37 羽ばたく時・続き
当時のインタビューの回想から眼前のスマホ画面に意識を戻すと、雨音が全身全霊で振り絞るように歌唱している。
画面下方の音程グラフは相変わらず上下に激しく揺れている。
エウレカに加入が決まった当初、雨音は地元を捨てたとかひどい事を言われたりもしたようだ。その時の彼女の胸の内が如何ほどだったのか知る由もない。
彼女が県内の高校に進学し、今でも東京と仙台を往復して芸能活動を続けているのも地元をずっと愛しており、決して捨てたわけじゃないという意思表示のためなのかもしれない。
曲がサビにさしかかる。いいぞここまで順調だ。
エウレカに加入後の彼女は次期エース候補として、活躍はまさに飛ぶ鳥を落とす勢いだ。
一方でビフタンは現在も残った3人で活動を続けている。雨音がかつて在籍していたこともあって今では全国ネットで見かける機会も増えた。
この大会での活躍でさらにビフタンにも注目が集まるだろう。あの時、雨音がメンバーに言った通りになりつつある。
雨音よ、応援してくれるみんなの思いを背負って今こそ羽ばたけ。
曲が終了し、アウトロが流れる。
ほっと一息ついた雨音の顔を確認できて僕もほっとした。雨音も葛巻同様に床に倒れ込んだが、スタッフのケアで落ち着いた後はカメラに向かって大丈夫とVサインをしている。
得点はどうあれ、ここまでよくやった、地元の誇りと彼女を褒め讃えたい。
AIによって得点がはじき出される。
最初に小数点以下3桁が999とゾロ目で表示されると会場は沸いた。
98.999点
暫定1位に躍り出た。本当、雨音には驚かされてばかり。
流石の志波も「籠の中の鳥~」でこれほどの高得点は難しいのではないか。