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Close to You  作者: Tohma
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29 歌唱コンテスト

 先週末のエウレカのラジオ番組から8日が経過した。


日曜日の今日、僕は楽しみにしていたエウレカのカラオケ大会の生中継を開始14:00からスマホでずっと視聴している。


 今週始めに学校で見かけた雨音はあまり元気がなく心配していたが、オープニングでは喜多上(きたかみ) (なぎさ)葛巻(くずまき) (かえで)と並んで楽しそうに3人でカメラにVサインをしていたので、僕は安堵(あんど)した。


 メンバーが次々とカラオケを披露し、間に夕食タイム(この間は、場つなぎのために過去の惑星エウレカの総集編を流していた。この間に僕も夕食を済ませた)を挟んで、生中継は既に5時間近く経っているので、あと歌唱していないのは雨音を含めて10人くらいとなった。


「それでは透野リーダー、次の歌手を選んでください」


そう話すのは、惑星エウレカで透野(とおの) 舞衣(まい)と一緒にMCを務めるお笑い芸人の八幡(はちまん)タイヤだ。


時々、エウレカのライブツアーのMCも行っていたりするメンバーにとっての頼もしいお兄ちゃんである。


「はい、ではでは・・・」


透野が箱の中に手を入れ、かきまぜながら1個のプラスチックボールを(つか)んで、書かれた番号をカメラの前に示した。


「22番!」


「あっ! はい! あたしです!」


メンバーみんなが一堂(いちどう)に座るひな壇で、一際(ひときわ)大きな声を出して立ち上がったのは矢巾(やはば)はるかだった。


矢巾はスタジオの真ん中まで駆けて来ると、相撲(すもう)力士さながら気合を入れるように自分の顔をバチバチと叩き、カラオケステージの上に立った。


スポーツが得意な体育会系の矢巾らしい登場の仕方だ。


メンバー達が見守る中、ステージ上でマイクを持つ矢巾。


 曲のイントロが流れる。


エウレカの代表曲の1つ「カナカナ」だ。


軽快なリズムに合わせて矢巾が踊る。


踊りながら歌うと呼吸が乱れてしまい、カラオケの点数も下がってしまいがちだが、サービス精神旺盛な彼女は、序盤から全力で歌って踊っている。


ひな壇にいるメンバーのみんなも総立ちで応援する。


カメラが自分のアップを(とら)えた時は、カメラに向かってウインクをしたりとノリノリだ。


歌い終わった後は歌詞を何回か間違えたらしく、おどけて舌をペロッと出した。


メンバーが、大会を盛り上げた矢巾に賛辞(さんじ)を込めて大きな拍手を送る。


 MCの2人も拍手しながら彼女に駆け寄る。


「いやー、矢巾ちゃん今回も元気だねー」


と八幡タイヤが言えば、


「はるはすごいスタミナよね。あの曲で踊りながら歌って、よく息を切らさないでいられるわよ」


と透野も矢巾のパフォーマンスに目を丸くする。ちなみに"はる"は矢巾のニックネームだ。


 リーダーに()められて(うれ)しかったのか矢巾は少し照れたように笑った。


「それでは得点の方、お願いします」


 八幡タイヤの掛け声でドラムロールが流れ、カラオケ機器が採点を行う。


数字の1桁目は2を表示した。


続いて10桁目は1から数字が増えていき、8で止まった。


「矢巾はるか、82点で現在8位です! 騎械さん、はるに一言お願いします」


透野がこの大会の唯一の審査員である一ノ瀬 騎械の方を向いて話しかける。


 一ノ瀬 騎械、エウレカ1984の生みの親でありプロデューサーであるこの男は、普段は裏方に徹しているが、このカラオケ大会だけは過去も含め最初から出演しているようだ。


そして、発表会のような形式でメンバー1人1人に歌声を披露してもらい、彼女達にその感想を伝えるのが慣例となっている。


彼女達の現在の歌唱力を見定め、助言も送ることで、自身でも今後のエウレカの曲をどう発展させていくかヒントを探る狙いがあるようだ。


大きなヘッドフォンを頭にかけて審査員席に座る彼は、机の上で手を組み、落ち着いた穏やかな声で矢巾に語りかけた。


「リーダーの言うように、あれだけ踊って歌えるのは大した才能だよ。ただ、やっぱり前回も言ったと思うけど要所要所で息継ぎ(ブレス)のタイミングが遅れたり、音程が外れたりしているから、次回こそは踊らない場合でどんな感じか聴いてみたいね」


「あっ、それじゃ今から踊ってないバージョンで歌います」


「いやいや、1人1回まで! 時間も限られているから」


もう一度マイクを手に歌おうとする矢巾を騎械は制止する。


歌だけで勝負していれば、とうなだれる矢巾に、


「それでもはるか以外は誰も試みないであろうそのチャレンジ精神と大会をこんなに盛り上げてくれた点はとても評価します」


と騎械は付け加えた。


その言葉に救われたのか矢巾は満面の笑みを浮かべ、元居たひな壇に戻って行った。

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