"道のり"、下の半円はさらに半分に分かれ、左側に"速さ"、右側に"時間"と書かれている。
道のりと速さ-時間の境界にはそれぞれ"÷"が、速さと時間の境界には"×"が書かれている。
小学3年生か4年生の算数に出てくるおなじみの円グラフだ。
メンバー達からは懐かしいという声やそんなのあったけなんて声も聞こえてくる。
「けけけ、華巻や喜多上じゃ理解できないだろう」
突然、円グラフの2つの"÷"から目が、"×"が口に変わり、人の顔が出現し、しゃべり出した。
「ぎゃあ、誰か隠れてる!」
前列の西根、釜井、松尾の3人はよほど驚いたのか椅子を蹴飛ばしたりしながら教室の端まで猛ダッシュで離れた。
「なんだドリアじゃないか」
八幡タイヤにそう言われ、顔が円グラフの人物は"応援に来たぜ"と返した。
彼は八幡タイヤの相方の石ドリア。
2人は"タイヤドリア"というコンビ名で10年以上漫才を中心にお笑いを続けている。
石ドリアはこの番組にも八幡タイヤの相方ということで不定期に出演しているのだ。
一時避難していた釜井達もなんだドリアさんかびっくりしたーと一安心して席に戻った。
「そんなことよりお前、いつからそこにいたんだ」
「みんなが入って来る3時間前からこのメイクをして、番組が始まる1時間前からこの教卓の下でじっとしていたんだよ」
「ええー! そんな前からスタンバってくれてたの! みんなここまで頑張ってくれた石ドリアさんに拍手~!」
透野に促され、石ドリアに惜しみない拍手を送るメンバー達。
「みんな拍手なんかしている場合じゃないぞ! あり得ない解答を1つずつ見ていくからな! 華巻と喜多上の解答!」
ええーまたーと声を上げる華巻。喜多上はその横でどうせ間違ってるよと死んだ魚のような目をしている。
文章が長くてわかりませーん 華巻 あおい
1000 × 200 - 1000 × 100 = 100
100 ÷ 60 = 1分40秒
ひなたちゃんが早い 喜多上 渚
「2人とも不正解! 華巻はコメントするまでもないけど喜多上のはなんで道のりに速さをかけるんだ、これだ、これ!」
石ドリアは自身の顔を指さし、道のりを速さで割って時間を求めることを説明した。
「同期の雨音君、東和君だって計算はちゃんと合ってたぞ! 恥ずかしくないのかー」
畳みかける石ドリアに悔しがる華巻と喜多上。
そんな中、松尾が手を挙げた。
「この問題のはるかちゃんとひなたちゃんってメンバーの矢巾はるかと小祝 陽向のことよね? あのめんどくさがりでずる賢いひながまじめに駅から1キロも歩くなんて、ちょっと考えられないんだけど」
「ああ、あの子いっつも抜け目なくタクチケ=タクシーチケットを事務所のスタッフさんからもらっているから歩きじゃなくタクシー使う方が自然よね」
二瓶も松尾に同意見のようだ。
思い当たる節があるのか華巻や喜多上だけにとどまらず雨音や東和さえもうんうんとうなずく。
「それを言うならはるかちゃんだって・・・」
矢巾はるかと同じ中学で1年先輩だったという西根が口を開く。
「彼女いっつも走っているから歩くっていうイメージが湧かないのよね。中2の時、関東大会で3位に入るくらい長距離走で足が速くて有名だったのよ」
「うちの中学でも有名だった。1kmくらいなら余裕で走って3分半から4分くらいで着いちゃうんじゃないかなあ」
と伊沢もスクリーンを指差し、矢巾はるかなら1000mを5分よりももっと早く走るに違いないと説いた。
「とすると・・・タクシーが街中を平均時速30kmで走ると考えれば1時間は60分だから毎分0.5kmで500m、つまり2分で着いちゃうでしょ。はるちゃんが3分半から4分でひなちゃんが2分だからその差は1分半から2分。なぎちゃんの1分40秒という答えの方が現実味をおびてるってわけね」
釜井が頭の中で高速暗算を行い、1つの見解を導き出した。
「やったー! じゃああたしの解答の方が正解!」
目に輝きを取り戻した喜多上が立ち上がってガッツポーズをする。メンバー達の拍手が教室のセットに鳴り響く。
「ちょ、ちょっと待って! 問題文の登場人物は確かにうちのメンバーの名前を引用したけど彼女達とは別人と考えて!」
と透野は両手で抑えて抑えてと暴走を始めたメンバー達を制した。
「そうだよ。喜多上のは計算の過程が全くでたらめじゃないか」
石ドリアも不満げに口をとがらせる。
「え、何ですか」
MCの透野と八幡タイヤが番組ディレクターと思しきスタッフに呼ばれ、教室のセットの外へと歩いて行ってしまった。