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Close to You  作者: Tohma
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32 優勝者のご褒美

 葛巻が叩き出した97点に会場は一瞬静まり返り、次第にざわざわとどよめきが聞こえ出した。


騎械氏の指示の下、スタッフがカラオケ機器の周囲に集まる。


葛巻の番狂わせに機器自体に異常がないか調べているようだ。


2分くらい経過しただろうか、スタッフから結果を聞き、騎械氏はマイクを手にアナウンスをする。


「只今の葛巻 楓のカラオケの採点についてですが、カラオケ機器は正常に動いておりました。よって現在の1位、葛巻 楓 97点!」


会場に悲鳴に近い歓声が鳴り響く。雨音や喜多上を含めた3期生は飛び跳ねたり抱き合ったりして喜び合っている。


宮内、久坂、透野の表情を順にカメラが追う。彼女達は皆、目を見開いて驚きを隠せない様子だ。


 僕は事前の予想で葛巻を3位に予想はしたが、あくまで3期生に頑張って欲しいという希望に近い気持ちからで、まさか昨年2位の透野に3点も差をつけて勝つとは予想もしなかった。


先週のエウレカネットワークで同じく葛巻を3位に予想していた頼旗すずは彼女の実力を知っていたのだろうか。


騎械氏も驚きを隠せない。


「これだけの得点をとるなんて、アドレッセンスを相当練習した証拠。人一倍努力する葛巻に僕はもう脱帽だよ!」


騎械氏は葛巻に拍手を送った。先ほどは唖然(あぜん)としていた透野、宮内、久坂も今は笑顔で拍手をしている。


わずか1年足らずで急成長を遂げた次期エース候補の1人に健闘を(たた)えてのことだろう。雨音にも葛巻に負けないぐらいの結果を出して欲しい。



 葛巻ショックの興奮冷めやらぬ間に、次の歌手が選ばれた。過去2大会の優勝者、志波 樹だ。マイクを持ち、ステージ中央に立つ志波にはもはや王者の風格が(うかが)える。


後ろのひな壇の方からかすかではあるが甲高い声で、


「シュワちゃーん! 頑張ってー!」


という声が聞こえる。おそらく水沢 唯だ。画面上では相当奥の方だが、彼女の近くに座っていた都 亜衣らしき人物がいくら何でも空気を読めと言わんばかり、軽くパシリと水沢と(おぼ)しき人物の頭をはたく姿が確認できた。


だが、そんな外野のにぎやかしにも志波は全く動じている様子はない。


プロアスリートが試合中に度々起こすゾーンの状態に入り込んでいるようだ。集中力を極限まで高めて聴覚をカラオケの音だけに一極集中しているのだ。


 カラオケ大会で優勝すると、そのご褒美として騎械氏からセンターかソロで曲を提供してもらえる。過去2大会で優勝している志波はどうだったかというと、


前々回の時は初めての大会ということでルールがはっきりと定まっていない状況だった。何かの手違いでメンバーのカラオケの順位が決まる前に既に騎械氏からセンターで歌う曲が用意されてしまっていたのだ。


それまでのエウレカの歌唱時のフォーメーションは、宮内 理沙のセンターが必然で、志波は透野とともにその後列の2番手、3番手の位置に甘んじていた。


 志波にとっては悲願の初センター ―のはずだった。だが、当時優勝した志波は半ば強制的に自分のイメージにそぐわない曲をセンターで歌う羽目(はめ)になってしまった。


タイトルは「可愛すぎるって罪でしょうか?」


まさにTHEアイドルという曲だった。


 Webサイトで「志波 樹 センター曲」と入力し、検索をかけるとその曲で生放送の音楽番組に出演した当時の動画が最初にヒットする。


僕は最近この動画をチェックしてみたが、まずサムネイル(動画の紹介画像)から北欧風のかわいらしい衣装を着た無表情の志波のドアップなので、度肝(どぎも)を抜かされた。


 その動画では曲の始まりから終わりまで宮内や透野ら他のメンバーはアイドルっぽい振り付けで踊りながら笑顔でいる中、志波はこんなの聞いてねえぞと言わんばかり終始あのサムネの無表情のままであった。


だが、流石(さすが)に志波だ。歌とダンスは他のメンバーとシンクロして完璧にこなしていた。


既に決まっていた歌番組の仕事のためキャンセルは難しかったのだろう。あの無表情は志波の無言の抵抗ととらえてよいだろう。



 その動画の下にある視聴者のコメント欄には、


 これはーーーーーー放送事故レベル^^^^^^


 何かの罰ゲーム?


 みんな笑顔の中でポーカーフェイスの樹さんかっこよすぎっす^^ 


 等々。


中には手厳しい発言もあり、


 仕事なんだから他のメンバーと一緒に愛想よく振舞うのがプロなのでは


というものもあった。



 この動画が面白すぎて、僕は結局フルで5回も繰り返し観てしまった。


 オンエア時にもこの時の志波の態度に賛否両論あって放送後に番組への問い合わせが殺到したようだ。


当然エウレカ側にも番組スタッフやスポンサーからお叱りがあり、その反省から第2回大会の優勝時にはセンターかソロを選べるようになり、


順位が確定した段階で騎械氏が優勝者に向けた楽曲制作を行うシステムになった。



ステージ上でマイクを構える志波。


選曲は、志波の前回大会での優勝時に提供されたソロ曲「流れ星」だ。

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