55 肝試し・続き
「きゃー、びっくりした!」
宮内達1期生の待機している教室に洋乃と影差が扉を勢いよく開けて、滑り込むように入って来た。
2人とも、校舎の3階から1階まで全速力で駆け降りて来たので、両手、両ひざを床について、はあはあと息を切らしている。
「とりあえずこれを飲んで落ち着いてから何があったか話してちょうだい」
2人は苦しそうにありがとうございますと言いながら鐘臥からペットボトルの水を受け取った。
1期の3人は何があったのか察しがついたようで、何とも言えない顔で無言のまま洋乃と影差が落ち着くのを見届けている。
「ふう、最初にあたしの所に東和めいちゃんが来たのでわあと飛び出したら、か、彼女の顔が包帯グルグルの血まみれになってて・・・」
洋乃は床に寝転び、身振り手振りで必死に説明する。
「こっちは延田ちゃん! 彼女の声はしているのに・・・顔がのっぺらぼう! もうびっくりして飛び上がっちゃった!」
影差は床に正座して、やっぱり手で大げさにジェスチャーしながらその時の状況を伝えている。
「堪らずあたし達が・・・ね、教室から出ようとしたら・・・」
「あ、雨音ちゃんが、が、が、が、がいこつ! 全身が骸骨になってて、もう急いで降りて来ました」
影差と洋乃がお互いを見合わせながら一緒に両手をバタバタさせている。
「つまり、3期の子達から逆ドッキリにあったのね」
二瓶が溜息をついた。
「東和ちゃんは顔に包帯を巻いて血糊をつけた、延田ちゃんは、顔に石膏かなんかで作った仮面をつけてた、雨音ちゃんは理科室にある人骨模型を持ち出して本人は近くに隠れてた、それだけのことよ」
と鐘臥。
「それにしてもあの子達、かわいい顔してなかなかやるわね。どうやらスタッフが知恵をつけたようね。でも、あたし達には通用しないわよ」
と宮内は自身たっぷりの不敵な笑みを浮かべた。
すると突然、室内の照明が消えて部屋が真っ暗になったかと思えば、照明が点滅し出した。
「来たわね。こんな子供だましちっとも怖くないわよ」
二瓶が余裕の表情を浮かべていると壁にかかっていた3枚の肖像画が大きな音とともに突如床に落ちてきた。
「きゃー!」
二瓶は暗闇の中での突然の大きな音に驚き、近くにいた2期生の2人と怖さを共有するように抱き合った。
「望杏、これも3期の子達の仕業よ。うろたえちゃダメよ」
そう言っている鐘臥の顔の周りに蛍光色を発するヘビやカエルが上から降って来た。
「ぎゃー! あたし爬虫類はダメなの!」
必死に手で払いのけながら彼女はその場を離れた。
「これら、よく出来てるけど作り物よ」
宮内は、自分の顔の近くにも降ってきたヘビやカエルを指でツンツンと押してそれらに生き物のような反応が無いことを確認した。
「かたじけないわ。後は理沙だけが頼りよ」
腰が抜けて立てないのか鐘臥は床に倒れている。
宮内は照明が消えて薄暗い教室の中で辺りを見回し、窓際の隅に足元が消えている青白い女の子を見つけた。
「これも3期生のドッキリね。こんなの全然怖くないわよ」
宮内はその幽霊の女の子の前で両手をばたばたと振り回し、その少女をかき消した。
そして、ふーと一息つき、教室の入り口の方に向かって叫んだ。
「全然怖くないわよ、もう観念して出ていらっしゃい3期の3人!」
しばらくすると照明が点灯し、教室に明かりが戻った。そして、3期の3人がぞろぞろと教室の中へと入って来た。
雨音は"逆ドッキリ大成功"と書かれたプラカードを持っている。
宮内はそのプラカードを指差して言った。
「あたしは全く引っかからなかったわよ。残念だけど"大成功"とはならなかったわね」
「う~ん、上手くいくと思ったのに」
東和はいたずらがばれた子供のように舌をペロリと出した。雨音と延田も頭を下げ、残念という表情だ。
「最後に出て来た幽霊なんてボーッと立っているだけで全然動かないんだもん。却って盛り下がっちゃたわ」
「最後に出て来た幽霊?」
3期一同は不思議そうに顔を見合わせている。
「ほら、教室の隅にいた全身が青白くて顔が髪でこんな風に隠れていた女の子のお化けよ」
洋乃と影差はちょうど2人の間に居た先輩である二瓶の顔を躊躇なく使って幽霊の髪が顔で隠れていた様子を説明する。
「理沙ちゃんが追い払ったやつよ!」
鐘臥は興奮気味だ。
「青白い女の子のお化け? そんなのあたし達は準備してないですよ」
「そうそう、あたし達は最後におもちゃの毛虫を先輩達の顔に張り付かせようとしていたんですよ。それなのに理沙さんが何も無い所で暴れ始めたのでスタッフさんから急遽止められてここにやって来ました」
首を振る東和もおもちゃの毛虫を手に持って掲げる延田も1,2期生と話が一向にかみ合わないのできょとんとした顔をしている。
「ディレクターさん、さっきのVTR、このモニターに映せます?」
宮内は先ほど自分が追い払った女の子の霊を映像で確かめようとしているようだ。
モニターに該当する場面が映し出されると、女の子ではなく青白い人魂のような形のものを宮内は手で払っていた。
「こここ、これって・・・」
「本物よ! キャー!」
一斉に教室から逃げ出し、駐車場のロケバスに向かう1,2期生の5人のメンバー。
残った3期の3人。
「何か・・・ここまでするのはやり過ぎのような・・・」
隠していた黒髪のカツラを自分の服の中から取り出す雨音。
「逆ドッキリと言っても何だか罪悪感あるよね」
教壇を動かして隠していたパソコンみたいな装置をカメラの前に見せる東和と延田。
「最後まで用心深かった宮内さんも上手く騙せたので企画的にはOKです」
ディレクターが両手で大きな丸を作る。
教壇の中にあった装置はプロジェクションマッピングのような3次元の映像を映し出せるもののようで先ほどの青白い幽霊の正体は変装していた雨音だった。
別室の編集スタッフがAIを使った動画編集で幽霊の姿を人魂に瞬時に作り変え、モニターで宮内達に見せていたのだった。
流石にこれは騙されてしまうだろう。
最後にテロップが出て、スタッフの手違いでネタバラシされずのままの宮内達5人はその翌日、昨夜の幽霊が成仏するようにと都内の神社まで行ってちゃんとお祓いを済ませたとあった。
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