100 ライブの2曲目、3曲目
雨音を目の前に(彼女と目を合わせるなどとてもできないが)1曲目をなんとか歌い切った。
観客から盛大な拍手が体育館中に鳴り響く。
なんだかとても気持ちがいい。
こんな大勢の前で演奏をやり遂げたことへの達成感がきっとそう感じさせるのだろう。
大袈裟かもしれないけれど、毎年多くのミュージシャンがライブを続ける理由を体感できたような気がした。
練習通り、歌詞も演奏も3人でノーミスでできた。残りの曲もこの勢いでいくぞ。
「1曲目を聴いてもらいました。この曲を作ったいきさつですが、某小説投稿サイトに掲載……」
と、くどくどアドレナリンが出まくっている状態でしゃべり続けた。
みんなの前で、特に雨音の前で、何をしゃべったかまったく憶えていない。
「おいっ、塔! 演奏時間が無くなるべ!」
藍菜に遮られ、はっとした僕は、2曲目のStrong in the rainの曲紹介に入った。
この曲については素直に国語の授業で習った雨にも負けずの詩からインスパイアされて(着想を得て)作った曲だと話した。
制作当時を思い返すと、この詩にプラス野外ステージで大雨に打たれながらセンターで歌っていた雨音の姿、あのイメージが必要不可欠な要素だったように思う。
でも、本人を目の前にもちろんそのことは伏せた。
代わりに僕はこう伝えて締めくくった。
「曲中の雨は、試練や困難という意味で使われています」
一呼吸おいてこう続けた。
「みなさんも勉強や部活、親や友人関係とか、日々の暮らしの中でいろんな大きな試練や困難に直面する場面があると思います」
あと少し……大事なところだから噛まずに言い切りたい。
「そんな人達に、みんなに送る曲です。聴いてください。Strong in the rain ―」
決まったと心の中でガッツポーズをした。
藍菜がひゅーいと口笛を吹くと、客席から歓声と拍手が鳴り響いた。
石森がそれをあおるようにドカドカドカとドラムを鳴らし、2曲目は始まった。
絶え間なく降る雨……
緊張もあったせいか歌詞もコードも間違えてしまうところがいくつかあった。
けれど、演奏を途中で止めることはしなかった。
この勢いを止めたくはなかった。
I wanna be strong in the rain
悲しみは強さに変わって……
特にサビは、マイクに向かって大きな声ではっきりと歌った。
今この瞬間、聴いてくれているみんなに、雨音に届くように。
12月だというのに興奮で顔から汗が滴り落ちてくる。
無我夢中になりながらも、なんとか2曲目も乗り切った。
3曲目のNo Title。
この曲についてはタイトルをつけた経緯について、事実をそのまま話せばうけるんじゃないかと思った。
そこで石森と顔を見合わせつつ、彼からもらったドラム音のみの録音データを起点に曲作りを行ったこと、そのファイル名がNo Titleだったのでそのまま曲のタイトルにしたことを自信ありげに話した。
僕がさも面白い話をこれからしますという感じを出したのが原因だったかもしれない。
一部の人がハハッと失笑するに止まり、おもいっきりすべってしまった。
沈黙の中、ちょっとだけ勇気をふりしぼって雨音の方を見たが、彼女もノーリアクション、というか彼女含めて観客全体がどう反応していいか分からないといった微妙な顔をしている。
やっちまった。
ウケを狙い過ぎるとこんなふうに期待通りにならないものだと学んだ。
しかもこういう時に限って、頼みの藍菜も助け船を出してくれない(僕が起こしたこの状況を面白がっているのか)。とにかく、
「曲、行きます」
そう言うのが精一杯だった。
まだ 思いは
届かないかも
しれないけれど
伝え続けたい
この曲のサビの歌詞だってもちろん雨音のことを思って作ったものだ。
この歌声が
あなたの心に響く日が
来ること 信じて
歌い続けたい
この瞬間、僕の歌声を雨音が目の前で聴いてくれている。
まさに奇跡が起きているとしか言いようがない。
彼女はいったい、今何を感じているのだろうか。
それを知る由はない。
だけど、
今日じゃなくてもいつの日か、彼女の心を震わすような、そんな曲を作り届けてみせる。
3曲目はそんな感情に任せて演奏した。
曲終わりに言い訳がましく、歌詞は小学校低学年の頃に大好きだった転校した子を思って作りましたと述べた。
正直に雨音を思って作りましたと言うのに比べたら、まだ恥ずかしくはない。
そして、僕等MEtoHANAはついに4曲目を迎えた。
ステージ脇から残り2分のカンペが出た。
今までの曲とMCで時間を引っ張ったせいか。
石森と藍菜、それぞれと顔を見合わせ互いにうなずいた。
3人の気持ちは一緒だ。
このままMCをすっ飛ばして一気に演奏だ。
「最後の曲です。聴いてください。Still love you」