14 カード交換所
残り1枚、雨音のエウレカードがあと1枚あれば雨音と握手できる。
僕は、既に目的の枚数のカードを揃えて各メンバーの握手ブースに並ぼうとする人々の波をすり抜け、会場の入口付近にある休憩所へと向かった。
この休憩所は握手会会場に必ず設けられているのだが、今ではこのスペースがファン達のエウレカード交換所と化している。
ここでのカードの交換方法は、ファンの間で少しずつ作られ、大きく分けて2通り存在する。
1つ目は、カードを持っている者同士で交渉してカードを交換する方法。この方法では、自分と相手の交換するカード枚数を1対1にする必要はない。
例えば、一番人気の宮内理沙カードの場合、1枚もらうのに他のメンバーのカードを複数枚相手に渡すのが通例となっている。交換に何枚必要になるかは相手との交渉によって決まる。
シングルCDに100分の1の確率で入っているゴールドエウレカードと交換の場合は、交渉次第だが、相当な枚数の他のエウレカードが必要になるだろう。
数年前はこの交換所でエウレカードを現金で購入することもできたが、一部の小中学生が悪い大人にだまされて大金を支払わされる事件が社会問題化し、今では禁止されている。
握手会場では多くの警備員が常に見回りをしており、お金のやり取りが見つかれば渡す側も受け取る側も会場から強制的に退場させられる。
2つ目は、交換したい人達のグループで1つの輪になり、順々に時計回りで1枚ずつ交換する方法。最初の人が、自分の不要なカードを左隣りの人に渡し、受け取った人はその人の不要なカードをさらに左隣りの人に渡す・・・というのを繰り返し、最初の人は右隣りの人からカードをもらって一巡する。これをもういい頃合いになるまで続けるのである。
途中から輪の中に入ることも自分の欲しいカードが手に入って途中で輪を抜けることも可能である。この輪の中には"入ります"と手を挙げれば、輪のどこからでも入ることができ、"出ます"と手を挙げれば、輪から抜けられてカードの交換を止めることができる。
但し、輪から抜ける時は、カードを受け取って左隣りの人にカードを渡した(元々持っていたカード枚数の)状態でないといけない。
実際に僕の目の前には、交換したい人達の間でたくさんの輪ができており、各々でカードの交換が行われている。
僕は考え抜いた挙句、1つめの方法で雨音カードを手に入れることにした。
理由は、その方法の方が目的のカードを入手し易いからである。2つ目の方法だとみんなの要らないカードがずっと回り続ける傾向にあるので、人気のあるカードは手に入りにくいのである。
僕はカード交換の交渉している人達の集まりの中へと入って行った。