17 好機
栗原先輩から伝授された方法で雨音カードを入手できるかもしれない。
そう考えたら、それまで落ち込んでいた気持ちがパッと晴れやかなものに変わった。
早速、カードの交換が行われている輪をいくつか覗いてみる。当たり前のことだが、人によって所有するカードの種類も枚数もバラバラだ。
栗原先輩は、わずか10分ちょっとで目的のカードを手に入れたのだから、頭の回転がとてつもなく速いことが分かる。そこまではできなくても30分くらいでこの群衆の中からカード交換に適した人を見つけようと思った。
先輩の言っていたポイントは2つ。まずは、雨音カードを1枚だけ持っている人を探す。(2枚持っている人は、残り1枚で握手の権利が得られるためリリースはしない。)
そして、その人の交換の習性(交換する時にその人特有の癖はないか)を調べる。この2点だ。
20分程、輪の中にいる様々な人の手札を見て回り、雨音カードを1枚だけ持っている小学3~4年くらいの男の子を見つけた。その子の手札の中身は次の通りだ。
右から2期の軽舞 真希が1枚、華巻あおい2枚、雨音1枚、矢巾はるか1枚の計5枚。
その男の子は、もらったカードは自分の手札の中で一旦1番右に配置し、渡すカードは左側に配置してあるカードを選ぶ傾向にあった。
僕は手を挙げて、少し緊張気味に"入ります"と告げ、例の男の子の右隣りに入った。この輪には20人くらいの人達がいて、その人達の視線が一斉に僕に集まる。知らない人達ばかりのところに声を出して入り込むのは結構勇気がいるものだ。
僕の現在の手札は釜井 静流と矢巾はるかの2枚。右隣りの人からカードをもらって確認すると1期の譜代 美穂だった。僕は左隣りの例の男の子に矢巾はるかカードを渡し、"出ます"の掛け声とともに輪の中を抜けた。
背後から男の子の手札の配置を見ると思った通り、右から軽舞1枚、華巻2枚の後に矢巾2枚、雨音1枚と続いている。
僕は雨音カードがリリースされる絶好の機会だと思い、今度は男の子の左隣りへと入った。
その子からカードが渡る。見ると軽舞のカードだった。男の子にとって優先度は雨音カード>軽舞カードなわけだ。まあ、今回の握手会には雨音が来ているのだから当然だろう。
僕は軽舞カードを左隣りの人に渡し、次こそは雨音と祈りに近い気持ちで1周待った。
そして、例の男の子からカードをもらう。見ると今度は、3期の矢真田 恋カードだった。しびれを切らした僕は矢真田カードを左隣りの人に渡し、"出ます"と手を挙げてその輪から抜けた。これでは埒が明かない。
僕は一度落ち着こうと、自販機でジュースを買ってガブ飲みし、深呼吸をした。
どうしたらいいんだ・・・座って数秒考えると名案が閃いた。そうか、この交換所を最大限に利用しよう。
僕は急いで先程だまされた交渉してカード交換する方へと向かい、エウレカードをたくさん持っていそうな人に声をかけた。
「この釜井 静流と譜代 美穂カードで矢巾はるかカードを1枚ください!」