43 野外ライブ
その野外ライブはロックやポップス、HIPHOP等ジャンルを問わず、総勢10組のアーティストが順番に数曲歌う、ちょっとしたフェスみたいなものだった。僕は毎度のことながらその様子をスマホ上の生中継動画で視聴した。
エウレカが登場したのはライブがまだまだ盛り上がっていく気配を感じさせる5番目だった。
時間は夕刻に差し掛かっていた。
リーダーの透野 舞衣を筆頭に20人近くのエウレカメンバー達がステージ上に続々と駆け込んでくる。
その割と先頭の方で雨音がいるのを僕は確認できた。
「みんな! 今日はあいにく宮内ちゃん、志波ちゃんとか何人かのメンバーが居なくてごめんね!
それでもいつにも増して盛り上げていくからついて来て!」
透野の呼びかけに1万人超え、超満員の観客が沸く。
ボルテージは一気に最高潮へ― 割れんばかりのものすごい歓声だ。
1曲目のイントロがかかる。エウレカの代表曲「アドレッセンス」だ。
1列に並んでいたエウレカメンバー達がステージ上で四方八方に散らばり、フォーメーションを組む。
センターは、先日のカラオケ大会においてこの曲で一気に注目された葛巻 楓だ。
2列目には透野と久坂 依楽、雨音は3列目の中央付近に居る。
曲が演奏されている間、観客の声援は終始衰えることを知らない。
それは国民的アイドルグループの今の勢いをそのまま表しているかのようだ。
「アドレッセンス」― 今まで何度もストリーミングやPV、ライブDVDで聴いてきたはずなのに
聴き飽きた、とは決してならない。
その理由はエウレカが猛烈な勢いで進化し続けているからである。
今まで中心メンバーとして活躍してきた宮内 理沙、志波 樹が不在の中でも雨音や葛巻ら、魅力的かつ個性の溢れた他のメンバーが次々と台頭し、ファンを飽きさせないのである。
この「アドレッセンス」も今までは宮内 理沙をセンターにフォーメーションを組み、かわいい振り付けでアイドルらしさを前面に押し出してパフォーマンスを行ってきたが、
今回の葛巻センターバージョンでは、振り付けをまるごと一新させてきた。
合わせて曲のアレンジも変えている。言うなればまるでミュージカルのようだ。
1人の少女がアドレッセンス(青春)を謳歌する様を葛巻が見事に表現している。
彼女自身、小学生の頃に一時期劇団に所属し、主演の経験も数回あることから、このような振り付けになったのだろう。
一方の雨音含め周りのメンバーの振り付けも時には少女のクラスメイトになったり、
風景である木やブランコのようになったりと上手く葛巻を引き立てている。限られた時間の中、今回のために相当練習をしたのだろう。
この「アドレッセンス」はきっと観客はもちろん視聴している全ての人に驚きと感動を
もたらしたに違いない。
そして、1曲目がアウトロを迎えた。