66 起きてるよ選手権3
「いえ、やっぱり眠ってます。本当に寝言のようです」
布団で寝ている宮内の下へと行き、確認をとる雨音と葛巻。
「樹ちゃーん! おかえりー!って収録前はいつもの理沙ちゃんだったけど」
透野も驚きを隠せない。
これまでともに頑張ってやって来た尊敬し合える仲間だと思っていた。
それが、
「こらー! シュワッチ! ・・・」
「あれが理沙の本音なのだろうか・・・」
無気力の志波は独り言のようにつぶやく。
しばらくメンバー達の無言の状態が続いたので取り直そうと志波が、ああさっきの続きと湯田に行ってみたい所とかある?と尋ねた。
「最近ですと仲良しの陽向ちゃん、めいちゃんと芸能人行きつけの高級焼肉店に行きたいと話しています」
あそこのお店おいしいよねと華巻や矢巾はじめメンバー内で盛り上がった。
すると再び、
「おいー! 舞衣ー! 天然なんで許してねってたまにかわい子ぶって言ってるけど、後輩にはひかれてる時あるぞー!」
やっぱり宮内から聞こえてくる。傍にいた雨音と葛巻は宮内の大きな声にびっくりして倒れこんだ。
「えー! 何、ひどーい!」
透野は握った両手を頬に当て、悲鳴に近い声を上げる。
「こんなはっきり言う寝言ってあるのか?」
そう言いながら軽舞と矢巾が宮内の様子を見に行くが、やっぱりスースーと寝息を立てて気持ち良さそうに眠っているようだ。
「えーショック、しばらく立ち直れないわ」
「同じく。グループの絶対的エースにあんな風に言われるなんて退院したばかりなのにまた寝込みそう」
透野と志波は2人して布団を頭からすっぽりと被ってしまった。
すると今度は、
「こらー! 軽舞! お前ダンス上手過ぎるんだよ! 少しは周りを立てるということも知れ―!」
片手で頭を支えながら横になっていた軽舞は、
「えー、理沙はん、そんな風に思ってたん、かんにんねー」
と姿勢はそのまま、エセ関西弁で軽く返した。
立て続けに、
「ぐぉらー! 華巻、矢巾、喜多上ー! バラエティでお前らと共演すると必ずといっていいほど無茶ぶりふってきやがってー! 事前に打ち合わせもないからいつも困るじゃねえかー!」
「やっぱりそう思ってました。でもこれからも続けます(笑)」
と華巻。
「喜多上は今いないですケド後で伝えておきまーす」
と矢巾。
「理沙ちゃーん、あたしはー?」
都が自分も構ってもらいたいと宮内に呼びかける。すると、
「おーい! 雨音! 葛巻! 湯田! 先日のカラオケ大会であたしよりいい点取りやがって! 君達も先輩というものを立てなさーい!」
「はーい(笑)」
葛巻が宮内と同じくらい大きな声で答えると雨音と湯田は顔を見合わせてくすくす笑っている。
「ねーえ、理沙ちゃーん! あ、た、し、に、も!」
都が手を振りながら人一倍大きな声で叫んだ。
「おーい! 都 亜衣ー!」
「わー来た来た、何?」
「亜衣は・・・特に無し」
「無いんかい!!」
すっかり肩透かしをくらった都はそのままズテーンと布団の上に転がった。
「くっくっくっ、普段よっぽど存在感薄いんじゃね」
「副リーダーになったっていばり散らしていたけどあんまりメンバーに浸透してないからね」
「何、あんた達」
華巻と矢巾は都の突き刺さるような視線を感じると、あーなんだか急に眠くなっちゃったと言いながら2人とも静かに布団の中に入って目を瞑った。
その内、都や軽舞、雨音、葛巻も日々多忙なスケジュールをこなしているせいか5分も経たずに無言になり、眠ってしまった。
そして、1人湯田エリが残った。
「舞衣さーん、あれ、あたし以外みんな眠っちゃった?」
部屋が明るくなり、番組のプロデューサーがやって来た。
「湯田エリさん、今回の起きてるよ選手権はあなたが優勝です」
「えっ! やったー! こういうの初めてかも」
「こちらご褒美の10万円の食事券です」
「わーい! ひなちゃん、めいちゃんこれで今度お肉食べに行こうね!」
「・・・おめでとー・・・」
後ろで宮内の寝言がうっすらと聞こえてきた。
背後でメンバーが皆熟睡しているというシュールな光景の中、湯田の笑顔とピースサインでこの日の番組は終了した。