53 高1の合宿 その2
夕食後はたき火の周りに集まり、みんなでキャンプファイアーを行った。
松島部長がギターだと持ってくるのが大変なのでと言いながら、自分のリュックからウクレレを取り出した。
そして、そのウクレレの弦を指で弾き、ポローンとハワイアンな音色を奏でた。
松島部長が言うには、ウクレレとギターではコードの弾き方が違うらしい。
部長は、昔の洋楽の曲をネットにあがっているウクレレ用のコード表を見ながら時折家で練習しているのだそうだ。
「まだ始めたばかりでとても簡単な曲しか弾けないけど、みんなで歌おう」
僕等はたき火の周りを囲んで座り、松島部長の演奏に合わせて身体を揺らしながら、どこかで聴いたことのある曲を3曲ばかり歌った。
歌っている間、串に刺したマシュマロを人数分たき火でこんがりと焼き、それにチョコソースや生クリームをかけて食後のデザートとして食べた。
その後は宿泊所に戻り、各自自由時間となった。
共同の風呂場は狭く、入る順番が決められているので入浴までの間、ロビーで美郷さん、石森、あと僕と相部屋で1年の丸森の4人でトランプのポーカーをして時間を潰した。
僕がトランプをめくり、フルハウスが揃ったのを心の中で喜んでいる時だった。
「ここ、出るみたいよ」
美郷さんが神妙な面持ちでぽつりと呟いた。
「怖いなあ、やめてくださいよ」
石森が大げさに自分の両耳を手で塞いだ。
「あっ、でも俺もここの宿泊所をネットで調べた時、心霊スポットとして候補に挙がっているのを見ました」
丸森はそういう話が好きそうだ。
彼は夜中に肝試ししてみませんと提案したが、僕等3人は皆、首を横に振った。
夜中に建物内で騒いで、宿泊所の管理人や古川先生、松島部長に大目玉を食らうのは目に見えているからだ。
特に美郷さんなんて副部長だし、どちらかというとそういうのを止める立場の人だ。
「どうしてもやりたいって言うなら止めないわよ。あんた達の責任でやってね、あたしは何も聞いてないわ」
僕等は別にやりたくないですよと僕は石森と顔を見合わせて首を振った。
僕は風呂に入っていい時間になったので、3人にそれじゃ失礼しますと部屋に戻った。
風呂から上がり、部屋に戻ると丸森は仰向けでベッドに寝転んでイヤホンをつけ、スマホで何かの動画を鑑賞中だった。
古びた宿泊所だが有り難いことに館内で無線のWi-Fiは使用可能であった。
僕もスマホで何か音楽のPVでも観るかともう1つの空いているベッドに横になると
「相馬君もエウレカンなんだよね」
と丸森が訊いてきた。
丸森は藍菜経由で僕がエウレカファンと知ったんだと想像でき、まあ一応と答えた。
「よかったら僕のエウレカコレクション見る?」
丸森はエウレカの結成当初からのガチファンなのは石森から聞いていた。
彼はスマホを閉じると、カバンから1冊の分厚いファイルを取り出した。
中には写真が複数枚、きれいにファイリングされていて、まだ初々しさの残る宮内 理沙や透野 舞衣等エウレカメンバーと丸森の2ショット写真が収められていた。
「今では考えられないでしょ。結成当初はこんな感じで普通にファンとの距離が近かったよ」
こんな昔からエウレカの応援をしている丸森の前でたかだかファン歴1年の自分がエウレカファンだと言うのはなんだか肩身の狭い思いがした。
丸森の見守る中、ファイルをめくるとかなり遠くから隠し撮りしたと見られる学校内の雨音の写真がぞろぞろと出てきた。
「今となっては国民的アイドルグループのメンバーを撮るのはこれが限界。最近は教師の目も厳しくなっているから諦めたよ」
そう言えば、2ケ月くらい前に丸森が屈強な体育教師に廊下で取り押さえられているのを目にした。
彼は雨音に接近して隠し撮りをしようとしていたようだった。あれで懲りたんだろう。
「バカな奴だべ」
その時近くにいた藍菜が冷やかな視線を向けていたのを思い出した。
「今から風呂に入りに行くけど、何か観たいのある?」
丸森は、自分のスマホ画面を僕に見せた。彼の動画リストの中はエウレカ関連のタイトルで埋め尽くされていた。
僕は彼に承諾を得た上で指でスクロールし、ざっと50個以上はあると思われるタイトルに一通り目を通した中で、1つだけ"貴重"と書かれたタイトルが気になった。
聞けば去年の夏の3期生が加入して間もない頃のファンクラブ加入者のみ限定でダウンロードできた特典映像らしい。
その頃はまだエウレカファンでは無かった僕はその動画はまだ観たことが無かった。
「OK。その動画、確か宮内も出て来ていたと思う」
丸森がにやりと笑う。僕が宮内推し(本当は違うけど)という情報も藍菜経由だろう。
ピローンという音とともに僕のスマホのSNSアプリに該当する動画が送られてきた。
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