45 2曲目
八幡タイヤは何か指示を出しているスタッフにうんうんと相槌を打った。
「副リーダーの都さん、1人でいろいろしゃべってますけど、残りのアーティストの時間が押してきますので、次の曲紹介お願いします」
「あっ! いっけない! 気を取り直して2曲目いきます! あーちゃん! センターにカモン! 2曲目、夕立」
この曲もすっかり雨音の代表曲となった。
雨音がセンターに立つと、それに合わせて他のメンバーが夕立のフォーメーションを形成する。
初夏の夕暮れ― パラパラと降る小雨がステージをより幻想的な世界に演出する。
静止しているメンバー達。イントロが流れ、雨音が動き出すとまるで波が伝播するように2列目、3列目・・・とメンバー達も次々と動き始める。
2列目中央には雨音とともに3期人気トリオの葛巻と喜多上が、そして観客席から見て葛巻の左隣りには矢巾が、喜多上の右隣りには華巻、都がくっつくように並んでいる。
葛巻は、隣りの真顔で踊っている志波もどきの矢巾にやりずらそうに苦笑しながらも懸命に踊っている。
一方の喜多上&華巻&都組は、自由奔放なフリースタイルといった感じで葛巻達とは対照的だ。
カメラが華巻のどじょうすくいみたいな顔を捉えると、その顔を両サイドの喜多上と都が指差し、都はあたしってこんなじゃないと顔を左右に振りながら不満げな表情を見せている。
Aメロ、Bメロと進むにつれ次第に強くなる雨。
サビにさしかかると雨はさらに激しさを増した。
どしゃ降りの中で激しく踊る雨音。
「センターから見える景色って毎回同じじゃないんです」
とはエウレカの中で最も多くセンターを経験している宮内 理沙の言葉だ。
「皆さんとの距離もメンバーの中で一番近いし、一番前なので皆さんの表情が良く見えるんです。そして、皆さんからの注目も一番浴びます。この緊張感と高揚は私を毎回身の引き締まる思いにし、成長させてくれます」
センターから見える景色―きっとこの時、この場所でしか見られないその景色を今、雨音は見ているのだろう。1万人超えの観客を前に宮内や志波に負けず劣らない圧巻のパフォーマンスだ。
エウレカ加入から1年でよくここまで頑張ったと彼女を心から讃えたい。
サビが終わりアウトロが流れるとそれまで激しく降っていた雨も止んだ。
偶然だとは思うが、奇跡的にステージ上空に虹が現れた。
まるでセンターに立った雨音を祝福するかのように。
面白かった。今まで僕が観たエウレカライブで1位、2位を争う出来だったんじゃないだろうか。
スマホ越しではあるが、それだけこのライブは僕の脳裏に深く焼き付けられた。
そんな雨音がこの校舎から校庭までのわずか数百メートルの距離にいることが信じ難い。
でもこれは紛れもなく現実なんだ。これからも猛プッシュで彼女を推してゆきたい。
「おい、相馬! 何してる! 授業始めるぞ!」
突然名前を呼ばれ、振り返ると、教壇に立っている地理の角田先生といつの間にか席についているクラスメイト達が全員、1人窓際に立っている僕の方を見ている。
「い、いや~今日はとってもいい天気ですね」
僕は恥ずかしそうに頭をかきながら自分の席へと急いで戻って行った。
クスクス笑う生徒もいる中、僕の頭の中では既にある事案が進行中だった。
僕が雨音のためにできること。まずは彼女に捧げる新曲の制作だ。
1曲目の「Aitai」は彼女に会いたい僕自身の気持ちを歌ったものだった。
2曲目はカラオケ大会、ライブと立て続けに頑張っている雨音を応援する曲、そうだこのテーマで楽曲制作に取り掛かろう。