15 カードの交換相手
誰とカード交換の交渉をしようかと人混みの中で立ち止まり、きょろきょろとしていると、20代前半くらいの男の人が僕に話しかけてきた。
「やあ、よかったら交換しない?これ僕のラインアップ。今日の握手会メンバーは一通りそろってるよ」
その人の持っているエウレカードは20枚近くあり、全て今日の7人のメンバーのカードだった。その中に雨音カードは1枚のみ。
だいぶ場馴れしてそうな年上の人に対して、僕は緊張気味に伝えた。
「この雨音カードと交換してください」
「OK。君はどんなカードをもってるんだい」
僕は2枚の大事な雨音カードは、あらかじめ内ポケットに忍ばせていたので、残りの8枚のカード(宮内1枚、透野1枚、志波1枚、矢巾1枚、華巻1枚、釜井1枚、喜多上2枚)をその人に見せた。
「へぇ~、結構いいのそろえてるじゃん」
その人はじっくりと僕の8枚のカードを品定めしている。
「君はこの雨音カードがご希望なんだろ?だったらこっちは複数枚のカードを要求してもいいかな?」
僕は雨音と握手できさえすればいいので、その要件を飲んだ。
「それじゃあ、宮内、透野、志波、華巻の4枚」
ずいぶん欲しがるなと思ったが、雨音カードがもらえるならと僕は向こうの要求する4枚を差し出した。
その人はこれだね、と雨音カードを僕に見せ、フッと微笑むと裏返した状態で僕に渡した。そして、それじゃあと手を振って群衆の中へと消えて行った。
僕は任務を果たし、とりあえず落ち着こうと5枚のカードを手に持ったまま、群衆を潜り抜け、空いていたベンチに腰を下ろした。
そして、先ほど交換してもらったカードを見直してびっくりした。
雨音カードと思って手渡されたカードは喜多上 渚のカードだった。
(しまった。やられた・・・)
エウレカードをお金で買うことは禁止されたが、こういう詐欺を行う人間が交換所に少なからず存在していることが、ネットで取り沙汰されていた。
僕があまり慣れていないのが、傍から見て分かったのだろう。
あの男の人は、もうどこかへいなくなってしまった。近くを見回したが、既に会場から立ち去っているようだ。
確かにあの人、喜多上のカードを5枚も持っていたから1枚しかない雨音カードよりも放出したかったのだろう。まんまと向こうの術中にはまってしまった。
また騙される可能性があるので、3枚揃った喜多上カードも最終の切り札として内ポケットにしまって、僕は頭の中の混乱した状態を抑えるべく、天井を仰いだ。
(今すぐに 会いたい 会いたい)
何故か突然、この前作った「Aitai」の歌詞が頭の中で鳴り出した。
見通しが甘過ぎた。背後のブースには、既に必要枚数のカードを集めた人達が列をなして並んでいる。
喜多上カードを除けば、残りの手持ちカードは、矢巾 はるかと釜井 静流の2枚、今日いないこれらのメンバーのカードを使って雨音カードを入手するのはとてもシビアだと思った。
今日は、現時点で3枚揃って握手権のある喜多上 渚だけと握手をして、雨音との握手はまた別の握手会にしようかな。
そんなふうに考えを思い巡らせていると、僕の横に1人の男の人が座ってきた。