54 肝試し
夜の廃校が映し出され、その後に教室の内部に場面が切り替わった。
「こんな格好したの生まれて初めてよ」
白い着物で額には三角形の布(天冠と呼ぶらしい)という出で立ちのよくある幽霊の姿になっているのは宮内 理沙だ。
両手は着物の袖をつかみ、カメラに向かってこんな感じとゆっくり回って衣装がどのようなものか観る側に伝えている。
「理沙ちゃん、可愛い過ぎてあんまり怖さがないわね。あたしなんか特殊メイクで顔にこぶまでつけられちゃった」
そう話すのは1期生の鐘臥 咲だ。彼女は元々黒髪のウェットなワックスをつけたウェーブヘアーがトレードマークでおまけに顔に痛々しいこぶまでつけているから、まるで井戸から這い上がって来たお岩さんの雰囲気そのものだ。
スタッフ側が彼女はお化けが似合いそうだと判断して、今回キャスティングしたのかもしれない。
「さきちゃん・・・あたしは・・・どう?」
「きゃあ! いつからいたの!」
鐘臥は宮内の背後にいる白のワンピースを着て、顔が完全に隠れる程の腰まである長い髪の小柄な人物を見つけると悲鳴に近い声を上げた。
「ちょっと驚かそうと思ったケド、そんなに驚いた?」
「そのアニメ声はもしかして望杏! すごい仕上がりね! 本物かと思って震えたわ」
その長い髪の人物は、1期の二瓶 望杏だった。
「服のサイズが合ってないけど、これでいいの?」
宮内は二瓶の足が完全に隠れるくらいのだぶだぶのワンピースの裾を持って上げ下げしている。
「足が見えない方が幽霊の雰囲気出るでしょ? でも転びそうなので、こうやって裾を持ち上げながら歩くようにしているわ」
二瓶は両手でスカートの裾を少し足が出るくらいたくし上げ歩いてみせるが、髪の毛で前が見えないためかふらふらして5歩くらい歩いたところで、つまずいて転んでしまった。
「・・・前が見えないとそうなるわね。歩く時はこうしてもう少し顔を出した方がいいんじゃない」
宮内が二瓶の顔の辺りの髪を両手で左右にかき分けると、つぶらな瞳であどけない少女といった感じの二瓶の顔が現れた。
1期の3人は、教室に設置された大きなモニターの前に座った。
「今回の企画では加入したばかりの3期生の3人を驚かせるわよ」
鐘臥の指差すモニター内には3期生の雨音、東和めい、延田アリサが別の教室で座って待機していた。
室内の音声が宮内達にも流れる。
「こんな夜中に人気の無い薄気味悪い所がロケ地なんて聞いてないよお」
と延田。
「何のロケなのかも聞かされていないから、あー、なんか緊張する。トイレに行きたくなっちゃった」
東和はそう言って足をガタガタと震わせている。
「なんかお化けでもでそうな雰囲気よね」
と雨音。
「ちょっと雨音ちゃん、そんな事言ったら1人で行けないよ」
「ごめんごめん、一緒に行こう」
「待って一人にしないで! あたしも行くぅ」
3人はともに身体を密着させながら教室を出て行った。
「あんなおとなしい子達を怖がらせるなんてなんかかわいそう」
二瓶がつぶやけば、
「喜多上 渚や小祝 陽向ならあんま罪悪感ないけど」
とは宮内。
宮内は先日の自身のお誕生日会でクラッカーの代わりにバズーカーをお見舞いされ、あげくにケーキは爆破し、顔面に生クリームをかけられるというドッキリを仕掛けられた。なので、その首謀者である喜多上や小祝にお返ししたい気持ちがあるようだ。
「お化け屋敷とか好きな子もまれにいるわよ。まずは2期生のお2人でお手並み拝見といこうじゃない」
鐘臥の視線の先にあるモニターには2期生の洋乃 映未と影差 りえがやはり
白装束のお化けの恰好で映し出されていた。
2人とはマイクで会話できる状態にある。
「あんた達も顔に特殊メイクは施してないのよね。なんであたしだけなのかしら」
「やっぱり咲さんが誰よりも怖いからじゃないですか?」
と洋乃が笑いながら影差とうなずき合っている。
「ちょっと! それどういう意味?」
鐘臥が即座に聞き返すと、
きゃーやっぱりこわーいと洋乃と影差は今度は抱き合ってきゃっきゃとしている。
「加入してきたばかりの子達をくれぐれも泣かせたりはしないでね。それじゃ幸運を祈るわ」
ラジャー(了解)と手を振る洋乃と影差に宮内と二瓶が手を振り返す。
3期生を驚かす準備のため2期生の2人のいる教室の照明が消えて、真っ暗になった。
「納得いかなーい」
1人不満げな鐘臥を残し、場面は洋乃と影差がおどかそうと待ち構えている教室へ入って行く3期生の3人に切り替わった。
「わー!」
「ぎゃあ!」
「ふふふ、3期生のみんな、おどろいているわね。それにしてもすごい悲鳴ね」
宮内をはじめ1期生の予想に反し、モニターには教室から飛び出し、悲鳴を上げながら廊下を全速力で走ってゆく洋乃と影差の姿が映し出された。
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