11 メンバーあいさつ
ステージの幕が徐々に上がり、曲のイントロが流れる。この曲はそう、エウレカの代表曲「アドレッセンス」だ。
一斉に沸き起こる拍手と歓声。僕自身も夢にまで見た光景に興奮を抑え切れない。
幕が完全に上がるとそれまで幕の奥でポーズを取り、静止していた7人のエウレカメンバーが曲に合わせて踊り始めた。
フォーメーションは、前が3列、後ろが4列。センターは1期生の志波 樹、観客席から見て前列左に1期生の都 亜衣、前列右が2期生の水沢 唯。
後列は、観客席から見て左から2期生の華巻 あおい、3期生の喜多上 渚、雨音、雫井 詩帆で構成されていた。
衣装は、今回新しく新調したようだ。ブレザーのような制服で、今まで高校で数回見かけたセーラー服姿の雨音とは、また違う印象でブレザー姿も良く似合ってるなと思った。
曲はAメロ、Bメロと続きサビで会場のボルテージは最高潮まで盛り上がった。動画では何度か観ていたけれど、エウレカのライブとはこんなにすごいものなのか。僕はメンバーと観客の間でビシビシと感じるエネルギーと熱気に圧倒されそうになった。
曲が終わると、メンバーは1列に並んだ。そして7名全員がせーの、の掛け声とともに同時にゆっくりとお辞儀をした。
「みなさん、本日は私達エウレカ1984の握手会にお越しくださり、ありがとうございます。私達もこの日を楽しみにしていました。みんなで盛り上がりましょう!」
観客席から見て一番左に立つ都 亜衣がメンバーを代表して挨拶をした。今日はこの人が司会らしい。
彼女の挨拶で割れんばかりの大きな歓声が上がった。僕も本物のエウレカメンバーを前に胸が熱くなる。心躍る(こころおどる)とはこういうことなのか。
「みんな!今日はあたし達が目当てでここまで来てくれたのね!どうもありがとう!」
と華巻 あおいが前に出て話し出せば、
「その中でも1番はもっちろん、あたしでしょ!」
と喜多上 渚も続くように前に出る。
ワーという歓声がさらに大きくなり、場が盛り上がる。
「ちょっと!ちょっと!そこのにぎやかしコンビ!ちゃんとアピールする時間は平等にするから、勝手に前に出ないの!それじゃ、皆さんに1人ずつ自己紹介を始めるわよ!任せた!樹ちゃん!」
普段はこの華巻、喜多上バラエティコンビの暴走の取り締まりをリーダーの透野 舞衣が行うのが定番なのだが、この場では都が代役を務めるようだ。
隣りに居る志波は剣を振りかざすような構えを見せた。
「たとえ、波に飲み込まれようとも志1つ、大樹のごとく!志波 樹です!」
前にも触れたが、志波 樹はエウレカの中でも屈指の歌い手である。さらに竹を割ったような性格の男前なので、女性ファンも多い。
「樹ちゃんの自己紹介・・・。何回も聞いているけど、すっごい硬派・・・。続きまして、唯ちー、お願い!」
「は~い!みんなのハート唯色にな~れ!エウレカの魔法使いこと水沢 唯で~す!みんなー!よろしくー!」
「不思議ちゃんの唯ちーらしくていいわ。それにしても樹ちゃんとのギャップあり過ぎ!メンバーの個性がバラバラで困惑している人もいるかもしれないけど頑張ってついて来て~笑。次、漫才コンビの姉の方、あおい!」
「はーな、はーな、まーき、まきっ!お花を巻いたらー、あおいだよー!華巻 あおいでーす!ちょっと!亜衣先輩、漫才コンビなんてひどいです。これからも正統派アイドルとして頑張っていくつもりなんですからー。みんな!応援よろしくね」
華巻は両手をグーにして口元に当て、かわいらしさをアピールしているが、都は相手にせずに続ける。
「次!漫才コンビの妹!」
「は~い!きたきたー!喜び多くて気分、上々!喜多上 渚どえーす!みなさーん、あたしこそが本物の正統派アイドルでーす!エウレカのポスト宮内 理沙と最近言われ始めている喜多上 渚のブースへ握手に来てねー!待ってるよ!」
観客に手を振る喜多上。都は喜多上も完全スルーで続ける。
「はい次!次期エース候補の大本命、雨音ちゃん」
いよいよ雨音の番だ。これまでいろんなメディア媒体で現在の絶対的エース宮内 理沙の後継者としてメンバーが雨音を取り上げることがあったけれど、それだけアイドルとしての期待値の高い逸材なんだと思った。国民的アイドルグループに加入してもうすぐ1年。
やっぱり雨音は凄い。凄すぎる。華巻、喜多上の自己紹介が観客の間でどっとウケていたこともあって、僕は頑張れ雨音と胸の奥底で祈った。
「止まない雨はない。止まない悲しみもない。雨が降った分だけ鮮やかな虹が空にかかる。みなさんにとっての雨上がりの虹になりたい。雨音です」
他のメンバーもかわいくて魅力的だけど、やっぱり雨音が一際輝いて見えるな・・・。それにしても何で雨音だけ芸名に苗字を付けないんだろう。今更ながらそんなことを思った。
「次、詩帆っち!」
「はーい。握手会は今回初めて参加します。今からドキドキです!詩帆っちビームでみんなをキュンキュンさせちゃうぞ!雫井 詩帆です」
「そして最後はわたくし、都 亜衣です。握手会でもライブでもミャーコと呼んで応援してくださいねー。どうぞよろしくです」
「えー!ミャーコ?亜衣先輩にはみんなにもっと周知されているニックネームがあるじゃないですか」
「せーの!あいぶ―」
観客側から再び笑いが起こった。エウレカの冠TV番組「惑星エウレカ」の数ケ月前の企画で都がゲームに負けてしまい、罰ゲームで「あいぶー」という本人があまり嬉しくないニックネームで一定期間呼ばれるというのがあった。
「こらー!華巻ぃー!喜多上ぃー!次に言ったら楽屋でマジ説教!」
「こわーい!!」
結成当初のライブDVDとかを観てもここまで話を盛り上げる機会はなかったと思ったが、年々歌やダンスに加えてトークのスキルも上達しているように感じた。アイドルとしての見せ方を彼女達自身も話し合いを重ねながら研究しているのだろう。 さらに舞台上でフリートークは続く。
「ところで詩帆っちは今日が最初の握手会よね。先輩達に何か質問したいことある?」
都は舞台の一番左端から一番右端にいる緊張気味の雫井に声をかけた。