28 再会の時
今日の部活が終わり、教科書やノートの入ったカバンを取りに教室へ戻る途中だった。
放課後の薄暗い廊下の奥からこちらに向かって来る1人の女子生徒が見えた。
雨音だった―
雨音がだんだんとこちらに近づいてくる。僕の心拍数もそれに伴ってどんどん速くなる。
何て話しかけようか・・・
この間は握手してくれてありがとう、いや他の生徒が立ち聞きするかもしれない。"握手してくれて"は蛇足か・・・
これからも応援するよ、も学校でわざわざ言うことではないな・・・
シンプルに"この間はありがとう"で行こう。
雨音が僕に気付きそうな距離まで近づいた時、僕は片手を挙げ声をかけようとする
・・・がその直前で、雨音は僕の方には一瞥もくれず、自分の教室へと入って行った。
予想外の展開に僕は拍子抜けし、一旦挙げかけた手を腕まで伸ばし、最近身体がなまって運動しているんですよと言わんばかりに大げさに1回転させて下ろした。
もし周囲で誰か見ていたとしたら、僕の動きはその人にとても不自然で滑稽に映っただろう。
雨音はうつむいていてなんだかひどく落ち込んだ顔をしていた。
他の生徒が部活をしている間、担任の先生と面談をしていたようで、きっと今後の進路について話し合ったのだろう。
学業とアイドルの両立―
他のアイドルは東京にある芸能コースの高校に通ったり、通信教育でアイドル活動と両立している中、雨音の場合は宮城県内でもわりと偏差値の高い進学校に通っている。
それに加えて国民的アイドルグループの次期センター候補になっているのだから日頃の努力は並大抵ではないはずだ。
僕の頭の中で一抹の不安がよぎる。
―雨音はアイドル活動の方が多忙になってしまい、いずれ東京の方の高校へと転校してしまわないだろうか―
僕は急いで自分の教室に入ってカバンを掴み、再び廊下へと戻った。
そして、たった1人で戦っているようでいて、寂しそうな雨音の背中をそっと見送った。