56 真夜中の訪問者
いつの間にか疲れて眠っていたらしく、エウレカの動画を観終わった後のスマホが僕の手から離れ、ベッドの上でうつ伏せになっていた。
眠っていた時に耳から外れたイヤホンは、微量な音でどこかで聞いたような音楽を流している。
部屋の照明は消えて、真っ暗になっている。
丸森が風呂から戻って来て、僕が熟睡していたので消したようだ。
その丸森も隣りのベッドでいびきをかきながらぐっすり眠っている。
どうやら彼はあんなに興味津々だった肝試しには行かないらしい。
スマホで時間を確認すると23:50が表示されていた。
目が覚めて数分は経過しただろうか。
しばらくして夕食後にまだ歯を磨いてなかったことに気付いた。
TV番組で知った情報だが、歯を磨かないまま眠ると口の中で菌が増殖され、虫歯や口内炎の原因になるらしい。
中3の高校受験の時も寝る前に歯を磨くのを忘れて口の中に大きな口内炎ができて四六時中痛かった事を思い出した。
あれは勘弁して欲しいと僕はベッドから静かに起き上がり、丸森を起こさないようにそっとドアを開閉して廊下に出た。
しんと静まりかえっている廊下では暗闇の中で緑色の非常灯だけがぼんやりと明かりを灯している。
微かに外から鈴虫やカエル等が鳴いているのが聴こえ、まるで外の世界から断絶された異世界を歩いているようだ。
(ここ、出るみたいよ)
こんな時に限って美郷さんの言葉を思い出してしまい、恐怖感が増幅されたが、今更引き返すわけにもいかず、幽霊なんて迷信だ、さっきのエウレカの動画でだって人間の仕掛けたドッキリだったじゃないかと自分に言い聞かせながら足早に洗面所に向かった。
(ライトの代わりになるスマホを持ってくれば良かった)
余計な荷物になると思ってスマホは部屋に置いて来てしまった。手にはポーチの中に入った歯ブラシと歯磨き粉とタオルだけだ。
それでも目が時間に慣れてきて廊下の一番端にある洗面所の入り口に辿り着いた。
急いで入り口直ぐに設置された照明のスイッチを押す。
洗面所の天井にある電灯がチカッチカッと点滅した後にぱっと明るくなり、僕は大げさだと自分でも十分分かっているが、ほっと一安心した。
そして入り口に一番近い蛇口の前に立ち、何の変哲も無い顔だなと自分の顔を目の前の鏡で見ながら1人歯を磨いた。
無事目的を果たし、かがんで口をゆすいで口元をタオルで拭き、再び顔を上げた。
すると鏡越しに僕の背後の洗面所の入り口付近に人がこちらを見て黙って立っているのに気付き、僕の全身には今までの人生で一番というくらい恐怖で戦慄が走った。
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