前世の幼馴染が好きすぎるので、この婚約は破棄でお願いします。
「じゃあまた明日」
「ああ、また明日」
幼馴染と最後に交わした、その言葉だけが、あの日の風のように耳の奥をそっとくすぐりながら掠めていく。
でも、その音も遠く消えてしまった。だって、私が立っているこの場所は、その場所からあまりに遠いから。
鏡の前に映る文句の一つも出ないような美少女は、ライラックのような優しい紫の髪と、青みを帯びた忘れな草の花の色をした瞳をしている。
これは、もう人生勝ち組に違いない。
でも、幼馴染がもし生まれ変わっていても、あまりの違いに気がついてもらえそうにない。
「名前も思い出せないのにっ。なんで」
ポロリポロリと、朝露に濡れた花から雫がこぼれるみたいに涙があふれだす。
鏡の中の、その美しさは、悲しいことも一瞬だけ忘れて見惚れてしまうほどだ。
八歳の誕生日。私、公爵家令嬢ローザリアは、前世の記憶とともに、誰よりも大好きな幼馴染への恋心を思い出した。
けれど、その後ろ姿と恋い慕う気持ち以外、名前すら思い出すことが叶わない。
そのもどかしさに、涙は止めどなくこぼれ落ちる。
けれど、泣き続けている暇はない。
だって、私は破滅への第一幕を迎えてしまったのだから。
「そして、よりによって、今日が婚約打診後、初の顔合わせだなんて……」
目を閉じれば、まだ、誰よりも大好きな幼馴染の後ろ姿が浮かぶのに。断罪されると分かっていて、婚約をしなくてはいけないなんて。
悶々とした気持ちのまま、それでも涙を隠す。公爵家令嬢は、人前で泣いたりしない。入ってきた侍女たちに着替えさせられて、私の姿は、公爵家令嬢らしい装いへと変わっていく。
「うっ……公爵家らしい装い?」
着せられた服は、これでもかというほどの、ピンクとフリフリとリボン。
薔薇の模様の生地が部分的にあしらわれているが、こちらも派手だ。艶のあるピンクにショッキングピンクを重ねてはいけないと思う。
(この世界の常識? ……断じて違う)
化粧は濃いし、小さい頃からこんなに派手派手しかったら、そりゃ婚約破棄されても文句言えないのでは、私は冷静に分析した。
「……やり直して。私の髪の毛の色からして、ピンクは似合うけれど、もっと淡くて装飾が少ないものがいいわ。アクセサリーは、控えめなパールのブローチだけで」
「えっ! それでは、奥様の薦めておられたこちらのドレスはいかがでしょう」
侍女がどこかホッとした様子で持ってきたのは、ごく上品な、普通のドレス。広がった裾と、柔らかい生地を重ねたチューリップのようなフォルムが愛らしい。
(お母様のセンスが、良くて助かったわ)
子どもだから、何を着ても可愛らしいかもしれないけれど、常識的なドレスが今はありがたい。
先ほどの派手なドレスは、そういえば記憶を取り戻す前、こちらが良いと駄々をこねたのだったわ。
化粧も大人と同じようにしてほしいと、大騒ぎしてしまったわ。
「お化粧も薄いピンク色の口紅だけ、ごく控えめに引いて」
そのあと、危うく、トレードマークのぐるぐるドリルヘアにされそうになるのも必死で止めて、ストレートヘアのままハーフアップにしてもらう。
ここに、生まれ変わった公爵家令嬢ローザリアが、誕生した。
◇
「それにしても、兄上。今回は、どんな奇抜な格好で来るか楽しみですね」
「他人事だと思って……。サイラスだって、明日は我が身だぞ? それに彼女は、王妃になる。お前が王になれば、ローザリアの伴侶はお前だ」
「俺は王位争いを降りるっ」
「……そういうところだぞ?」
王宮では、金の髪と青い瞳の第一王子レイト殿下が、銀の髪に翠の瞳の第二王子サイラス殿下の言葉に、露骨に眉を寄せていた。
