30 波乱の順位
「ありがとうございました。それでは現在までの順位をおさらいしましょう! 透野さん!」
八幡タイヤが呼びかける方向には大きなランキング表があり、その横に透野が立っている。1位から5位まではテープで隠れている。透野が5位のテープの端を指でつまむ。
「現在の暫定順位ですが・・・波乱の様相です! 5位 都 亜衣 86点!」
メンバー達から拍手と歓声が上がる。都は今回相当練習したのだろう。昨年は14位くらいだったので、大きくランクアップした。
「へ~、あいぶーやるじゃん」
「あいぶー、歌はあたし達と同レベルかと思ってた」
「こらー!! 華巻ぃぃー! 喜多上ぃぃー!」
都が立ち上がってひな壇の上段に座っている華巻あおいと喜多上 渚の方を見上げて叫ぶ。両腕をグルグル回し、下りてこんかいコラァと言わんばかり怒り心頭の様子だ。
どうやら華巻か喜多上のどちらかのマイクがONになっていて、音響が2人の会話を拾ってしまったらしい。
この3人のやり取りは先日の握手会の時も間近で見たが、すっかりおなじみになっているようだ。
この掛け合いが面白いとファンから評判なので、今後のバラエティ番組で見かける機会は増えるのだろう。
華巻と喜多上は反省するそぶりで揃って首をすぼめていたが、2人とも顔はしてやったりといった感じの苦笑いを浮かべている。
カラオケは華巻が75点で15位、喜多上は72点で18位。2人とももうこの大会で出番は終わったと思っていたようだが、偶然の産物でカメラにアップを映してもらってラッキーと思っているのかもしれない。
いや、この2人のことだからもっとカメラに映りたいがための計画的犯行の可能性も十分あり得る。
透野は続けて現在のランキングを読み上げる。
「4位 2期生の伊沢 凛 88点、3位 1期生の西根 萌夏 89点」
この2人は去年に引き続き上位の成績だ。それだけ歌唱力が安定している証拠だろう。
今大会で5位以内に入って次曲でのメインボーカルを担当するのは厳しいだろうが、それ以降の曲や生歌を披露する時には2人とも選抜の候補に挙がるのだろう。
透野が続ける。
「2位 宮内 理沙 90点!」
メンバーからどよめきとえーという悲鳴に近い声が会場に響き渡る。
他にまだ歌の上手いメンバーの志波 樹や透野 舞衣、それに雨音、葛巻 楓も控えている。
下手すれば宮内は初めて5位より下位となり、次曲のメインボーカルから外れる事態となる。
宮内のアップが画面に映し出されると、彼女はえ~んと泣くような仕草をしている。
きっと全国の宮内ファンも悲しみに暮れていることだろう。
それでも本人はそこまで心底悲しんでいる訳でもないようだ。アイドルとしての活動以外にもCMやモデル、女優としてドラマや映画の撮影も行っていて、多忙さもエウレカ1だ。
本人もスタッフも少し休んだ方がいいと思っているのではないだろうか。そして志波や雨音等、他のメンバーにも活躍するチャンスを与えるつもりなのだろう。
僕の5位までの予想は残念ながらこの時点で外れてしまったようだ。
「そして、1位は・・・ 3期の湯田エリ 91点!!」
暫定1位の発表とともに3期メンバーの居る方から大きな歓声が上がる。画面に湯田のアップが映し出されると、彼女は両手で口を覆っており、まさか自分がという顔をしている。
彼女と仲の良い3期生の小祝陽向と東和めいが両サイドからよくやったと言わんばかりに彼女にひしっと抱きついている。
湯田はビギナーズラックというやつだろうか。これで5位以内に入れば、大穴中の大穴で予想できた人ははたして何人いるだろう。
「以上、現在の5位までのランキングでした」
また、5位よりも下位の順位もランキング表に表示されており、先週ラジオで矢巾はるかと一緒にパーソナリティを務めた譜代 美穂が84点で7位、頼旗すずが85点で6位となった。
譜代と矢巾は頼旗に僅差で負けて悔しがっていたが、3人とも今大会では健闘したようだ。
続いて1期生の松尾 瑠衣が歌った。彼女は練習通りに歌えなかったのか、終わった後に目をつむって悔しそうな表情をしていた。
結果は76点で華巻あおいが1つ下の16位に後退し、松尾は15位となった。
「続きまして13番!」
「はい」
ひな壇上で雪のような真っ白な手が挙がる。
そして、その立ち上がる1人のメンバーをカメラが追う。
雨音や宮内 理沙に負けずとも劣らないほどの端正な顔立ちの美少女が画面に映し出された。
前回大会では。第4位。
2期生の中で1番の歌唱力を誇る―久坂 依楽の登場だ。