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Close to You  作者: Tohma
53/102

51 アウトドア その3

出汁(だし)にも魚を使っているわね。ルーはとてもおいしいわ。でも辛さがまだ十分じゃない。登山で言うところの5合目、いや4合目くらいかな」


「ええ! 香辛料だけでなくタバスコも結構な量入れましたよ!」


前沢は驚いて目を丸くする。


「まだまだ、あたしはもっと辛さを求めているのよ! 次、ひな!」


小祝(こいわい) 陽向(ひなた)が既に準備していたカレーをニコニコ顔で済田の前に差し出した。


済田はカレーに顔を近づけて犬のようにくんくんと()いでいる。


「ふ~ん、独特な匂いね、何か嫌な予感がするけど・・・とりあえず食べてみるわ」


「どうぞ召し上がれ」


済田がおそるおそる彼女のマイスプーンで小祝カレーのちょっとの量を一口、口の中に入れ、2,3回咀嚼(そしゃく)した後に飲み込んだ。


小祝の顔が何か(たくら)んでいるような悪い顔に見えた。


「うっ!」


小祝は前のめりになって済田の様子をうかがっている。


「うまい!」


小祝は済田があまりの辛さに悶絶(もんぜつ)する姿を想像していたのか拍子抜けして前によろめいたようなリアクションを見せた。


「この辛さ加減がちょうどいいわ! いったいどんなスパイスを入れたの!」


済田はまるで宝物を見つけたようにキラキラと目を輝かせている。


「これですけど・・・」


小祝が(かか)げた真っ赤な容器には"ダミアンソース"と書かれていた。


ダミアンソース、タバスコよりも何十倍も辛いとされる地球上で最も辛いスパイスだ。


そんなものがあんな山間部のこじんまりとしたスーパーに売っていたことも驚きだが、カレーにそんな激辛スパイスを使用する小祝にも、その辛さがちょうどいいと喜んでいる済田にも驚きだ。


「5,6滴ぐらいかな・・・パッパッパッとふりかけるのが梨央さんのお口に合うようですねw」


小祝は半笑いでダミアンソースをふりかけた時の様子をジェスチャーしているが、内心はこのバカ舌かなりヤベエとでも思っているのだろう。



 そして最後は雨音の番となった。


「流石にそろそろお腹がいっぱいになってきたわ、あーちゃんご飯無しのカレーだけでほんの一口でいいわ」


済田は小祝のカレーが余程気に入ったらしく一皿完食してしまったみたいだ。


 雨音は小さな皿にカレーをよそっているが、何故か(まばた)きを何度もして、(つら)そうな表情をしている。そして、できるだけその皿に顔を近づけないようにそろりそろりと移動して、皿を済田の前に置いた。


「いただきまーす」


済田はその小さな皿の少量のカレーを大きなスプーンで全部すくいとり、そのまま一気に口に放り込んだ。


「うっ!」


さっきの小祝と同じリアクションだ・・・


「ぐふっ!!」


と思ったら済田は苦悶(くもん)の表情を浮かべながら(くず)れ落ち、地面に倒れた。


「えっ! どうしたの!」


前沢と雫井が急いで済田に駆け寄るが、済田は真っ青な顔をしている。


「うわー! すごい痛い!」


小祝が雨音の作ったカレー鍋の(ふた)を開けて中を確認しようとしたが、耐えられずにすぐに蓋を閉めた。とても激辛な料理に仕上がっているようだ。


「あーちゃん、香辛料はいったい何を入れたの?」


小祝の様子を見ていた雫井は不安そうな顔で雨音を見つめた。


「ひなちゃんがスーパーでこれを見て楽しそうに笑っていたので、あたしも同じものを買ってカレーに入れました」


と雨音はダミアンソースの容器を(そば)で済田を抱きかかえている前沢に渡した。


「げっ! 空になってるじゃん、これ全部入れたの!」


コクンとうなずく雨音。ぎょっとした前沢、小祝、雫井は3人とも全く同じ表情だ。


「あ、あああ、あーちゃん、あたしを殺す気・・・」


そう言って済田は気を失ってしまった。


画面下にテロップで"よい子はマネしないで下さい"と出たが、あまりに危険過ぎて誰も真似しないだろう。



「あーちゃん完敗よ、負けたわ」


そう言って雨音に握手を求める小祝。


「神様、梨央さんをどうかお助けください」


目を(つむ)って必死に祈る雫井。


おいおい2人ともそんな事をしているヒマがあったら前沢を見習って済田の救助をしてやれよと僕は画面越しにツッコミを入れた。


 幸い救急看護をしていた経験のあるスタッフがいたため、その人の手当てで済田は大事には至らなかった。その後、念のために済田は近くの病院へと運ばれて行った。



「この鍋は危険過ぎるわ・・・一番離れた所に置いておきましょう」


前沢は雨音の作ったカレーの鍋を調理場の一番隅へと移動した。そして、残りのメンバー、スタッフで前沢、雫井の作った残りのカレーを食べることにした。


「あたしにとってはちぃさんのカレーでも辛くて水無しじゃとても食べれませんね。梨央さんは甘口なんて言っていたけど詩帆っちカレーが一番まともに食べれますよ」


小祝の言葉に前沢もうなずく。


「そうそう、梨央さん主催でたまに鍋パーティーもするけど梨央さん仕様にされると他の人がとても辛くて食べられないのよね。まあ、今回の件で梨央さんも当分辛い物は食べられなくなるんじゃないかしら」


前沢は、だから責任を感じなくていいよとしょんぼり気味な雨音を(なぐさ)めるように彼女の肩に優しくポンポンと手を置いた。


「むしろ梨央さんにとりついていた激辛大魔王を退治できてオールOKですよ、ね?」


調子に乗る小祝。彼女から同意を求められた雫井は返答できずにそんなこと言っていいの、ひなちゃんと言いたげな困った顔をしている。



 そこへブロロローと1台の真っ赤な高級車がやって来た。


「やあ、みんな楽しんでる?」


中から出て来たのは一ノ瀬 騎械だった。


音楽以外でメディアに登場する機会はほとんど無いが、この番組だけは例外で企画を問わず神出鬼没で現れる。それにしてもこんな(けわ)しそうなオフロードの山道をよくスポーツカーで登って来たものだ。


「うわあ、カレーかい。おいしそうな匂いだな、カレーは大好物なんだよね」


「騎械さん、ちょっと辛いかもですけれどあたしが作ったものでよろしければ只今ご用意します」


前沢がそう言って立ち上がると、騎械氏はああいいよこれでと目の前にある鍋から近くに置いてあった皿にカレーを自らよそい、その場で食べようとする。


「ああ!! そのカレーは!!」


気付いたメンバー4人が大きな声で静止しようとするも時すでに遅し。雨音製の激辛カレーをパクリと食べた騎械氏は、


「ぐぼうぉ!!」


今まで聞いたことのないような声を発し、放送事故かと思うぐらいの勢いでその場に倒れた。


「水、水! 早く!」


「救急車、救急車も早く!」


メンバーとスタッフが慌てふためき、混乱の中、番組は終わった。


その後、CMを挟んで次回予告では、小祝と喜多上 渚の2人が、都 亜衣、華巻あおい、矢巾はるかに落とし穴&粉まみれのドッキリを仕掛けてゲラゲラ笑っている映像が何事も無かったかのように流れた。


なので、騎械氏は命に別状はなかったんだよな、多分・・・。

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