二人は年子で仲が良い兄弟だ。
あと少しすれば、本格的な教育が始まり、こんな会話は許されない間柄になるのだとしても。
その時、一人の姫が、春風を纏って会場へと入ってきた。レイト殿下とサイラス殿下は、空気が変わったと錯覚し、目を瞬かせた。
「えっ、妖精」
ほんのりと顔を赤らめるサイラス殿下。
それと対照的に、顔色を青白くしたレイト殿下は「ローザリア」と、正確にその名前を口にする。
「……第一王子殿下、第二王子殿下、この度はお招きいただきありがとうございます」
私は、まだ完璧とはいえないまでも、必死で練習した淑女の礼をする。
会場中が、その無垢な可憐さに目を奪われた。
「ローザリア」
あまりのことに驚いたのか、レイト殿下の唇が若干震えているのが見える。
「第一王子殿下……。今までのご無礼をお許し下さい。私は、公爵家の娘と言っても、王妃には相応しくありません。僭越ながら、この度の打診は無かったことにして頂くのが宜しいかと」
囁くような言葉だった。私は気が付いていなかったが、会場に入った瞬間から、視線は私の姿に集中していた。
だから、二人からの予想外の言葉は、私の退路を完全に塞いでしまう。
「ローザリア! 俺は、あなたがいい」
「ローザリアが王妃になるなら、俺も王になる」
「うん?」
今、確かにお断りしましたよね? そんな言葉が、思わず飛び出しそうになって、慌てて口をつぐむ。
それに、俺もって……。王は普通一人だ。
(あれ? サイラス殿下は、王位継承に消極的という設定では?)
その意味を考える間も無く、私は右手をレイト殿下、左手をサイラス殿下に引かれて、表に連れ出される。そこは、薔薇が満開の庭園だった。
遠足で幼馴染と手を繋いで走った、植物園の思い出が蘇る。
(この色が似合うって、幼馴染が植物園の薔薇を手折ってしまったから、二人で怒られたわ)
蘇った思い出と重ねるかのように、サイラス殿下が、淡い紫がかった薔薇を一輪手折って差し出す。
「棘があるまま渡すなよ。怪我をしたらどうする」
そう言って、レイト殿下が薔薇の棘を取り除いてくれる。
(そういえば、幼馴染に渡された薔薇のせいで、指先を怪我した)
満面の笑みで笑うサイラス殿下と、優しい微笑みのレイト殿下。
薔薇を手折ったことを咎めるものは、ここにはいない。ただ、三人の様子を、公爵夫妻も両陛下も微笑ましく眺めるだけ。
三人は、子どもらしくあっという間に仲良くなった。私だって、たとえ前世の記憶があったとしても、まだまだ子どもなのだから。
◇
夢のような時間は、あっという間に過ぎる。
ふらふらと屋敷に帰ってきて、そのままベッドに倒れ込んだ。いくらはしゃぎ過ぎたからと言って、ドレスのままなんて、お行儀が悪い。公爵家令嬢失格だ。
こんなの家庭教師に見られたら、極限まで叱られるに違いない。
「こんなに失格なのに、婚約破棄、出来なかった」
意外にも、楽しく過ごしてしまった。
そこで、私は体を起こし机に座る。
記憶が戻ってから、大きくなる一方の違和感の正体を探して、小説の内容を思い出していく。
物語の中心は、聖女と王太子の恋物語だ。
悪役令嬢ローザリアは、その恋のスパイスとして登場する男主人公の婚約者だ。聖女をいじめて、それなりの報いを受ける。
男主人公の名前はサイラス。王太子サイラスだ。
「……私の婚約者は、第一王子のレイト殿下よね?」
鍵付きの日記に、思い出せる限りの情報を書き出していく。
そして今後の方針も。
ーーサイラスの兄である第一王子レイトは、凶刃を受けて他界した。ローザリアの目の前で。その日から、運命の歯車は、廻り始めた。
