26 登校日
連休が明け、待ちに待った登校日がやって来た。
僕は朝から雨音の事で頭がいっぱいだった。
通学中はもちろん、高校に着いてからも。1時限目は国語だったが、内容を全く覚えていない。
握手会ではあんなに近くで雨音と目と目を合わせて、そして言葉を交わした・・・
校内で会ったらどんなふうに挨拶しようとか自分で設定を考え、頭の中で何度もシミュレーションを行った。
2時限目と3時限目の間の休憩時間に雨音のクラスの男子生徒が僕のクラスにやって来て、僕の前の席の大衡という男子生徒といつものように仲良く会話している。
2人はゲーム同好会に所属し、中学も一緒だったらしい。特に立ち聞きするつもりは無いのだが、席が近いこともあって彼らの会話の内容が否応なく耳に入ってくる。
大抵はゲームの話ばかりなのだが、その雨音のクラスメイトの大きな働きは、会話の中で雨音がその日に学校に来ているかどうかを我がクラスに逐次報告してくれることである。
きっと大衡も同じ高校に全国的に有名なアイドルがいるのだから気になるのだろう。僕は今日は特に彼らの会話に耳をそばだてた。
「あのダンジョンのボスめちゃくちゃ強くね? あそこではまってしまってさあ」
「ああ、あれね。あれは通常攻撃ではダメで赤色になっている時は氷系の魔法を使い、青色になっている時は火炎系の魔法でダメージを与えるんだよ」
そんなゲームの攻略の話など正直どうでもいい。もうすぐ3時限目が始まる。大衡よ、雨音の事を聞いてくれ。頼む。僕は心の底から祈った。
「連休中に東京のゲームショーに行って来たよ」
「えーいいな。人たくさん来てただろ?」
「うん。結構なゲーマーで知られるエウレカの沢内 梢もゲストで来ていて、その追っかけファンもいたからすごかったよ」
沢内はエウレカの1期生で個人でゲーム情報番組のレギュラーをしていたはず。会話がいい流れになってきた。
「そう言えば、今日は森丘、学校に来てるの?」
僕の祈りが神様に届いたようだ。
「うん、2時限目から来てるよ」
(よっしゃーーー!!)
僕は心の中で力強くガッツポーズをした。
3時限目のチャイムとともにその雨音のクラスメイトは急いで自分の教室へと戻って行った。
雨音が学校に来ている・・・
3時限目以降はさらに僕の頭の中が雨音の事でいっぱいになった。
4時限目の英語に至っては先生から急に当てられてしまい、質問の内容なんてほとんど聞いてなかったので、"I don't know"と欧米人っぽくジェスチャーも交えて言ったら先生はあきれ顔でクラスメイトはゲラゲラと笑う始末だった。
昼休みの間は落ち着かず、何の用も無いのに廊下に出て雨音の教室の前まで行ってみたり戻ったりを2、3回繰り返した。
結局、雨音を1目見る程度のチャンスも無いまま、今日の授業は終わった。
まあ、明日もその次もいくらでもチャンスはあるさ。僕は軽音楽部の部室へと向かった。