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Close to You  作者: Tohma
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50 アウトドア その2

 「え~と・・・とりあえずニンジンとジャガイモ、タマネギ、あとお肉とルー、最低限のものは以上ね・・・」


 前沢は雫井に1つ1つカレーに使う食材の選び方を教えている。雫井にとってカレー作りは小学校での調理実習の1度きりで普段はあまり料理はしないらしい。


 小祝は調味料のコーナーにおり、何やらニヤニヤと笑っている。


彼女がこういう顔をする時は決まって誰かにイタズラを仕掛けようと(たくら)んでいる場合であり、惑星エウレカでも多くのメンバーやスタッフがこれまで犠牲(ぎせい)となってきた。


「あの激辛大魔王にこれで一撃(いちげき)をくらわせてやろうと思います」


小祝が手に持っているその商品は編集でモザイクがかかっていて何だか分からないが、かなりの激辛調味料らしく、激辛大魔王(=済田)にそれが入ったカレーを食べさせるようだ。ひどい後輩だ。


 雨音はというとスーパーのいろんなコーナーをぐるぐると回り、カレーのルーや生鮮食品などを興味深そうに手に取って眺めている。国民的アイドルが堂々と買い物している姿も珍しいが、キャンプ場に近いだいぶ人里離れた場所にあるスーパーのようだ。


雨音は他のお客から声をかけられたりすることもないみたいで誰にも気兼ねすることなく伸び伸びしているように見える。


それにしても雨音は料理が苦手だったはず。自分で選んで商品をカゴに入れているようだが、彼女こそ前沢に食材の選び方を教えてもらわなくて大丈夫なのだろうか。


「みんな必要な食材はOKね。ロケバスに戻るわよ」


前沢を先頭に4人がロケバスに戻ると、済田は自前のノートPCの前で最新のキャンプグッズの紹介をしていた。


深夜のバラエティ番組用のVTRを撮影しているようで、彼女の特長を活かしてこのような単独の仕事をエウレカの活動の合間にいくつか行っているようだ。


「さあ、みんなこっちにおいで」


最後に他のメンバーもそのVTRに登場させ(半ば強引に)、その深夜のバラエティ番組と惑星エウレカの両方の番宣をしっかりやってる所は済田のしたたかな性格が出てるなと感じた。



 場面が変わり、メンバー一行は山林に囲まれたキャンプ場に到着した。


「調理器具と食材の準備はよろしいな。それでは各自調理を開始したまえ」


済田はそう言うと、釣り用のルアーを持ち、ハンディカメラを持ったスタッフと一緒に近くの川へと向かって行った。



「まずは野菜を包丁で細かくカットするわよ」


前沢は手慣れた手つきで包丁を使い、ジャガイモやニンジンの皮を()き、一口小のサイズに切ってゆく。タマネギに至っては料理人ばりに目に見えない速さでスライスしている。


雨音や雫井も前沢のような包丁さばきを試みるが案の定、包丁を危なっかしい持ち方で持ち、ジャガイモの皮剥きに四苦八苦している。あんな持ち方をしたら指を切ってしまいそうだ。


「ああ、皮剥きならこのスライサーを使ったらいいわ」


 一方の小祝はというと、調理場からちょっと離れた所にあるハンモックの上で優雅にくつろいでいる。彼女は先程のスーパーでカレー用のカット野菜を買っていたらしく、それを既に鍋の中に放り込んで()でている最中だ。抜け目ないというかずる賢さにかけてはエウレカ1だ。


 雨音や雫井も前沢に手伝ってもらいながらなんとか自分の鍋に肉や野菜を入れ、後はルーやスパイス等を入れるだけの状態となった。


 そこで画面が近所の川へと切り替わり、水面(みなも)をバシャバシャと跳ねる魚をルアーで引き寄せ、自分の顔の横に持ってきて満面の笑みを浮かべる済田。ニジマスを釣ったらしい。



 そして画面に"それから1時間"というテロップが出て、テーブルに1列に並んで座る5人が映し出された。


「それでは諸君が頑張って作ってくれたカレーを頂こうじゃないか。まずは・・・詩帆っち、お願い」


雫井が自身の作ったカレーライスを盛り付け、緊張気味な面持ちでどうぞと言いながら済田の前に料理を置いた。野菜と牛肉の入ったオーソドックスなカレーだ。


「いただきまーす」


済田は手を合わせると、まずは皿を自分の顔に近づけ、雫井の作ったカレーの香りを()ぎ、うんうんとうなずいた。そして、彼女が持参した大きなスプーンでカレーを口の中へと運んだ。


雫井はゴクリと唾を飲み込んでいる。


「んー、カレーではあるけれどあたしの求めている辛さには到達していないわね」


雫井はああ、という残念そうな表情を浮かべた。


「スパイスは何か入れた?」


「いいえ特には・・・カレーのルーは辛口を選んだのでそれで十分かと」


「それじゃダメよ。ルーの辛口は私にとって甘口よ」


雫井は済田が激辛大魔王と言われる所以(ゆえん)を思い知ったかのようにがっくりとうなだれた。


謎解き部の栗原先輩みたいな雫井推しファンだったら、うおおー詩帆ちゃんの作ったカレーだー

とか叫びながらおいしそうに食べるのだろう。


「まあまあ、詩帆っちそんなにがっかりしないで。初めて作ったにしてはちゃんとカレーの味

にはなってるわよ。次回はもっと辛いのお願いね」


済田は(ねぎら)いの言葉を年少の後輩にかけてあげて優しいなと最初は思ったが、最近増えている雫井ファンによって自分のSNSが炎上されないようにするための予防策、あるいは最近脱退者が増えているアウトドアチーム済田に雫井を新加入させようと目論(もくろ)んでいるのではなかろうか。


今までの彼女の言動を考慮するに僕の推理はあながち間違ってはいないだろう。


流石に前回のカレー対決では水沢 唯に労いの言葉は1つもかけてなかったようだが・・・


「次、ちぃお願い」


ちぃとは前沢 千尋のニックネームだ。


前沢は皿にカレーライスを盛り付け、さらに何か分からないが一流料理人がやるような見栄えのするきらびやかなトッピングを加えるとその皿を済田の前に置いた。


「スパイシーシーフードカレーにしてみました」


エビや貝、他にも魚介類がふんだんに盛り込まれたカレーだ。お店の料理かと思うくらいおいしそうだ。


「う~ん、いい匂い!」


済田がカレーの香りを確認するとやはり大きなマイスプーンでカレーを口の中へと運んだ。


数秒の時間が流れる。その間、済田は目を閉じてじっくりと味わっている。流石の前沢でも済田の評価が気になるのか神妙な面持ちだ。

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