小説の中で、あまりにも簡単に描かれていた過去の悲劇。王太子の婚約者として育てられてきたローザリアは、その事件の後、サイラスの婚約者になる。
(たぶん、その事件の後、新たに婚約者になった二人は、歩み寄ることができなかった? ……それより)
「っ……レイト殿下が、殺される?」
事件が起こるのは、少なくともプロローグ以前。
物語が始まる時、サイラス殿下は十五歳だ。そして、年子の兄レイト殿下はその時すでにいない。
サイラス殿下が手折った薔薇の棘を、怪我をしないようにと取り除いてくれたレイト殿下。
なぜかその瞬間、トラックのライトに照らされた私に、手を差し伸べる影が、脳裏に浮かんだ気がした。
私は、ブンブンと首を振ると、『出会って初日に婚約解消をする』の一文を黒く塗りつぶした。
少なくとも、物語通りの展開なら、レイト殿下が凶刃に倒れるのは、悪役令嬢ローザリアと一緒にいる時になる。
もし、ここで婚約解消をすれば、レイト殿下を助けられるかもしれないチャンスに、そばに居られないかもしれないのだ。
『レイト殿下を助けた後に、婚約を解消してもらう』
『聖女に意地悪せずに、修道院エンドを迎える』
幼馴染の思い出は、何よりも大きくて、その声だけしか思い出せなくても、他の人に嫁ぐなんて考えられない。
(それなら、修道院エンドで、良いのでは?)
『レイト殿下を助け出すまでは、悪役令嬢のままでいる』
盛大なため息とともに、書き足した一文。
日記に鍵をかけると、私は部屋の灯を消した。
◇
次の日から、私は人が変わったかのように、勉強や礼儀作法に打ち込んだ。
そして、空いた時間は剣に捧げようとして、流石にそれは父と母に全力で止められ、魔法を習うことにした。
「強くなって、レイト殿下を絶対に凶刃から守ってみせる!」
しかし、残念なことに、私には攻撃魔法の才能がないことが早々に判明する。
「悪役令嬢チートはどこに」
元々のローザリアは、我儘で傲慢で、全てが自分の思い通りにならないと気が済まない設定だった。
傲慢な、冬に咲くたった一輪の薔薇。それがローザリアだった。
才能がないのは、諦める理由にはならない。
それでも、毎日努力を続ける私を見つめるレイト殿下とサイラス殿下の二人も、負けていられないとばかりに努力を続ける。
物語は、変わりつつあった。
それでも、悲劇は、違った形で訪れる。
◇
王宮の薔薇園は、私が大好きな場所の一つだ。美しい薔薇は、見ているだけで心が躍る。
何よりも、前世の幼馴染との思い出…… 『棘があるまま渡すなよ。怪我をしたらどうする』……あれ? なぜか、幼馴染のことを思い出すと、心が温かく幸せになるのに、レイト殿下の言葉が被さってきた。
「ローザリア!」
今日は、サイラス殿下はいなかった。
レイト殿下が、薔薇園の見事なアーチの横に設けられたテーブルから立ち上がり、手を差し伸べた。
その手にそっと手を重ねる。
いつのまにか、子どもだったレイト殿下も、十五歳になろうとしていた。
(あと一年で、物語が始まる)
レイト殿下にアミュレットを差し出す。
結局のところ、どれだけ努力しても、私は、攻撃魔法を習得できなかった。
代わりに、アミュレットに魔法を込めることは、得意だ。
プロローグ以前に、暗殺に倒れるレイト殿下。
もうすぐ迎えるレイト殿下の十五歳の誕生日。いつか来るその日のために、ずっと魔力を込め続けてきたのだ。
「……俺に?」
「いつも、プレゼント頂いてばかりだから。あのっ、肌身離さず」
レイト殿下が、笑った。
その顔が、棘を取り除いた薔薇を差し出してきた、いつかの記憶と重なる。
「ありがとう、絶対に離さない」
「っ……ふぁ?!」
(違う意味に、聞こえてしまったわ!)
