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片目が無いって不自由なのか?

 身の上話の続きである。


 さて、そんなこんなで片目を失った私だが、所詮は物心つく前の出来事である。両目で物を見た経験がない幼少期の私にとって、片目の不便というのはいまいちピンとこないものがあった。

 せいぜい不便と言えば、毎日義眼を取り外して洗浄しなければならなかったり、毎日目薬を差さねばならなかったり、半年にいっぺんは金沢の病院に行かなければならなかったり、たまに検査入院があったり、視力測定の際にいちいち「右目ないでーす」と申告しなければならなかったりする程度だろう。

 その程度の、軽いものだった。若いっていいね……。


 小学校に上がりたての頃にはどこぞからうわさを聞き付けたのか、上級生たちが集まってきて目を外してくれとせがんできたことがある。私が義眼を外して見せると、上級生たちは楽しそうに逃げ惑った。私も外した目玉を掲げて彼らを追い回した。そのとき私はというと、正直悪い気はしなかった。私にとって右目が無いのは当たり前のことで、そんなことで興味を持った上級生がキャーキャー言って喜ぶというのは、人気者になったようで非常に楽しかったのだ。

 なお一発で教師に注意を受けた。

 教師としては私の身体的特徴を慮ってのことだったのだろうが、私としては非常に不満をもったのを覚えている。しかし私はいい子だったので、それ以降他人に義眼を外して見せることは(滅多に)しなくなった。


 右目が無くて不便したことの一つに、容姿がある。当時の私は、ぶっちゃけ不細工だった。いやまあ、その後ずっと不細工なんだけども、とにかく顔が良いとは到底言えない顔をしていた。

 もともと顔の作りが良くないんじゃねーの、と言われると、それは違う。違うと思いてーなー! いや実際ちがくて、これに絡むのが右目の欠如である。

 目というのは、人間にとってかなり重要な感覚器だ。当然、様々な防衛機構がある。例えば瞬きと涙の分泌だ。

 しかし人間というのは面白いもので、眼球存在しないなら瞬きも涙もいらんよね? と、勝手にその行為を不随意運動から外してしまうのだ。

 そうなってしまうと自発的に動かさない限り顔面右側の筋肉は活動せず、次第に筋肉は衰え、結果、顔の形が変形してしまうのだ。ついでに涙も出なくなるので目やにでガビガビになる。

 なのでまあ、生まれてこのかた女の子にモテたためしがないわけで、実はこれが右目の無い一番の弊害ではなかろうかと私は睨んでいる。



 冗談である。



 真面目な話、もっとも大きな弊害は、やはり空間把握能力の欠如だろうか。

 日常をのんべんだらりと生きる分には、あまり気にならないのだが、いざ精密な操作を行うと、その空間把握能力の欠如に気づくことができる。

 一般的な人間は両目で見た映像を脳で処理して立体感を計算しているが、片目だとそれが上手くいかないらしい。

 一番わかりやすいところだと、私は視差式立体視というのを認識できない。視差0だからね。そりゃね。おかげで立体視というものに酷く嫌悪感を抱いていた時期があって、ニンテンドー3DSも立体視憎しで手を出さなかったほどである。お金もなかったしね。結局、立体視憎しを貫くのもバカバカしくなって、スパロボUXと一緒に3DSLLを購入した。笑い話である。


 笑い話と言えばもう一つあって、私が中学校の時の出来事である。

 理科の実験で、たしか水の電気分解だったと思うのだが、酸素を生成した照明として、試験管内に線香を挿入して火が強くなるのを確かめるという実験があった。

 私は生成した炭素が溜まっている試験管を左手で持ち、効き手である右手で線香の挿入を試みたのだが……直後、私の左手に鋭い痛みが走った。


「あっづぁ!?」


 確かマジでこんな感じの素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。私はしっかり試験管の口を狙ったのに、線香は私の左手に着弾していたのだ。この時、私は初めて己の空間把握能力の欠如を思い知ったのである。一緒に判を組んでいた川島君はゲラゲラと笑い、教師にはめちゃめちゃ怒られた。過ぎ去りし青春の一幕だ。


 そしてこの空間把握能力と言うヤツは、加齢とともに劣化の一途をたどるらしい。30を越えて顕著になったのが、受けとり損ねが増えたことだ。棒状ないし紐状のものを手渡されたとき、一度手が宙を切るようになった。30でこれだから、今後どうなるのか。あまりいい未来は見えない。目が悪いので。


 思うに、私は「立体」というものがどういうものなのか、きっと正しく把握できていないのだろう。両目のある普通の人間は、いったいどういう風に世界を立体的に見ているのだろうか。興味は尽きない。

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