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Close to You  作者: Tohma
29/102

27 バンド名

 軽音楽部の部室のドアを開けると藍菜がいた。


彼女は買ったばかりと思われるフェンダー製のベースをストラップで肩から下げ、ベンッベンッと右手に持っているピックで低音をかき鳴らしていた。


「えへっ、いいだろう」


藍菜は続けて弦を(はじ)き、ドレミドレミとチューリップの曲を演奏した。


「まだこれだけだ・・・文化祭までにはもっと上手くなっているから待っとけや」


前に石森(いしのもり)を含めた3人でバンドを組もうという話が持ち上がったが、藍菜はかなり本気のようだ。


「ところで、おみーの方はどうだった」


「えっ?」


「握手会」


「ああ、最高の思い出になったよ」


「えがったな」


藍菜は僕がエウレカでNo1の人気を誇る宮内(くない) 理沙(りさ)と握手したと思っている。それでいい。


 そうしている間に他の部員達も部室にドヤドヤとやって来た。


彼等にも藍菜は新品のベースを自慢げに紹介する。


披露するのはやっぱりチューリップの曲だ。


「へえ、藍菜、とうとう買ったんだ。僕もドラムの練習始めなくちゃ」


いつの間にか僕の横に石森がいた。彼も最近、近所に住んでいるドラム演奏が趣味の知人から古くて使わなくなったドラムスを譲り受けたのだそうだ。


これでスリーピースバンドを組むための楽器、ギター、ベース、ドラムスは(そろ)った。


後は文化祭までに観客を満足させるだけのテクニックを磨くだけの状態となった。


 しばらくすると藍菜が僕等の方へとやって来た。


楽器練習の前にバンドのこれからの事を話し合おう。藍菜に従うように3人で輪になって椅子に座った。


「まずはバンド名を決めない?」


石森の発案を受け、バンド名の候補をそれぞれ出し合うこととなった。


ロックバンドっぽい名前がいいなと思い、僕が"フレイム"なんてどうと2人に聞いてみた。炎や情熱という意味でこれからバンドを始める僕等の意気込みみたいなものを名前にしたかったからだ。


「うーん、ええけどありきたりだべ」


「うん、そういう名前のバンドが既にいそうだよね」


僕は石森にそれじゃあどんなものを考えているんだと聞いてみた。


「う~んっとね、Swanky(スワンキー) Boys(ボーイズ)は?」


石森によると"Swanky"とは最近ロック界隈(かいわい)で流行っているSwank(見せびらかす)とKinky(気まぐれ)の造語だそうだ。"Swanky"だけだとこれも既にバンド名でありそうなので後ろに"Boys"を付けたようだ。


僕は悪くないと思ったが、


「いや、これでもガール、ガール」


と藍菜は自分自身を指差した。


藍菜が自身に"これでも"って付ける所は、周りからどう見られているか自分でも自覚してるんだなと僕はちょっと笑ってしまった。


「藍菜は何か考えているかい?」


僕の問いかけに藍菜は一度目を閉じ、しばらくすると自分のカバンからノートとシャーペンを取り出して3人の名前を書き出した。



 TOH SOUMA


 AINA KOZUKATA


 HAJIME ISHINOMORI



そしてブツブツと何やら独り言を始めた。3人の名前をもじったバンド名にする気らしい。1分くらいして


MEtoHANA(めとはな)、でどうだ」


"HAJIME"の"ME"と"HA"、"TOH"の"TO"、"AINA"の"NA"で"MEtoHANA"としたらしい。僕は、


「"目と鼻の先"の"目と鼻"か~、バンド名としては微妙だと思うけど」


と返した。すると石森は意外にも肯定的で、


「3人の名前の一部が入っているし、漢字表記で"芽と花"という意味なら・・・アリだと思う。僕等の音楽がこれから芽を出し、やがて花を咲かせる、バンド名の由来を聞かれたらそう答えればいいんじゃない」


石森の説明に藍菜は"おう、そうだべ"と言い、僕もそういう意味ならこの3人のバンド名にふさわしいねと同意した。最近はおかしなグループ名でめちゃくちゃかっこいい曲を弾くバンドが流行っているし。


こうして、僕等のバンド名は"MEtoHANA"に決まった。


 次に文化祭で演奏する曲数に話題が移った。


「うん、1曲は"Aitai"で決まりとしてあと2曲くらいは欲しいよね」


と石森は言う。


僕もうん、そうだねと2人の方を見ると2人とも僕の方を見ている。


藍菜は僕の肩をポンッと叩き、


「曲の良し悪しはおみーにかかってるだ。期待してるで」


石森も笑顔で(うなず)く。


(はー・・・)


(おの)ずと溜息がこぼれる。文化祭でのライブの盛り上がりが僕の作った曲次第ということか。


 その後、3人でセッションっぽいことを30分程行った。石森のドラムスは彼の自宅にあるので、机の上を2本のスティックで叩いてリズムを取る。


そのリズムに合わせて僕がアコギでコードを弾き、藍菜がちょっと待てと言いながらたどたどしく1音1音確認しながらベースを弾いた。


文化祭に向けて僕等のバンドはついに始動した。


「あと2曲・・・」


初めてのライブにワクワクする気持ちの半面、僕の肩に相当なプレッシャーがのしかかるのを感じた。

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