今日用意されていた、香り高いローズティー。香りを楽しんだあと、気持ちを落ち着けようと口にしようとした瞬間、バチンッと星が飛ぶほど思いっきり頬を叩かれた。
飲もうとしていたカップが、その拍子に手から離れ、地面に転がりガシャンと割れる。
「っ……レイト殿下?」
「ごめん、ごめんローザリア。でも、飲まないで」
口を押えたまま、レイト殿下がうずくまった。
(毒……?)
夢中で、レイト殿下の体を支える。
「レイト殿下っ、私のことなんか気にしてる暇があったら、吐き出して下さいっ!」
「ぐっ……。飲んでない?」
「飲んでませんからっ、早く」
「毒には、幼い頃から耐性をつけてる。これくらい、問題ないから。……良かった、ローザリア」
心のどこかで、いつか来る十五歳のその日までは、安全だと思ってた。でも、そんなはずなかった。
必死で、レイト殿下の口に指を押し込む。
「ドレスが汚れてしまったね……。ごめん」
ハンカチを取り出しながら、思いっきり首を振る。気にするところが違う。ドレスなんて、替えがある。
それよりも……。
「こういうこと、初めてじゃないですよね?」
「ローザリア?」
そっと、その唇を拭う。
その手を遮るように、レイト殿下の手が触れる。
「これ以上、汚したくない。ごめん、俺といたら、王位争いに巻き込まれるって分かっていたのに……。ローザリア、婚約を解消しよう。君は、王太子妃になる人間だ。だから、サイラスと」
私の指に触れてきた、冷たい指先に軽く首を振って口付ける。
塗り替えられていく、前世の幼馴染との思い出が、レイト殿下との日々に。
(ごめんなさい。大好きだった……。でも、分かってしまった。今、私が好きなのは)
「好きです……。たとえ、婚約者として優しくしてくださってるとしても、あなたのこと。だから、そんなこと言わないで」
「ローザリア、なぜだろう、婚約が打診された後、初めて会ったあの日。急に変わってしまった君を、どうしようもなく愛しく思ったのは」
「――――え? レイト殿下」
「それまで、誰かを好きになったりしないと思っていたんだ。俺の記憶の中に、あの人がいる限り」
レイト殿下が思っているあの人が、私の記憶と関係あるなんて、あまりにも都合がいい想像だろうか。
それなのに……記憶の中の幼馴染が、完全にレイト殿下と重なってしまう。
「俺は、王位を辞退する。側妃の息子である俺が、王位に近い位置にいるなんて、王国の火種になるって分かっていたのに」
「――――どうして、今まで」
(暗殺されるかもしれない、その場所に立っていたの)
「ローザリアの、婚約者でいられる資格を手放したくなかった」
「……そんな、私はそんな価値のある人間じゃ……ないです」
たしかに、生まれは公爵家かもしれないけれど、レイト殿下が王位に就くために、私の家門の力が必要だったのかもしれないけれど……。
「好きだ……。ただのレイトを好きだと言ってくれるのなら、俺のそばにいて」
「はい……」
◇
幸せすぎる毎日。もしかしたら、このまま何も起こらないのではないかと、一瞬見た夢は、ある夜、無残に崩れ去った。
緊急時だけ訪れる王家からの使者……。その姿が、公爵家当主である父の部屋に入っていくのを見てしまったから。
嫌な予感しかしない。だって、この場所に、そんな使者が来るなんて、理由が一つしか思いつかない。
(どうして、私がそばにいる時に、襲われるのではなかったの? 私のせいで、運命が変わってしまったの?!)
