60 ダンスレッスン3
ダンスマシーンの異常事態に惑星エウレカの撮影スタッフ達もマシーンの前にかけ寄って来た。
「一ノ瀬グループの方達にお伝えした方が・・・」
「それしかないわね!」
軽舞がいまだに高速ダンスを続けている沢内と松尾を背にレッスン場の出口に向かう。
まさにその時、沢内が思い出したように軽舞に声をかけた。
「うわぁーっと、そういえばマシーンの背面のケースの中に緊急停止ボタンがあったはず! 軽舞ちゃん、戻って来てー!」
軽舞は踵を返してスパイ映画さながらダンスマシーンの裏に滑り込み、透明ケースを開けて、赤い大きなボタンを押した。
「ふうぅぅ・・・助かった・・・」
するとダンスマシーンはピタリと動きを止めて、沢内と松尾は力尽きて重なるように円形の台の上で崩れ落ちた。
「梢さーん! 瑠衣さーん!」
彼女達にかけ寄る雨音達3人。くっついて倒れている2人を引き剥がした。
「瑠衣さん、大丈夫ですか? 話せます?」
松尾の上体を起こし、水を飲ませる央土。
「ふう、も、もうダメー。体が限界。1週間後の握手会は4人で頑張って来てー」
幸い命に別状は無いようだが、かなり無理なダンスを長い時間強いられた松尾は息も絶え絶えだ。
沢内も同様だ。
「ふ、ふ、ふうー、まさか自分が製作したマシーンでこんな目に遭うとは・・・あたしももうダメ」
沢内は床に寝転んでハアハアと苦しそうに呼吸していたが、ハッと思い出したように傍にいる雨音達を見た。
「その握手会と同じ日の午前中は秋葉原で人気ゲームキャラ"E・ワイズ・ミー"の限定フィギュアの発売日なのよね。握手会って午後からでしょ?4人の内の誰か、悪いけど代わりに並んで買って来てちょうだい」
「なんでやねん、仕事ちゃうし。そんなの這ってでも自分で行け―」
あきれた軽舞がおかしなイントネーションのエセ関西弁でつっこむ。ちなみに彼女は生まれも育ちも東京である。
結局、沢内と松尾は4人のメンバーとスタッフによってレッスン場の隅へと運ばれ、ダンスで使うマットの上で仰向けに寝てしばらく休息を摂ることとなった。
「このダンスマシーンはね、もう1つゲームモードっていうのがあるのよ」
軽舞がリモコンを手に持ち、その中のボタンでいくつか操作をするとマシーンの巨大モニターにゲームモードなるものが出現した。
雨音と葛巻は興味深くモニターに見入っている。
軽舞が今度はワイヤーのついていないバンドやベルトを自らの頭、腰、両手足に取り付けた。
「これらに赤い丸のマーカーがあるでしょ。この位置をマシーンの3次元センサが読み取ってモニター上のモデルダンサーとの差異でダンスの出来を判定するの」
軽舞がスタートボタンを押すと、モニター上にも先程のようにモデルダンサーである軽舞が現れ、前面に"Ready""Go"が表示された。
円形の台の上で踊る軽舞。画面上の軽舞にも体の各部位に赤丸マーカーが同時に現れ、両者のマーカーが同時刻同じ位置にあれば"ヒット"と表示され、得点になり、少しでもズレてしまうと"ミス"で無得点となる仕組みだ。
マシーンの中で対面する2人の軽舞 真希。寸分違わぬ動作で得点が積み重ねられてゆく。
そして、ゲームが終了し、"お見事"の文字とともにスコア100点が表示された。
「ノーミス!」
「すごい!」
間近で見ていた雨音と葛巻は軽舞に向かって拍手で賛辞を送った。
軽舞はその拍手を制止させると、雨音達に挑戦するように指を差した。
「2人共、この間のカラオケ大会は見事だったわ。2期生達を越え、1期生達と互角の戦いをした。あいにく歌唱力ではあなた達に敵わないけれど、ダンスでは負ける気はしないわ! どう? このゲームで真剣勝負してみない?」
それを聞いた雨音と葛巻はお互いに顔を見合わせるとコクンとうなずき、
「やります!」
「のぞむところです!」
軽舞の挑戦を受けることにした。
「今のは通常のスピード。このゲームモードでも速度を上げられて、それに伴って難度も上がるわ。負けないわよ!」
3人がバチバチと火花を散らす中で、央土が控えめな感じでスッと手を挙げた。
「あのー、存在感なくなっていましたケド、一応あたしも参加希望です」
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