理想像
「俺は幼い頃に冒険者だった父がいたんです。すごいかっこよくていつも父と冒険話をしていました」
過去の辛い話をするのはこれで二度目だ。ゼニスとヒナに小5のとき話してからずっと封印してきた。昔のことを思い出すと今でも気分が悪くなるし強烈な嗚咽におそわれる。
「ですが俺が小学校に入る前に…父は……殺されました」
角田先生は静かに俺の話を聞いてくれた。
父がどんな人間だったのか。
俺がどんな思いをして生きてきたか。
自分語りが激しくなっても角田先生は嫌な顔し一つせず聞いてくれた。
話が一段落ついた頃だった。
「最後に父は…冒険者になりたがっていた俺にこう言ってくれました」
「アルマ、お前は俺と違う。このことがきっかけで冒険者を諦めないでくれよ。俺はお前のこれからを別の世界から見守っているからよ」
俺はこの話をしているとき涙が止まらなかった。
ヒナも俺の話を聞いて泣いていた。
角田先生は俺が泣き終わった頃口を開いた。
「なるほど…だがアルマ、お前約束以外にもあるんだろう?」
そうだ。冒険者にはなってみたかった。だが冒険者になろうと思った理由はもう一つある。
「父を…父を殺したやつは絶対にこの手で殺します」
幼かった俺には父を殺した者。それが何者だったのかは今でもわからない。
ただ1つだけわかっていることは人間ではなかったことだ。
「お前の気持ち、よくわかった。ゼニス、お前はどうなんだ?」
角田先生はそれ以上俺のことは詮索しないでくれた。
本当に感謝するべきだ。
「この雰囲気ぶち壊しなんですけど俺が冒険者になりたい理由は…」
ゼニスは言いにくそうに言った。
「ダチと一緒にいたいから」
ゼニスはそう言った。
「俺には深い理由なんてないんだぜ?カクちゃん俺はただ……ここでダチと離れるのはなんか違うと思うんだ」
ゼニスは笑顔でそう言っていた。
まるで暇つぶしに行くかのようなノリで言った言葉は場の空気を変えた。
「ハッハッハ!そうか。お前らしい理由だ!ヒナはどんな理由だ?」
カクちゃんの顔がすでにゆるくなっていたのは俺ら3人共きずいていなかった。
「私もアルマ君とゼニス君と離れたくありません!いつも一緒にいたいんです!」
二人とも頬を赤らめながら言った。
『俺たちは先生が止めても冒険者になるぜ!』
恥ずかしさを隠すために俺らは声を出していた。
先生が笑いながら
「お前ら3人の気持ちはよくわかった」
カクちゃんは考える素振りもせず言った。
「よし!お前らは立派な冒険者になれよ!」
カクちゃんは笑顔でそう言った。
「い…いいんですか?」
俺は疑問に思っていた。
「カクちゃん俺らの止めるためにここ来てたんじゃないの?」
ゼニスもそう言った。
冒険者になりたいなんて人は普通なら止めるはずだ。
俺たちもその覚悟をしていた。
「お前らがなりたいって言ったのにいいんですかってなんだよ!アルマ!お前の夢を俺が奪うようなことするわけねぇだろ!俺のことは気にしないで言ってこい!」
ここなんだ。俺がこの人を尊敬する理由は。
自分たちの価値観なんて関係なくいつも俺らのことを考えてくれている。
「俺が聞きたかったのはお前らが本気かどうかだけなんだ。本気じゃなかったら流石に止めてたがな!」
カクちゃんは本心でそう思っていた。
「さて…話は終わったしお前ら帰っていいぞ。この時期までいるってことは、春の冒険者試験を受けるつもりだろう?早く準備してこいよ!」
角田先生はそう言うと俺たちを送って学校に戻った。
「絶対に止められると思ったんだけどな」
ゼニスが帰り道そんなことを口に出した。
「ほんとにね!カクちゃんやっぱり優しいな〜」
ヒナはそう言うとごきげんに歩いていた。
「じゃあお前ら明日村の門に集合な!各自準備はしておけよ!」
「わかった!」「アルマ、ゼニス、じゃあねー!」
3人は別々の帰路に向かうと明日の事を考えていた。