「レイト殿下!」
私は、部屋着のままで愛馬にまたがった。
この日のために、乗馬の練習もしたし、王宮の抜け道も調べつくしている。
それでも、厳戒態勢になっている王宮で、レイト殿下の部屋までたどり着けるはずもなく、騎士たちに捕まってしまった。
「やだ! レイト殿下に会わせて!」
泣きながら叫ぶ私のことを、乱暴にすることもできず、かといって自由にすることもできず、困った表情をする騎士たち。
そこに、サイラス殿下が現れる。
「放してくれるか? 俺が呼んだんだ」
「サイラス殿下……」
「行こう」
握られた手が、震えていた。
そこから察した、重大さに、私の体は氷のように冷たくなっていく。
「兄上の、暗殺未遂。ローザリアに嫌疑がかかってる」
「あ……。そう、なの」
こんなところにも、悪役令嬢補正が掛かっているのだろうか。確かに、私の家は、正妃側の立場。
王位を降りると宣言したレイト殿下を亡き者にして、サイラス殿下の正妃に据え置こうとしていると、考えられても仕方がないのかもしれない。
「っ……そんな顔するな! 俺たちが、ローザリアのことを疑うわけないだろ?! もし、事実だとしたら、喜んで刺されてやる!」
「サイラス殿下……?」
「兄上も、意識を失うまで、ローザリアのことだけを心配していた」
そう言って、サイラス殿下は、扉を開け放った。
「全員下がるように」
「王太子殿下、しかしっ」
「――――王太子命令だ」
いつからサイラス殿下は、王族としての風格を身に付けたのだろうか。
ヒロインと出会って、自覚して、王として成長していくストーリーだったはずなのだけれど。
「あとで、迎えに来るから」
「サイラス殿下……。ありがとうございます」
私は、飛び込むようにレイト殿下の私室に入る。
ドアが閉まる音がして、目の前に眠るレイト殿下の青白い顔が、目に飛び込んできた。
「レイト殿下……」
返事はない、意識がないのだ。
レイト殿下を取り囲んでいる魔力は、私がアミュレットに込めたもので間違いない。
たぶん、レイト殿下が今も命を繋いでいるのは、アミュレットの守護のおかげだろう。
「間に合って、良かった……」
レイト殿下が、強く握りしめているものが、渡したアミュレットであることを、半ば確信しながら、その掌を開く。
そのまま、アミュレットに魔力を注いでいく。全て注いでも足りないのなら、私の生命力まで、全部あげるから。
「お願い、目を開けて。好きなの、レイト」
「……ローザリア?」
レイト殿下が、目を開いて、こちらを見たのと、ホッとした私が、崩れ落ちるように床に倒れ込むのは、ほとんど同時だった。
その後の記憶は、全くない。
◇
気がつけば、私は、薔薇の香りがあふれる見知らぬ部屋に寝かされていた。
「レイト殿下っ!!」
体が思うように動かない。
焦るばかりで、それでもなんとかベッドから出ようとする。
思った以上に動けなくて、危うくベッドから落ちそうになった時、飛び込んできた人影に支えられた。
「レイト殿下?」
「…………っ、ローザリア」
「ふぇっ? 泣いているんですか?」
縋るように抱きしめて来た、その背中をそっとさする。
「良かった。もう、目が覚めないかと」
そこまできて、ようやく徐々に思い出す。
「レイト殿下が、生きてる」
「っ……人の心配をしている場合じゃないだろう。あんな無茶な魔法の使い方して、倒れてからもう一週間だ!」
その頬を両手で挟んで、瞳を覗き込む。
青い瞳の中に、泣きじゃくる私が映り込んだ。
「良かった。レイト殿下が、生きてる」
「だからっ…………」
そのまま見つめ合った二人は、長い長いキスをする。
「もう、俺を置いて行かないで」
「えっ、もうって……」
「明日会おうって、約束した。声しか思い出せないのに、もう彼女は、ローザリアだったとしか思えない」
「……っ、そうだね。また明日って、言ったよね?」
二人は、泣きじゃくりながら、抱き合う。
慌てた様子で飛び込んできた、サイラス殿下が、「うわぁ、失恋直後なのに、見せつけるなよ」と呟いた直後、号泣しながら私達に抱きついてくるまで、あと少し。
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