40 決着
音楽に目覚めた志波は、それ以来猛練習を重ねた。
何度も打ちつけられて強靭になる刀のように彼女の歌唱スキルはどんどん向上していった。
目の前の小さな画面の中の志波は、「籠の中の鳥~」を怒涛の勢いでサビまで歌い切った。
雨音の時と比べて音程グラフはどうだったか、ほとんど互角でどちらが勝ってもおかしくないように思える。
満面の笑みを浮かべる志波。今の彼女の持てる力を全て出し切ったようだ。
「それでは得点お願いします!」
透野の掛け声が合図でドラムロールが流れる。
息を呑むエウレカメンバー達。
得点の小数点3桁が.985を示すと3期メンバー達が喜びの歓声を上げる。雨音の得点が98.999点なので、残りの小数点より大きい数字が98なら雨音の勝利となる。
10の位の数字が9を示し、1の位の数字がカウントアップを始める。
6,7・・・
8で一瞬停止したのでスタジオから歓声が起こる。
その後その8はゆっくりと下へ移動し、入れ替わるように9の数字が現れた。
99.985点
3度目の大会も志波が1位を死守した。
エウレカメンバー達からは志波の異次元とも言える歌唱力に溜息まじりの拍手がおくられた。
AI判定のカラオケでは単に音程だけでなく歌唱の表現力まで採点の対象となる。
志波がこれまで培ってきたボーカリストとしての経験が雨音よりも豊富だったことが勝因のようだ。
2位ではあるけれどもそれでも雨音だってすごい。今大会で一度は志波よりも高い点数を叩き出したんだ、大健闘したと思う。
「おめでとうございます。志波 樹さん、今のお気持ちを聞かせてください」
そう声を掛けられ透野の方を向く志波。
「あ、はい、えーと」
何かを話そうとマイクを口元まで持ち上げたが、意識を失ったかのようにそのままステージ上で倒れた。
慌てて志波に駆け寄るスタッフと立ち尽くすメンバー達。
そこで突然、何事も無かったかのようにスポンサーのCMに切り替わった。
え、まさかここで終わりと思ったが、そのまさかでCMが終わると動画は無情にも真っ暗になって停止した。