冒険者達はダンジョンを進むようです
冒険者たちは一階層でうろうろしていた。
剣を持っている特攻型の剣士の男、後方支援か魔法攻撃で活躍しそうないかにもガリ勉風の魔術師の男、短剣二つを両腰に入れている盗賊風の男の3人だ。
端から端まで歩いて行っては壁を触ったり叩いたりして確かめている。
魔物がいない分罠があるかどうかを詳しく調べているのだろうか。
そんな事をしているうちに二階層へ続いている階段を見つけて降りていく。
「なあ、この冒険者たちの声とか音を聞き取れたりできないのか?」
「当然そういうことは朝飯前だ。」
冒険者を映し出している画面の右下にある音量の操作スイッチを押して音量を冒険者の声が聞こえるまで上げる。
『なあ、本当に何もねえのかよ。いくらなんでも何もないなんて怪しすぎるぞ。』
『調べてみましたが罠やモンスターの気配はありませんし、壁や地面の材質も一般的な洞窟系統のダンジョンと変わらないようです。兆候通り出現してそんなにたってないようですね。』
『ならさっさと下の階層に行こうぜ。モンスターの種類やいろんなサンプルも採取しなきゃいけないしやることは山積みだ。』
『今回の任務はダンジョンの調査なので無闇に魔物を狩ったりしないでくださいよ。』
『そんなことするのは聖王国の連中くらいだろ。心配しなくても攻撃するのは正当防衛くらいだよ。』
『その正当防衛が心配なんですよ。』
『そんな口論より先に進まないか?』
『すいません、行きましょうか。』
『すまんすまん、じゃあ行こうぜ。』
なんだかんだでみんな仲が良さそうで何よりだ。
しばらくしたらリーチでも出させよう。
とうとう冒険者3人組が二階層へ続く階段を降り始めた。階段でも壁や地面などを詳しく調べている。
別に罠なんて無いのに。
「なあリーチ、今からちょっくら二階層に行ってきてくれない?」
「別に構わないが一言行ってこいって命令すれば従うぞ。してあの冒険者達を殺してきたらいいのか?」
「まだ殺したらダメだよ。いろいろ情報を書き出さなきゃならないんだから。」
「なら生捕りにして拷問でもするのか?」
「する場所と器具が無いからできないよ。そもそも俺のいる階層でそんな血塗れになるような事したくないし。とりあえず会話を試みて出来たら背後にいる組織や国を聞き出してくるように。出来なかったら殺さない程度に痛みつけて追い出してきて。強い奴らがきても困るから。
3人組が二階層に進んだ瞬間、俺はリーチを出陣させた。
三階層へ続く階段の手前、二階層の一番奥で待機させてある。
リーチが俺と戦った時に使ってた聖剣はどこかしらに閉まってしまったのか無くなっていた。
替わりに召喚時に持っていた剣を正面に突き刺して仁王立ちしている。
あいつがダンジョンマスターっていうわけではないのだがまるであいつが支配者のように見える。
というのもリーチは少し前まで聖騎士団長を務めていたらしいからその風格も納得である。
画面をリーチから冒険者の方に移動させる。
するとそこには一階層の時と変わらず慎重に進んでいる冒険者の姿があった。
『さすがにこの地面はいくらなんでも歩きにくくないか?』
『確かに足場は他のダンジョンよりも悪いですね。この調子で迷路はきついっていうのもありますし、何より今回は寝泊り用の道具は一切持ってきていないので三階層を少しだけ様子見をしたら一旦帰りましょう。』
今でこそスライムはいないがもう少し進むとスライムがうじゃうじゃいる。
中には普通のスライムよりも強い変異種がいるので見ものだ。
『おい、スライム達がいるぞ。なんか紫色のよく分からんやつも紛れてるし。』
『あれは地下洞窟によくいる系統のスライムですね。変異種はこんなにたくさんいるのは珍しいですし紫色のスライムは初めて見ました。』
『切るのか?』
『そうですね。8割は倒して残りの2割を持って帰りましょう。絶対に変異種を全滅させないでくださいよ。』
『分かってるよ。大体2、3匹は残しておきゃあいいんだろ。任せろって。』
こうしてスライムと冒険者達の戦いが始まった。
結果を言うと冒険者達の圧勝だった。
魔術師は無詠唱で炎の弾をスライムに撃ちまくってるし、戦士はその手に持っている長剣で一刀両断だ。
盗賊は投げナイフを全てスライムの核に的確に投げ込んでいた。
皆相当なやり手だな。
『ちょうど変異種と通常種を2匹ずつ残せてるみたいですね。』帰りにでも拾いましょうか。』
『じゃあさっさと先に進もうぜ。』
『この先罠はないが禍々しい気配がする。恐らくボスだろうから気を抜くな。』
へえ、あの盗賊気配だけでボスかどうかわかるんだ。
他の二人は言われてから初めて気づいたようだけど。
『ここの道をまっすぐ行って一つ目の分かれ道を右、二つ目を左に曲がって直進するとボスがいるだろう。』
『了解です。では他の魔物が現れないうちにさっさと行きましょうか。』
『そのボスは斬っていいのか?』
『ダメですよ。これだから脳筋は。さっきから言ってますけど一応最初は会話を試みてダメな上に攻撃された時だけですよ。斬っていいのは。』
だんだんとリーチの方に近づいていっているのになかなか賑やかなようだ。
もしかしたらそれが絆を深める秘訣だったりするんだよな。
そうこうしているうちにあっという間にリーチの直ぐそばまで近づいてきた。
『おい、あれアンデットか?』
『そうみたいですね。すいません、そこのアンデットさん、聞こえていたら返事をしてください。』
『聞こえているぞ。冒険者共よ、ここに何しにきた。』