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Close to You  作者: Tohma
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99 開演

 僕と藍菜はそれぞれのアコギ、ベースをアンプにつなぎ、石森はドラムセットの前に座った。


ギターがいつもの弾きやすい位置にきていることを確認した僕は観客席を向いた。


40,50人はいる。結構な数だ。


そこにはメンバーのクラスメイト達も何人か来ているみたいで、"藍菜ちゃ~ん"、とか"石森ぃ~"など呼ばれている中でいくつか"相馬く~ん"や"相馬~"もちらほら聞こえてきた。


そして、少し掛け声が収まったタイミングで奥の方から"そうまとー"と笑わすためにわざとフルネームで呼んでくれた者達もいた。


彼等のおかげで場内に一瞬どっと笑いが起こった。


まあそれで会場は(なご)んだし、最前列の雨音もきっと笑ってくれているのだろう。


とても彼女の方を見れる状態ではないので、その代わりに左隣りにいる藍菜の顔を見ると大笑いしていた。



 そして僕等はうなずき、双方の楽器で音を(かな)でた。


ド―……ドミレドソラシド―


観客席からわっという歓声と拍手が響く。


続いて後方の石森がドスドスガシャーンとドラムを鳴らすとその歓声がさらに沸いた。



 音響はOKだ。いける。


あとはいつもの練習通りにやればいい。


僕は眼前のスタンドマイクの電源がオンになっているのを確認した。


(えー……どうも、スリーピースバンドのMEtoHANAです。変なバンド名でしょ? どうしてこんな名前にしたかというと……)

 

予行練習通り。まずは一呼吸(ひとこきゅう)置いて、実際にしゃべろうとしたその時―



「みんな! 盛り上がっていこうぜ! うちらMEtoHANAっていうんだ。よろしくぅ!」


横の藍菜に先を越されてしまった。ワァという歓声がそれに応じる。


先ほどの女子ダンス部の演目の時は終始座って見ていた観客のほとんどがいつのまにか総立ちになっている。


「まずはメンバー紹介からいくぜ! ドラムス、石森 始!」


石森がドンドンストトンジャーンと勢いよくドラムを叩き、両手のドラムスティックを天に掲げる。あおられて一層盛り上がる観客達。


「ボーカル&ギター! 相馬 塔!」


次はてっきり藍菜にいくかと思って油断していた僕は、慌てふためきながらもC→G→Am→Em→Fとド定番カノン進行の一部を弾いた。観客もそれなりに反応してくれた。


この時、とても目の焦点を合わせることなどできなかったが、雨音も見てくれているのが認識できた。


こちらに顔を向けているようなので、雨音は僕を見てくれているのだろう。


そして、あの5月の握手会に来ていたトーマと名乗った高校生だと気づいただろうか。


あの時は口から出まかせで東京から来ましたなんて言ってしまったけれど……次回の握手会で会う時は気まずい雰囲気にならなければいいなと心底思った。



「そしてあたいは、ベース担当の不来方 藍菜! イェーィ!」


そう言うと彼女は、覚えたてのスラップを1フレーズ弾いてみせた。


案の定、観客席はうおぉーと大盛り上がり。3人の演奏の中で一番の盛り上がり。藍菜はこれを狙っていたようだ。


客席が一旦落ち着くと、


「それでは聴いてください、Aitai」


藍菜のMCのまま、1曲目に入った。


特に曲紹介をせずに演奏に入ったことで内心ほっとした部分もあった。


僕がMCなら、演奏前に曲の紹介をするつもりでいたからだ。


 このAitaiという曲は、制作当時を振り返れば分かることだが、雨音に逢いたいという気持ちをダイレクトに歌詞にしたものだった。


これだけ大勢の前で、しかも雨音本人が目の前にいる状況で流石にそれを正直にみんなに説明するつもりなど毛頭(もうとう)ない。


カムフラージュのために某小説投稿サイトに掲載されていた作品に感銘を受けてその世界観を曲にしてみました、とか何とか言ってごまかそうと思っていた矢先だった。


イントロが終わり、Aメロ歌詞に入る。



君に会えない日の外はいつも雨……



やばい、自ら口に出して歌ってみて気付いた。こんな歌詞、雨音のために作ったものだとばれるじゃないか。


曲が終わったら、さっきの某小説投稿サイトうんぬんをくどくど説明して、みんなのこの曲に対するイメージの印象操作をしなくては。

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