64 起きてるよ選手権
志波 樹があのカラオケ大会から数ケ月の療養を経て病院を退院し、エウレカでの活動を再開した。
その復帰後、初めての仕事がTVのレギュラー番組である"惑星エウレカ"だった。
番組は志波の快気祝いを兼ねてかどうかは知らないが、最近では珍しくエウレカの人気メンバーが集結した。
1期生はエウレカで今最も多忙な宮内 理沙をはじめ、リーダーの透野 舞衣、副リーダーの都 亜衣、2期生の軽舞 真希、華巻あおい、矢巾はるか、3期生は先のカラオケ大会で健闘した雨音、葛巻 楓、湯田エリといったラインナップ。
これに志波も加えた計10名で番組はスタートした。
「今回はこれを行います! "起きてるよ選手権"」
番組の司会進行を務める透野が今回のテーマを読み上げる。
透野も含め、他のメンバーも撮影スタジオらしき所で上下あずき色のジャージ姿で各自布団の上に座っている。
まるで修学旅行の夜の女子部屋のような演出だ。
「ルールは単純です。今から皆さんには薄明かりの照明の下で布団に入ってください。先に眠ってしまった人が負けで、最後まで起きていた人が優勝となります。皆さんは日々多忙なスケジュールをこなしているので、眠気に負けず頑張ってください」
一通り説明した透野だが、スタッフの出したカンペを見て、慌てて言い直す。
「あっ、その前に志波 樹さんが私達の所へと戻って参りました。樹さん一言お願いします」
それを聞き、既に布団に入って横になっていた宮内や都らが何ぃ~とかああそうか、といった言葉を発しながら一斉に起き上がった。
志波が布団の上できちんと正座をして話す準備をすると透野をはじめ他のメンバー達も同様にそれぞれの布団の上で正座し、姿勢を正した。
「皆さん、この数ケ月の間、仕事に穴を開けてしまい大変申し訳ありませんでした」
志波がメンバー1人1人の顔を見ながら話す。
「ダイジョーブ、ダイジョーブ」
「樹ちゃんは悪くないよー」
と宮内や都が優しく声をかければ、
「悪いのは無理させた一ノ瀬 騎械だよー」
「それまで働き過ぎだったよー」
「いいよ、いいよ、樹さんが不在だったおかげで今までよりあたし達の仕事が増えたよー」
矢巾、華巻、そして軽舞も志波に彼女達なりの声援のようなものを送る。
3期生の3人は笑顔で拍手をしている。
「ありがとう。休んでいた間、みんなのレギュラー番組はもちろん各メンバー単独の出演番組も観てました」
メンバーみんなが笑顔の中、都が1人意地悪な笑みを浮かべている。
「ということは、先日のあおいちゃん、はるちゃん、渚ちゃんのエウレカネットワークも聴いてたってことよね?」
そう言うと彼女は、華巻と矢巾の顔を見た。
2人とも途端に表情が暗くなった。その理由はきっと病院は消灯時間が早く志波が聴いていないという前提でラジオで何度もふざけてシュワッチ、シュワッチと志波のあだ名を連呼していたのだ。
華巻と矢巾はお互いに顔を見合わせる。
「えっ、でもシュワッチとはあたし達は言ってないよね?」
「そうそう、なぎが1人で言ってたよね」
志波はあきれ顔で、
「全部聴いてたよ。最近のラジオはリアルタイムでなくても聴けるからね。それにしてもいない人のせいにするのはよくないね」
エウレカのバラエティ班の中で、今回喜多上だけは別の仕事の収録に行っていた。
「げっ!」
「全部ばれてた」
こぞって布団の中に隠れる2人。
都が移動し、彼女達の布団をポンポンとやる。
「ついでにあたしの事もあいぶーって呼んでたわね! 2人ともこの収録が終わったらこのお姉さん2人にたっぷりとつき合ってもらいますからねっ!」
「あー眠い」
「聞こえませーん」
「2人とも眠りたくても眠れないようにしてやろうか」
都は華巻と矢巾の被っていた布団をガバッと引き剥がすと2人ともふざけて震えているようなふりをした。
「はーい、そこまで。番組を再開しまーす」
透野が両手を振ってメンバーに布団に入るように促す。
「あのー、リーダー」
「はい、何でしょう」
透野が声をかけてきた葛巻の方を見る。
「理沙さんが既に眠っています」
「えっ! うそ! はやっ!」
雨音や湯田も宮内に近づき様子を伺うが、スース―と布団の中で心地良い寝息を立てて熟睡しているようだった。
「この中で一番多忙なメンバーだから仕方ないか。ルールに基づき3回名前をコールします。宮内さん起きてますか?」
「スー、スー」
「宮内さん」
「スー」
「宮内さん」
「・・・」
「はい、宮内 理沙脱落」
透野も含めて残り9名で勝負することとなった。
照明の明るさが落とされ、部屋全体が薄暗くなった。