34 きかいのわがまま
雨音の前代未聞の99点にスタジオのざわつきは収まる気配はない。
またもやスタッフがカラオケ機器の周辺に集まり、故障してないか調べている。
(どうか間違いでありませんように)
僕は自分でも呆れるくらいまた目を瞑って祈った。
しばらく時間が経過した後、騎械氏の声が響く。
「機器に異常はありませんでした。雨音、99点で1位!」
(よっしゃー!)
僕は画面越しであるにもかかわらずスマホを持っていない方の腕でガッツポーズをしてしまった。
雨音の下へとダッシュで駆け寄り、彼女に次々に抱きついて喜ぶ3期メンバー達。
結果2位となった志波は天を仰ぎ、残念という顔をしている。今回はたった1点の差で勝敗が決まってしまった。志波もよく健闘したと思う。
カメラが1期生や2期生を映し出す。透野や宮内、久坂達はもう訳が分からないという感じで首を振ったり、呆然と立ち尽くしていたりする。
無理もない、今大会の3期の勢いは凄まじいものがあった。湯田エリの暫定1位から始まり、葛巻ショック、雨音ショックと立て続けに起きた出来事は
メンバー達にとって今までの常識が根底から覆されたと言っても過言ではないだろう。
偶然の要素もあるのかもしれないけれどまさかあの志波に勝つなんて、僕自身雨音がこんなにすごいことをやってのけるなんて思ってもいなかった。
未だステージの中央で盛り上がっている3期メンバー達に騎械氏は手を挙げ、静粛にと合図を出した。
スタジオが一瞬にして静まり返る。
「いやあ、今回はとても楽しませてもらいました。これまでで一番盛り上がったんじゃないかな。特に3期生には計り知れない可能性を感じるよ」
騎械氏は続ける。
「これは本当に、本当に僕のわがままなんだけどさ。大会を30分延長して雨音、樹、楓の3人でもう一度決勝戦をやってみない?」
スタジオからおおーという声が上がる。
「但し、条件として歌う曲は同一のものでこちらで決めさせてもらう。また、判定は小数点以下3桁まで採点ができるAIの搭載されたカラオケで行ってもらう」
騎械氏の提案は最もだと思った。1位から3位までが僅か1点差。また選曲も自分の好みなため比較的アップテンポな曲を選んだ葛巻や志波よりスローバラードな「夕立」を選択した雨音の方が高得点を得るのにだいぶ有利だったと言えよう。
また、得点が僅差な場合に細かく採点できるAIに判定させるのも納得のいくアイディアだ。
同じ曲を歌った場合順位がどうなるか、とても気になるが、当の本人たちの気持ちははたしてどうなのだろう。これから決勝戦をやりたいのだろうか。